異世界へと引きずり込まれる魔法の書

 三人の獣を宿す男たち。
 ガイとアベル、幼少期に生死の選択を迫られるほどの環境で、生存本能ともとれる獣を出さざるを得ないほどの生き方をしてきた二人。
 ガイアケロン、獣を抑え込み、コントロールし、心の平穏を保ち、それは人格者、カリスマを放ち、人々を引き付ける。 
 かたや、まだ獣に怯え、自らが獣に染まりきるのではと恐れ、そんな自分では愛も叶わないと下碑し、受け入れられない。戦いの中では、獣に頼った闘争心で戦うアベル。戦乱に身を置き、達しきれないアベルにとって、恥じ入り、軽蔑すべき獣の心も、生き残るためにも手放せない。そのジレンマに一人苦しむ。
 そして二人に、立ち塞がるズマ。
 獣に飲み込まれ人としての姿さえない。
獣を宿す三人、それぞれの心の獣への向き合い方で、様々な人格が形成されている。
 先達のガイに出会ったことで、どのようにアベルが成長するのか、どのような変化を見せるのか。
 求道者のごとく道を進むイース、ヨルグのような闇に陥る前にアベルは、人としての幸せと愛を伝えられるだろうか。
 カチェの女としての、艶めかしくも真っすぐな気持ちは、報われ、熱い心のやり取りを、我々読者に見せてくれるのか。
 登場人物達の、関連性が深まっていくなか、これからの展開が楽しみです。
 卓越した情景描写、作家独自の比喩表現、登場人物の心奥底をきめ細かく、描きあげ、生きた生々しさ、さえ感じさせる。