最後の3分間

雅島貢@107kg

俺たちは限界スレスレで生きている

 社会適応的な性質と社会不適応な性質があって、これは不適応な方が損はしますが、優劣はないということは流石に現代を生きる皆さんはお分かりいただけると思うんですよ、そこは大丈夫ですよね?


 と言いますのは、例えばいっちゃん分かりやすいところで言うと、血液型とか。O型は結構数が居るわけで、なんかがあってもすぐ血が貰えるわけですが、ブラックジャックでお馴染みAB型のRH-、工事現場のおっちゃんとどっかの社長がたまたま一致したアレ、とかは血が足りなくなりがちで、まあそういう意味では不適応なわけですよ。損してる。でもじゃあAB型のRH-なのは損してんだから治しなさいとか、そういう話にはならないじゃあないですか。血を入れっかえなさいとか。


 ただ、AB型のRH-なんだから、大怪我しないように気をつけんのは当たり前でしょみたいなことを言ってくる輩はいて、そら自分の側が気をつけるのはまあ分かりますけど、あんたには言われたかぁないわけですよね。そういう人間を怪我させないようにみんなが気をつける、あるいは、万一怪我してもケア出来るように血液を適正にプールしておいたり、人工の血を作ってみたりですよ、そういうことをするのが文明社会ってもんじゃあないんですかと。O型だったら怪我してもいいけどAB型は怪我しちゃダメだよとかめちゃくちゃな話じゃあないですか。本来全員ダメなんですよ。でもしちゃうのが怪我ってもんでしょ。


 また、たとえば適応的、ハッピー、と思ってたO型がね、世界が最終戦争の炎に包まれてご覧なさい、たちまち万能輸血袋となって狩られる対象になるわけですよ。これはマッドマックスの話ですけど。その段になったら、「いや、文明社会とは……」とか説いても無駄だと思うんで、諦めて血の袋として暮らして行こうと思いますけどね。かように、何が適応的で何が非適応かなんてのは時と場合によって変わるわけです。前に蛾の話をしましたね。


 で、体型が非適応である話は散々してますし、それは別立てのエッセイでも死ぬほど書いてますからお分かりいただいているとして、今日は遅刻の話をします。


 先日、ツイッターでなんか、遅刻王みたいな人が遅刻する人の気持ちを書いたら死ぬほどぶったたかれ、最終戦争の炎に包まれたことがあったんですよ。それ見てたら俺は遅刻魔なのでとても怖かった。怖かったのでツイッターでは言いませんけど、まあここなら人も少ないし良いかなって思って言いますが、いいですか。遅刻しない性質の方が社会にとって適応的なことはわかりますよ。でも、遅刻する性質が劣ってるかったらそんなことはないんです。


 ないことにしておかないと、文明というものは立ちいかないんです。仮に劣ってるとした場合、排除の対象になりますからね。次は五分前行動ができないやつは劣ってる、排除、〆切直前に動くやつは劣ってる、排除、みたいにエスカレートしていって、きちんきちんと時間通りに動くやつらばっかりが地上に蔓延って、少しでも時間にルーズな人間が地下で延々長い棒を鞭打たれながら回すようになってくわけですよ。それで、ああ世の中が清潔になって良かったなぁって思ってたらですよ、突然宇宙人かなんかが襲来してきてですよね、とにかく雑にでいいから爆弾かなんか作ってぶん投げないと撃退不可、みたいになって、でもそんとき地上に残ってんのは、決まったことをオンスケでやるのは大得意だけど、何やるか決まってないことを、雑に時間までにぶち抜くみたいなのは苦手な人間ばっかりかもしんなくて、そしたらあなた、地球人類は結局全員棒を回すか、良くて展示物になって終了ですよ。


 すると皆さんはこう思われるかもしれないですね。何も排除するとは言ってないと。ただ、遅刻する方が偉そうにすんな、申し訳なさそうにしろ、と。


 それが排除だっつってんだバーカ!


 というのがもっともこの後の話を短縮した結論なんですが、流石にね。それはね。いきなりはね。なので、もうちょい詰めて行こうと思います。

 

 まず、一人で遅刻してる場合を考えましょう。電車に乗り遅れて、楽しみにしてた観劇を見逃したとか、そういう人間がいたとして。これはもうただただそいつが損してるだけであって、皆さんも「愚かなやつだな」と思う程度で、ま、当人が真剣に悩んでるんであれば何か対応策を検討したり、余裕があればモーニングコールをしてやったりするかもしれませんが、別に怒りはしないでしょう。ここで「いや、反省しろや」とかキレだす人間がいたら、なんたら心の狭い人間かって誹られるのはキレた方。そら確かに遅刻した側がいつまでもぐちぐち言ってたら、もうこの話聞きたくねえなと思うのはわかる。それはあなたの自由ですが、「遅刻そのもの」を責める理由にはならないわけです。だってそこは損してないでしょう。


 ほいで、問題は、二者以上が関与して、かつ一人が遅刻する場合ですが、ここでね。そいつがたとえばなにがしかのチケットを持ってますと。にもかかわらず来ないですよと。これは困りますな。明白な損失です。これはまあ怒っていいし、それでも間に合ったじゃん、という場合でも、間に合わないかもしれなかったことによる不安フィーはどうなるんだって交渉は許されると思う。


 それ以外の場合、すなわち、事前にチケットを取ってないとか、取ってるけど間に合ってる側が持ってるとかね。この場合は、そいつが一人で遅刻したのと同じ事象になるわけですよ。え、違う? そいつと一緒に観たかったんですか? ってことはですね、それは「遅刻」という一点を除けば、一人で行くよりそいつと行った方が、あなたにとってもなんらかの利得があったわけですよね。どんな利得かは知りませんけども。一緒に居たら楽しい、一人で映画館に行くのは恥ずかしい、こいつと今後の関係を持っておかないと業務上困る。どの場合であっても、一緒に行く方に得がある以上、一定のリスクは許容すべきであって、コストとリターンが兼ね合わない場合は今後コストを支払わなくすれば良いだけのことです。何も怒ることはない。あなたが時間通りに来ればわたしはリターンだけを享受できたのに、ってのはさ、自分勝手な話だと思いません? 逆に?? なんか得しようとするならば、通常はそら一定のリスクはついてきますよ。遅刻者と行動することにリターンがあるならば、コストは許容すべき。コストがリターンを上回るならば、そもそもそいつを誘うな。あるいは誘いを受けるな。


「いや、だって、人間関係ってものがあるでしょ。そこで断れる人はいいですけど、僕は断れないんです」

 ってのは完全に負け筋で、いいですか、それはあなたの「性質」でしょ? 断れる人間、たくさんいますからね。ツイッターなんかにはそういう武勇伝が溢れかえってるでしょ。理不尽を言語によって跳ね除けましたみたいなやつ。それが出来ない「性質」を持っていると言うことでしょう、あなた自身が。違います? その「性質」に由来して、遅刻魔の誘いを断れないあなたが、遅刻しがちという「性質」を批判し、怒るんですか? こっちは怒ってないですよ。にもかかわらず? そんな権利があるんですか?


 まとめましょう。まず、一人で勝手に遅刻してるやつはあなたに何も関与しないわけです。一緒にどこかに行くときに、相手が遅刻するかもしれないというリスクに支払うコストよりも、リターンの方が大きい場合は、そもそも怒る理由がない。なんでコストを払わないといけないんだと思う人間は、遅刻する人間とのリターンを切ればいい。別にリターンとかないけど、仕方なしで付き合ってるんですという人は、じゃあそれはそれで不適応な「性質」ですよ。損してて気の毒ですが、同じく不適応な「性質」を持ってる遅刻者になんで怒るんですかと。少なくとも双方向に怒られが生じるべきでしょ。


 ほらね。基本的に遅刻する人間に怒られる謂れはないわけですよ。唯一あるとすれば、たとえば観劇に行ったとして、劇側が遅刻するって場合ですかね。これはまあ、客は怒りますわね。時間合わせて来てるのに、なんで向こうが遅れるのかと。金を払ってんのはこっちだぞと。これに関してはもう、ただただ、平伏して謝るしかないですね。本当に申し訳ありません、気をつけてはいます、いるんですけど。


 だからこれは性質の問題であって、俺たちは限界ギリギリに生きてるんですよ。たとえば、12:00が待ち合わせの時間ですよ。じゃあ、12:00に着くにはって考えるんです。11:55とか、あまつさえ11:30に着こうなんて微塵も思わない。これが全てに適用されて、12:00に着くには、10:00には家を出ればいい、と思ったら、家を出るかーそろそろと思うのは良くて最後の3分間、9:57とかで、通常は10:00にそろそろ出るかーと思って、この瞬間に遅刻が確定するわけです。そんなん気をつけてやれよって言うなら、あなたも気合い入れてこういう人間との付き合いを断ったらいいんですよ。「イヤァ、そのゥ、それができたらやってますよ」? 俺らもできたらやってんだよ! 全く同じ! 喧嘩両成敗!


 分かっていただけましたかね。本当は全然別の話を書こうと思ってたんですが、こりゃあ今からじゃあ間に合わないなって思ったので、得意のスタイルで参りました。ああ、マズイ、もう最後の3分間になりますので、投稿ボタンを押しますね。ぽち。


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