最高の目覚めとは? 最高の目覚めを経験した男、ブランコの話

タカナシ

最高の目覚めとは?

「おいおい。こんな場所までわざわざ来るとか、ご苦労なこった。確か新聞記者だったよな?」


 記者を名乗る女は名刺を取り出すと俺へと見せる。


「ふ~ん。本物みたいだな。まぁ、偽者でも構わないんだがよぉ」


 名刺には、マリ・ジューモンジと書かれていた。どうやら日本の記者のようだ。

 見たところかなり若く見えるが、東洋人系の顔立ちだと、実際の年齢はわからん。もしかすると俺より歳いっている可能性もあるしな。


「ブランコさん、世間ではアナタのことなんて言っているかご存知ですか?」


 俺? いったいなんて呼ばれているんだ。だが、こんな俺のことなんて、どうせ大した呼び名じゃあないだろ。


「ここ最近、テレビはご無沙汰でな。まぁ大方予想はつくぜ。どうせ怪人クモ男とかだろ?」


「いえ、そんな江戸川乱歩的な名前じゃないですよ」


「江戸川乱歩? なんだそれ? エドガー・アラン・ポーなら分かるが」


 俺は見知らぬ名前に訝しげな表情を浮かべる。

 まぁ、当然だろう。名前からも分るとおり俺はアメリカ人だ。


「コホン。すみません。話が脱線しましたね。ブランコさんは今、最高の目覚めを経験した男と呼ばれています」


 俺が? 最高の目覚めを経験した男。

 その言葉の意味を理解するまで、たっぷり10秒は要した。

 だが、理解した瞬間、俺は思わず爆笑した。


「初めにそう言ったヤツは誰だ! スゲーおもしれぇなッ!! 確かに俺は最高の目覚めを経験したわ!」


「ええ、ですので、是非、その体験を語っていただきたいのです!」


「ああ、いいぜ。久々に笑わせてくれた礼だ。話してやるよ。最高の目覚めに至った顛末を」



 あれはいまから1週間前だった。

 

 実は俺はちょっとした有名人で、いままで幾度となくテレビには出ていたんだぜ。

 この日は特に気合を入れた。なんせ今まで誰もやったことのない初の試みだったからな。


 過酷な道のりになるのは分かっていたから、しっかりと準備をする。

 俺は服装をしっかりと整え、髪もバッチリセットした。風ごときじゃ崩れないようにバッチリとだ。

 靴もいつも使うものを用意し、念入りに紐を結んだ。


 早朝、といってもまだ朝日が昇る前に、偉業を達する瞬間を残そうとカメラを設置した。


「さて、行くか!」


 ちょうど空が白み始めたころ、俺ははじめの一歩を踏み出した。


 次第に周囲には俺の偉業を一目見ようと観客が溢れてきた。

 なかには俺を邪魔しようとする奴らもいたが、そんなものに俺は屈せず頂点を目指した。

 道中はキツイ道のりだった。幾度となく諦めそうになったし、何度も死を覚悟した。


 それでも俺はやりきったんだ!


 目的の場所へ辿りついた時、俺は叫んだ!!


「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!」


 俺は咆哮をあげた所為で、酸欠になり、一瞬意識を手放した。

 たぶん、見ていた奴らも俺が酸欠になったのはわかっただろうな。


 俺はすぐに意識を取り戻し、近くの棒に掴まった。おかげで地面に体を打ち付けることはなかった。


 いや、今考えるとあそこで叫んだのが一番の失敗だった。

 まじに後悔している。


 ブルジュ・ハリファの頂上で叫ぶもんじゃねぇよな。



「ブルジュ・ハリファはドバイの超高層ビルで、828メートル。世界一高い建物ですね。流石にそんな位置で叫んだら酸欠になりますよ。やはり感情が抑えきれなかったんですか?」


「まぁな。ほら、山でヤッホーっていうのと同じだな。……たぶん」


「その後、ブランコさんは無事に降りられた訳ですが……」


「そうだよ。そうして投獄の身だ。だが、最も高い位置で目覚めたから、最高の目覚めを経験した男って言われるんなら、なんにも後悔はねぇな」


『最高の目覚めを経験した男、ブランコ』


 うん、悪くないな!

 俺はこのネーミングを考えた奴に心の中で感謝した。

 てっきり、スパイダーマン的なネーミングか頂上失神野郎みたいなどうしようもない名前になると思っていたからな。

 気に入ったからもう1回言うぜ。

 俺は。


『最高の目覚めを経験した男、ブランコ』だッ!!

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最高の目覚めとは? 最高の目覚めを経験した男、ブランコの話 タカナシ @takanashi30

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