由美が僕の彼女だった最後の3分間。

ベームズ

ここでお別れ。

いきなり「別れようと」言われた。



「……なんで?」


それしか考えられなかった。


「なんでって、別に理由なんてない、ただもういいかなって……」



僕の目も見ずに淡々と告げる由美、


わけがわからなかった。


「いや、理由もなくいきなり別れようとか、どうしたんだよ?僕が何かしたのか?由美を怒らせちゃったなら、その理由を言ってくれよ、そんないきなり別れようとかいわれても納得できる訳がないだろ?」


必死に問い詰める僕、


そりゃそうだ。


ちょうど今日で、僕と彼女が付き合いだして一年目、記念日に思い出を作ろうとデートをすることにしていたのだ。



今日は、僕にとっても由美にとっても最高の1日にしよう、



そう意気込んでいた。


なのに、



デートすらまだ始まってもいないのに、いきなり別れようとか意味がわからない。


「……そう、理由……」


考え込む由美、


「理由ならあるわ、ただ、聞かない方が良いと思うけど?」


試すようにチラッと僕の目を見て問うてくる由美、


「大丈夫、言ってくれ、僕がなんとかできることならなんとかするから」


僕だって諦められる訳がない。だって……



僕と由美が付き合い始めたのは今からちょうど一年前。


僕から告白したが、由美も僕のことが気になっていたと、お互いに両想いで付き合い始めた。


これまで順調に付き合っていたと思っていた。



何度か喧嘩もしたが、すぐに仲直りできた。


だから、今回も……


と思っていた。



「……疲れたの、この一年、"あなた"といると毎日気を使って、ホントに疲れた」


グサリ……


心が抉られるような感覚。


「……わかった、なんとかする、なんとかするから」



「無理でしょ?一度こんな気分になったらこの先もずっと一緒よ?どんなに頑張ってうわべを取り繕っても、中は私が気を使って合わせないといけない自分勝手なあなた、ついていけないわ……」


吐き捨てるように繰り出されるダメ出し。


「だいたい、つまらないのよ、毎回のデートだって、全然楽しくない。いつもいつもスマホの画面とにらめっこしてるし、時々話が噛み合わない時あったの気づいてた?私がどれだけ気を使ってたか、私はあなたと一緒ならどこだってよかったのに、スマホの情報ばっかり口にするあなたは気持ち悪かったわよ?」


敵意すら感じるその言い方に、流石の僕も、心の中にイラッとするものを感じ始める。


「今日だって嫌だったけど、最後だから仕方なくきたのよ」


私達合わないんだわ、



今までのこと全てを否定して、口を閉じる由美。




「でも、その服……」



由美が来ている服は、僕達が初デートで買った服だった。


買った時、「せっかく買ったけど、もったいなくて着れないや……」


と由美が言ってたのを今でも覚えている。


そして、ほんとうにその服を着ることはなかった。


だからきっと由美も、そのことは覚えていてくれて記念日の今日、満を持してこの服を着て来てくれたんだ。


と思っていたが、


「服なんてどうでもいいわよ、何も考えずに適当に取ったらたまたまこれだったの」


由美がそのことを忘れる訳がない。


きっと何か理由が……


最後の希望を持って言ってみたが、違ったみたいだ。


「もういいでしょ?私のことなんて忘れてさっさと帰りなさい‼︎」


手をひらひらさせて立ち去るよう言ってくる由美


「なっ、ホントにいいのかよ!?仮にも一年の付き合いだろ?そんなあっさり……」


「はぁ?マジしつこいんだけど?もういいって言ってるでしょ?私とあなたはもう今から他人、これまでのことだってなかったことにするわよ‼︎」


マジきもい‼︎ストーカー‼︎


ここへ来て、何を思ったのか感情的になった由美が、ただの暴言を繰り返す。




「"お前"……」



繰り返される理不尽な暴言を前に、心の中に燻っていた苛立ちが、流石に爆発した。


「わかったよ‼︎もういい、もうお前なんかのこと忘れてやる‼︎」


今日考えていたプランや、会話のネタなんか全て忘れて回れ右してきた道を苛立たしげに歩く僕。


「ふん、こちらこそよ‼︎」



由美の最後の嫌味を背に、僕はうちへと帰る。


(あんなやつだったなんて‼︎全然気づかなかった‼︎あー腹が立つ‼︎)


こうして、『約3分間』の短いデートが終わり、一年間付き合った僕達はあっさり別れた。
















……"誰もいなくなった公園"



私達がいつも待ち合わせ場所にする公園だ。


「あーあ、せいせいした‼︎」


背伸びをして近くのベンチに腰掛ける私。


私はさっき、ひどいことを言って大切な人を傷つつけた。



"終わった"



そう思うと、涙が止まらない。


でも、


「……これでよかったんだよね?」


一人でつぶやく。


「そうだ‼︎これでよかったんだ‼︎だって……」


だって、私はもう……


「彼、いい人だもん、きっと私よりいい人と出会って、幸せになるんだ。悔しいけど、それでいい」



さっきのは全部演技、私が"彼"のことを嫌いになる訳がない。


彼のことは今でも大好きだ。




あんな別れ方をして、今だって心が張り裂けそうだ。


でも、




「……そうよ、あなたは"まだこっちにきちゃダメ"だから……」



私のことなんて忘れて幸せになって欲しい。



だから、和也、あなたは、



……生きて

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由美が僕の彼女だった最後の3分間。 ベームズ @kanntory

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