最終話 凛寝
「あぁぁ…」
綺璃子の身体がズルッと崩れる。
そして獣の身体も…
「俺は、スライムには詳しんだ…館に俺を放り込んだのは失敗だったな、オマエの部屋にはシャワールームが無かった…スライムは雨の日に活発に動き回る」
桜はナミを抱え上げて部屋を出る。
「コトネ…オマエはどうする?」
「此処で…」
コトネはグジャグジャと床に溶け出す綺璃子を立ったまま眺めていた。
「ダメ!! 一緒に…ね」
ナミがコトネに手を伸ばす。
「ワタシは…」
何か言いかけたコトネの言葉を桜が遮った。
「オマエには責任を取ってもらう、今は俺と来い」
黙ってコトネは桜の後に続いて部屋を出た。
「コトネ…ナミを連れて宿舎に戻れ」
「桜?」
ナミが不安そうに桜を見る。
「心配ない…コイツ等を始末してから、すぐに俺も戻る」
「絶対?」
「あぁ…約束だ」
………
「桜、遅いね」
部屋でシャワー浴びてチョコを食べているナミ。
「戻るさ…」
コトネは窓の外を見ている。
それから数時間後、桜は宿舎に戻ってきた。
「コトネ…」
桜がコトネを部屋の外へ連れ出した。
しばらくして、戻ってきたのは桜だけ、
「コトネは?」
「仕事を頼んだ…少し疲れた…」
ガクンッと膝から倒れた桜をナミが支えて、ベッドへ寝かせた。
「桜…」
ギュッと桜の左手を握り締めるナミ。
………
一週間が過ぎて、コトネが戻ってきた。
「準備が出来た…学徒といえど、苦労したわ」
「あぁ…だろうな」
「今日の正午過ぎに打ち上げだそうだ…見に行くか?」
「いや…興味ない」
「そうか…そうだな、後…もう一つの準備も進んでいる、まぁ、コッチは順調だが…それでいいのか?」
「構わない…俺は…もう…」
「そうか…」
………
さらに2週間が過ぎて、桜は港にいた。
「いいんだな?」
コトネが桜に確認するように尋ねる。
「あぁ…戻るさ、そのうち…今は、この遺骸を南極へ捨ててくる、氷の下に沈めるさ…俺の父親を…」
「フッ…父親は氷の下、母親は…空の上か…」
コトネが笑った。
桜は、弾道ミサイルを手配させたのだ。
軌道は空の彼方を抜けて宇宙で爆発する。
ミサイルにはカプセルが2つ取り付けられている。
ひとつは『終末の獣』が溶けた溶液、もうひとつのは『綺璃子』が…。
「もう…地球には戻れない…永遠に空から地球を眺めていればいい…軌道を外れて何処かへ漂い続けるのもいい、エデンとは程遠い地へ運ばれればいい…悪しき箱舟の行く末など、俺は興味ない」
桜がコトネに告げた。
「ナミを頼む」
「解っている…今日は、ふて腐れて此処には来なかったわ…あの宿舎で待っている」
「あぁ…頼む…必ず帰ると伝えてくれ」
「影親…いや…なんでもない」
コトネの視線は桜の左手に向けられていた。
桜は左手だけ皮の手袋をはめている。
「あぁ…ヒトでは…あんな化け物の相手は出来ないさ」
「すまない…」
「いや…覚悟の問題だ、俺はヒトで在り続けたい」
桜は船に乗り込んだ。
「船長、長旅になる…頼む」
船長に挨拶して桜は自室へ向かった。
雇い主である桜の部屋は広い、扱いもVIPではある。
ただし、船の中では何もできないお客でしかない。
(久しぶりに独りで、ゆっくりできると思えばいいさ)
桜の部屋のドアにネームプレートが張ってある。
『KAGECHIKA SAKURA』
その下にマジックで
『アンド ナミ』とカタカナで書かれている。
「桜、遅いな? 船乗るの初めて…酔い止め持って来たけど足りるかな?」
ベッドの上にチョコンと座って、大きなキャリーバックからチョコレートを取り出して食べているナミ。
(ペンギン…持ってこれるかな?)
………
『桜の旅行に付いて行きます ナミ』
宿舎の部屋、鏡に張り紙が張ってある。
「フッ…」
コトネが張り紙を見て笑った。
fin
ボトムズ 桜雪 @sakurayuki
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