第2話



人間神キリエ外伝

£女神のファンタジー£



さくら さくら やよいの空に 見渡す限り






木 川 女子 《さくらこ》という女性が


桜の木の前に立っている




さくらこ は、桜が咲くと みんなにも見える さくらの妖怪だった。


さくらこは、桜の花が乱舞するまで、ひたすらに春を待つ……

わけではなく、

どこにでもいるような、女学生だった。

ただひとつだけ、みんなと違うのは、彼女は歳をとらないこと。

愛くるしい丸い瞳に、桃色の頬と、乳房、乳白色の、青磁よりもビスクドールよりも透明な肌、白魚の細指は、ほんのり肉付き、長い脚は、すっくりとワンピースの下から伸びている。

髪は、薄紫がかって見える栗毛で、瞳は、グレーがかったエメラルド。 こんなに、美しい妖怪って滅多にお目にかからない。

そんな妖怪、いる?

でも、いたんです。さくらこ は、桜の樹齢が百年になるまで、その樹のもとで暮らし、彼女が立ち去ると、とたんに、その樹は年老いてしまうのだった。


つまり、さくらこは、何歳なんであろうか?


今まで、お世話をしていた桜が、少なくとも、20本だから、ざっと2000歳ということになるのかな。


歴史的には、キリエが生まれてから、数十年だろう。



そのときの話をしよう。


キリエは、今では、イエス・キリストのことを指すのだか、さくらこがこの世に生を受けたとき、キリエは、ようやく大人になりかけた、青年の時代にあった。


そのとき、キリエは、予言ではなく、噂を耳にして、さくらこ、という、この世のものともいえぬ美しい赤ん坊を、この手に抱き上げ祝福されるために、旅に出た。

それは、遠い東の國。

東の、海に浮かぶ、不思議な形をした島。

それが今でいう日本列島。当時、キリエの國では、日本の呼称はなく、

日本は、弥生時代なのである。また彼キリエの名は、イイスト・ハリストスであった。

卑弥呼が生まれたのはそれから200年先である。


イイストは、東の、日の出方向の美しい國に、

さくらこ、が生まれたことより、その國を己の名をとり、イーストランドと呼んでいた。

そしてイイストは、この島に及んで、さくらこのいる里へと歩み進んだ。

さくらこを腕に抱くことが叶い、美しい頬に、頬を寄せて、祝福した。 それを見ていた、未来神が、祝福の《しるし》に、樹木を与えたもうた。



その樹木こそが、桜櫻である。



のちに、海を渡り遙々訪れた、イイストと、さくらこを記念して、海の小さな貝殻、さくら貝をその字に添えた。



その、美しきもの、これより二千年余りが経過たち、二十歳になりたもう時、地上でもっとも高貴な女神のひとりとなる。


未来神は、そう宣言した。



来年、2020年こそが、その年だと伝わっている。


さくらこは、弥生の國に生を受けて、この國を樹木とともに守り、ついに、

桜の女神となるのであろう。


そのように感じて、桜吹雪を浴びてくださったら、女神もさぞかし、幸せでしょう。



今年は、まだ妖怪だから、桜の木の下で見かけたら、気安く握手でもしてくださいな。


これが最後の妖怪の姿の見納めですよ。どうぞ、おこしやすね。




さくらこ









霞か雲か


匂いぞ出ずる







いざや いざや


見にゆかん





~キリエ外伝 おわり~

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桜舞(さくらまい) さあや @murasakirinka

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