3分間だけ最強になれるなら

篠騎シオン

≪有利≫というカード

自分の才能というのに嫌気がさしたことはあるだろうか。

俺はある。

ちょうど1年前の俺がそうだった。

この力なら、俺のスキルなら、確実に勝てると思ってた。

でも、違った。上には上がいた。

頭のおかしい反射神経、反応スピード、コンピューターばりの計算された行動。

そう、ゲームの世界には常識を超えたやつらがごろごろいた。

ちょっとやそっと流れを有利にできるカードを持っていたところで、奴らはそれを容易に覆してくる。


怖い。

初めてゲームの世界大会の舞台に立った時に感じたのはそれだった。

銃で撃ち合い殺しあうフルダイブゲーム。

コントローラーで操作するゲームと違い、自分の恐怖は手や足の震えに現れる。

銃で相手を狙うのは一際難しくなる。

初めての世界大会は初戦敗退。

1回戦の終了間際、優勝候補の一人に追い詰められて終わり。

位置的には有利な場所にいて、狙いも悪くなかったのに、ソイツは俺のライフル弾を何度もよけた。にやにや笑いながら間合いを詰めてきたその様子に、俺は震え、

そいつが俺の隣に現れたときにはすでに、俺は……震えながら降参を選択してしまっていた。

とまあ、そんなこんなで俺の世界での初戦は散々だった。

それに、俺があんなに恐怖した相手でも決勝出場どまり。恐ろしいことにさらに上がいるらしい。

んで、失態をさらした俺は、考えた。

あいつらの極限の集中力には、ただちょっと状況が良くなる、なんてカードじゃ勝てない。

では、どうする?


能力を極限まで濃縮する。

それが俺の答えだ。

ただの有利というアドバンテージを捨て、極限まで能力を集中させた結果、

俺は3分間限定の、最強の力を手に入れた。

弾の届く範囲に人が入ればわかり、その相手の動き、思考さえも手に取るようにわかる。こちらの狙いは正確無比。外すことはない。相手がよけるとしても、あらかじめその位置に打ち込めばいいだけのこと。

ただ一つ最も大きな問題はそれが3分しか持たないということ。数時間は再使用できない。

10分の試合だったら7分間はカードの力なしで戦わなきゃいけない。

おっと、3分で終わるゲームに転向したらどうだって、いう言葉は受け付けない。

あんな失態をさらしたこのゲームの中で、俺は勝ちたい。

君なら、3分の最強をどう使う?



「答えは、これだああああ」

そう俺は叫びながら銃を乱射する。

このゲームは一度殺されたら終わり。

最初の3分間で敵を殺し切ればいいのだ。

準決勝までのフィールドはあまり狭くない。

アビリティを移動速度にガン積みし機動性を上げて、3分以内に殺しまくる。

最強の力の前では、異常な反応速度を持つそいつらも、敵じゃなかった。

面白いほどばったばったと死んでいく、快感。

俺はそれに酔いしれ、ひたすらに殺しまくった。



「これでいいんだよな」

決勝戦前。一人一人に与えられた控室で俺はポツリとつぶやく。

敵の情報は頭に入れ、同ブロックからの決勝進出者は一番弱そうなやつに調整。できることはやったはず。

なのに、体がぶるぶると震えている。おそらく、武者震い。

優勝して汚名を返上するために俺はここにいる。

ただ、決勝戦は今までのようにいかない。フィールドが広すぎて、いくらアビリティを積んだ速度で走り回っても3分ではカバーしきれない。

だから、カードの使いどころを見極めなきゃならない。

「決勝開始まであと30秒です。待機地点への自動転送を開始します」

控室内にアナウンスが流れる。俺はゆっくりと目を開け、戦略を確認する。

『7分間、耐えて生き残って見せる』


「決勝、スタート!」


ブザーとともにSTARTの文字が俺の前を踊る。

俺はただ、ひたすらに逃げ、隠れることだけを考える。

決勝戦はつわものぞろい。だが、このゲームの上位勢は索敵よりも自分自身が生き残るためのスキルに振っているやつが多い。銃を使ったゲームなのになぜか、迫力ある近接戦闘が繰り広げられる。

だから見つからずに、時間を耐えきれば可能性はある。

2分ごとにエリアは狭まっていく。残り時間2分になんとかカバーできる広さになる。

俺は、物陰に隠れ、ドキドキする心臓を必死に押さえつける。

周囲の状況を確認しながら、ランキング画面も確認する。

俺はここに隠れるまでにスタートから1分近く。

現在生き残っているのは、決勝進出者20名のうち18名。

「あ。こいつまだ生き残ってるのか」

生存者リストの中に自分が決勝まで連れてきたプレイヤーを見つける。

どうも覇気のないこういうゲームをするのにむかないような、ぼんやりとした女。ライフルを構えているところを見たことがない。ほとんどずっと、ぶらぶらと銃を背負っているだけ。

すぐ殺されると思っていたので、少し感心する。

残り時間8分30秒。エリアは2分ごとに狭まる仕様。そろそろ移動タイミングだ。俺の今いる位置は、まだ大丈夫だが、あまり端のほうにいすぎると、移動の際に狙い撃ちされる可能性がある。

プレイヤーの位置情報はマップ上に詳しくは表示されないが、エリアが狭まるごとに、プレイヤーのいるエリアの情報が更新される。


俺は、周囲の安全を確認しながら、次の潜伏場所へのあたりを付ける。

エリア情報の更新とともに移動を開始する。

「エリアが狭まります。プレイヤーのエリア情報が更新されました」

通知。これできつい7分のうち、2分はやり過ごした。

OK、あと5分。

俺は、エリア情報を確認する。自分の行こうとしているエリアに敵はなし。プレイヤー同士の位置関係からして、あえてこっちに来る奴もいないだろう。

俺は、そう判断し、移動を開始する。


残り6分。

再び、エリアが狭まり、情報が更新される。

生存者9名。

どうやら、またあの女は生き残っている模様。しかも、同エリアにいるプレイヤーが全員死んでいる。うまく棚ぼたしたのだろう。


残り4分。

あと1分で無敵が使える。

自分でもよくもここまで見つかってないなと思う。

ダメだダメだ、気を抜いたらやられる。

もうエリアはかなり狭く、生存者6人。優勝を狙うには、この中であと1分は逃げ切らなくてはならない。

「場所、移動しとくか」

潜伏している時よりも、足を動かしている分心臓の音が聞こえない。

少しずつ、周囲をクリアしながら、動くときは素早く。

そうやって移動を繰り返す。

「この辺なら安全か?」

俺がふっと息を吐き出し、腰を下ろした刹那。

一発の銃声。

俺ははっとして耳を澄ます。音は続かない。

この感じは一撃で仕留めた? 唇をなめ、考える。

銃声が聞こえたということは、俺自身も弾の届く範囲に入っている可能性が高い。相手が俺に気付いていなければやり過ごせる可能性はあるが、今いるエリアはスキャンのときと同じ。相手も俺がいると警戒している可能性が高い。

「これは、まずいな」

残り時間は3分20秒。あと20秒、稼がないと……。

「ん!」

銃声とともに、隠れていた建物に弾が当たる音。

ダメだ、気づかれてる。でも、こちらには遮蔽物もある。近づいてくるまではまだ数秒、時間もあるはずだ。

俺は、装備品一覧の中からシールドを選択する。電子シールド、どんな弾でも一撃だけは防いでくれる。保持時間30秒。

目の端で残り時間のクロックを見る。

3分15秒。シールドが張られる。

ただ、隠れているだけではらちが明かない。

一発目をシールドで無効化できたとしても、動ける状態になければ二発目を食らって終わり。

「じゃあ、勇気出していくしかないな」

俺は覚悟を決める。敵を十分に引き付け、シールドを展開した状態で、敵の前に飛びだす。

残り3分3秒。

敵のぎょっとした顔が目に入る。ただ、相手も決勝進出者。すぐに体制を立て直し、こちらを狙ってくる。

3分2秒。

俺の弾は当たらず、敵の弾がこちらに当たり、シールドが消滅する。自分のエイムに泣きたくなる。

3分1秒、敵が次の弾を撃ってくる。


ああ、もう、ここだ。

ここで行くしかない。


俺は、カードを発動させた。

弾をよけ、襲ってきた敵を排除し、そのまま、弾の届く範囲にいる敵を一人排除。

生存者残り3名。

あと2人倒せば勝ち。

無敵をのぞいた試合時間は1秒。その直前まで弾の届く範囲すべての敵を警戒できる俺は、勝てない可能性はあるが負けるはずもない。

ガン積みしたらアビリティで、俺は走る。

さらに一人見つけて、殺す。今の奴は、ここまでに何人も殺していたようで、かなりのポイントが入る。これで、ランキングでも一位になり、負けはなくなった。

生存者リストの残りは2人。俺と、なんと、あの同ブロックから来た女。

俺は、その名前を見て、ふっと笑う。

俺はこんなやつに負けるはずはない。

こいつは、俺が勝たせてやらなきゃここにもいないはずなんだから。

一応警戒しながら、奴を探して走り回ったが、見つからない。

もう、負けはないんだ。

荒野のど真ん中にドカッと座り、微笑む。

はじめての世界大会から今までのことを思い出す。

ここまで能力開発するのは、本当に大変だった。

それが、今報われる。


クロックは残り時間0秒を告げようとしていた。









バスケットボールの一番かっこいい逆転劇は、

残り時間0秒で逆転の3ポイントシュートを決めることだと俺は思う。

そして、このゲームでも0秒で放たれた弾丸は相手を貫く。

敵は、俺の無敵が切れるラスト1秒で射程範囲内に入り、荒野に座る俺の頭を正確に狙った。

ブザーの直前に放たれた弾丸は、終了の硬直の中にいる俺を襲う。

頭を打ちぬかれたのだ、俺がそう理解したのは、目の前に踊る準優勝の文字を見てからだった。

俺は、小さくため息をついていう。

「あーあ、ゲームって難しい」

でも、最強の力を使って優勝を確信してなお、それをかいくぐって自分を倒してくるそんな敵に、俺は、たまらなくドキドキするのであった。

たぶん、俺はこれからもゲームをやめない。

最強の3分を手に入れたら、君ならどうやって使う?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3分間だけ最強になれるなら 篠騎シオン @sion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説