最後のモンスター達と伝説のトリ

にゃべ♪

捕まったドラキュラ

 そこはモンスターが虐げられている世界。ドラキュラは伝説のフクロウ、トリに乗って飛び出した。トリの記憶を頼りに天空の楽園と言う場所を安住の地に定めた彼は、この地に仲間を集めようと行動を開始する。

 生まれ故郷で成果を得られなかったドラキュラは、ハンターを警戒しつつ、まだ人がいない場所を中心に探索を続けていた。


 人がいなければモンスターがいる――そんな単純な話でもなかったため、この作戦も簡単には実を結ばない。過疎で捨てられた村、山奥、無人島。かつてはモンスターが使っていた城……。

 ドラキュラの記憶にある場所はあらかた探したものの、そのどこにもモンスターはいなかった。


「もう野生のモンスターはいないのかな……」

「諦めるのはまだ早いホ! 世界は広いホ!」

「だな……」


 トリの背中に乗ってドラキュラは人の繁栄する街を見下ろす。昔はどの街にもモンスターがいて、不思議な共存関係を築いていた時代もあった。人とモンスターの力関係が崩れるまでは――。若いドラキュラはその時代の頃を知らない。


「トリ、お前の記憶の中でモンスターはどうだった?」

「俺様もよく覚えていないホ。ただ、人と共存していた時代もあった気がするホ……」

「共存ねぇ……ん?」


 モンスターを探していたドラキュラの目に仲間の影が映った。愛玩用に品種改良されたモンスターが逃げ出したのだろうか。

 貴重な仲間の発見だと、彼はトリに指示を飛ばす。


「あのモンスターを助けるぞ!」

「了解ホ!」


 フクロウはそのまま地面に急降下。地面が近付いたところでドラキュラは飛び降り、その小さなネズミモンスターに手を伸ばす。

 彼がモンスターを触ろうとしたところで、どこからともなく拘束具が飛び出して身動きが取れなくなってしまった。

 それで、ドラキュラはこれがハンターの罠だと気付く。


「トリ、逃げろ!」

「分かったホー!」


 彼の言葉を聞いたフクロウは現場を離脱。何とかハンターの魔の手から離脱する事に成功する。とは言え、相棒を見捨てる事は出来ず、ある程度の高度を保ってホバリングしていた。

 トリが見下ろしていると、罠を仕掛けたハンターが現れる。


「野生のドラキュラじゃん。まだ生きてるのがいたんだ」

「こんな罠、俺にかかれば……あれ?」


 彼は得意の能力でこの罠から抜け出そうとするものの、その力が出ずに困惑する。


「バーカ、この辺り一帯はモンスターの異能を封じるジャミングが効いてるんだよ。だからお前はもう逃げられない」

「な、何……?」

「おーい! そこで浮いている鳥モンスター! こいつを助けたければ仲間を呼んできな! 交換だ!」

「ば、馬鹿、話を聞くな!」


 ハンターは上空で浮かぶフクロウに話を持ちかける。迂闊に返事は出来ないとトリは沈黙。

 返事が返って来ないので、ハンターはさらに条件を追加する。


「1時間だけ待ってやる。時間内にモンスターを用意出来なければこのドラキュラは殺す。分かったらとっとと呼んでこい!」


 こうしてドラキュラは人質にされてしまった。本来、フクロウの能力があればハンターなんて簡単に倒せるはず。

 けれど、無効化装置の範囲が予想以上に広範囲だったら……。残された1時間で何とか対策を練ろうと、トリはその場を離脱する。


 離脱したフクロウがまず最初に行ったのは、助けてくれそうな仲間探しだった。同じモンスターならきっと協力してくれると、今まで探した事のないエリアを中心に目を凝らしながら仲間を探す。

 しかし、そんなに都合良くモンスターは見当たらない。タイムリミットがあるため、フクロウは焦るばかりだった。


「あれ? あなた……トリさん?」

「ホ?」


 一瞬の油断が命取り。トリが仲間探しに低空飛行をしていたところで知り合いに捕まってしまう。そう、モンスター保護官のリホだ。

 彼女は体長30センチの丸っこいぬいぐるみ状態のフクロウを抱きしめると、嬉しそうに頬を擦り寄せる。


「会いたかった~。やっぱりトリさんかわいいっ!」

「は、離すホ! 今はそれどころじゃないホ!」

「あれ、そう言えばドラキュラは? 一緒じゃないの?」

「そ、それはホゥ……」


 観念したトリは事情を全て吐き出した。仲間を探していた事、ハンターの罠にかかってしまった事、1時間で仲間を呼んで来いと言われた事――。

 彼女は最後まで黙って、真剣な顔でフクロウの話に耳を傾ける。


「分かった、協力する。一緒にドラキュラを助けよう!」

「本当かホ?」

「私はモンスター保護官だよ? 酷い目に遭っているモンスターを助けるのも業務の内!」


 リホはドヤ顔で胸をドンと叩く。彼女のモンスター愛は信じられると、トリの顔に笑顔が戻った。


「助かったホ! 是非力を貸して欲しいホ!」

「まーかして!」


 こうして巨大化したフクロウにリホが乗り、急増コンビによるドラキュラ救出作戦が始まる。もう残り30分を切っており、時間との勝負になっていた。


「すっごーい! トリさんの背中から見る景色ってこんなだったんだね」

「急ぐホ! 寄り道出来ないホ」

「あ、ちょっと待って」

「ホ?」


 彼女に作戦があったのか、トリはその指示に従う。ストレートに現場に戻らなかったのもあって、ドラキュラのもとに2人が向かった頃にはもうタイムミットが近付いていた。


「後3分だぞ! 来ないなら殺す」


 ドラキュラを捕まえたハンターは虚空に向かって声を張り上げる。ハンターは本当に彼を殺すつもりなのだ。死体やら臓器やら、生体取引をするより金になるからだ。

 トリを脅したのは、上手く行って更に追加でモンスターが手に入ったらもっと実入りが良くなる、その程度の考えだった。このままトリが戻ってこなくてもハンター側は痛くも痒くもない。

 調子に乗ったハンターは、時計を見ながらカウントダウンを始める。


「150秒……140秒……」

「そこまでよっ!」


 暗闇の中からリホが現れた。モンスター保護官は時にモンスターを狩るハンターとも戦うため、対ハンター用の装備も用意されている。

 その装備で、リホはこのハンターを拘束しようと試みた。


「保護管かっ!」

「モンスターを不当な方法で傷つけるのは許さない!」


 彼女は足のアタッチメントで高速移動し、ハンターに急接近する。このまま取り押さえれば保護官の勝ちだ。


「残念だったな。お前らが邪魔するのも想定内だ」

「うっ……」


 リホがハンターの服を掴んだ次の瞬間、別のハンターが彼女を攻撃する。そう、ハンターは1人じゃなかったのだ。

 不意打ちを食らったリホは、その場にばたりと倒れ込んだ。


「どこで俺達の動きを掴んだのか知らんが、そこで大人しくしてな」

「くっ……」


 助けに来た彼女も捕まってしまい、事態は振り出しに戻る。リホはドラキュラの隣で拘束されていた。それはハンター側からの嫌がらせでもあった。保護対象のモンスターを至近距離で殺し、その反応を楽しもうとしていたのだ。

 隣に越してきた新客を目にしたドラキュラは、冷たい視線を浴びせかける。


「……お前、何やってんだよ」

「助けたかったんだよ、あなたを」

「捕まってんじゃねーか」


 助けようとして捕まっていたんじゃ世話ないと、彼は憎まれ口を叩く。捕まったと聞いて心配していたリホは、元気そうな彼の姿を見て安心する。

 そうして、ご機嫌斜めなドラキュラに向かってニッコリと微笑みかけた。


「でもね、きっと大丈夫だから。安心して」

「あのカウントダウンが聞こえねーのか? お前は殺されねーんだろーけど、俺は後1分ちょいで……うわあ!」


 彼が自分の命の残り時間を気にして悲観していたところで、突然派手な爆発音が響き渡る。どうやら近くで爆弾が爆発したようだ。この突然の展開にドラキュラは動揺する。

 しかし、混乱していたのは彼らを拘束していたハンター達も同じだった。


「何事だ!」

「ヤバい、装置が破壊された!」

「な、なんだって~っ!」


 この爆発騒ぎに全く動じず、それどころかニヤリとほくそ笑むリホを見たドラキュラはこのからくりを理解する。


「お前の仕業だな」

「驚いた?」

「一体何をぶっ壊したんだよ」

「それはね……」


 話の途中で、混乱の極まったハンターがドラキュラに銃口を突きつけた。


「これはお前の仲間の仕業か? なら今から殺してやる!」

「そうはさせないホーッ!」


 パートナーのピンチにトリが超高速で駆けつける。そうして口から超音波的なやつを吐き出してハンターを倒しつつ、2人の拘束も破壊した。

 無事自由を取り戻した2人はトリの背中乗せられ、大空を高く舞い上がる。


「破壊したのは能力無効装置だったのか」

「そ、ハンター達、違う場所に4つも設置してたから時間がかかっちゃって」


 リホはドヤ顔で自分の仕事っぷりを自慢する。そうして、タイミングを見計らってトリが会話に割って入った。


「ねぇ、リホを楽園に連れてっていいホ?」

「おま、そんな事まで話したのか?」

「私も行ってみたい! いいでしょ、助けてあげたんだし!」

「……分かったよ」


 命の恩人の頼みは断れないと、ドラキュラはポリポリと頬を掻いた。了承を得たフクロウは更にぐんぐんと上昇する。やがて見えてきた空の一点を突破し、無事天空の楽園に到着した。初めて見るその景観にリホは感嘆の声を上げる。

 時間はすっかり夜になっていて、満天の星空が一行を出迎えていた。


「ここがそうなんだ。星が綺麗!」

「飽きたら帰れよ。送ってくから」


 ドラキュラは夜空に感動する彼女に声をかける。しばらく天空ショーに感動していたリホは意を決して、隣で手持ち無沙汰状態の彼の顔を見つめた。


「決めた! 私も手伝うよ! モンスター探し」

「は?」

「あなたが何と言おうと、もう決めたからね!」


 こうしてドラキュラに新しい仲間が加わった。モンスター保護官の経験と知識はきっと彼らの助けになる事だろう。

 ただ、友好的とは言え、そこは人とモンスター。ドラキュラはこれから彼女とどう接していいのか、距離感に悩む羽目になったのだった。



 次回『研究施設の長い夜』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888957993/episodes/1177354054888958492

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最後のモンスター達と伝説のトリ にゃべ♪ @nyabech2016

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