必要な時間
弐刀堕楽
必要な時間
「た、大変です! 先生!」
早朝、おれの家のドアを
かれが持ってきた
あとはたぶん、いつも通りのくだらないトラブル。
「どうした? ピースフル友愛ボーイ。ひどい顔だぞ。まるで
「それって、ほぼほぼ死んでますよ! いえ、それよりも――」
「まあ待てよ、落ち着け。少し息を
「で、でも先生!」
おれはコーヒーをすすって
おれが苦い顔をした理由は、ピースフル友愛ボーイにあった。かれはさっきから「先生、先生」と
「なあ、ボーイ。前にもいったが、きみは正式におれのパートナーに
「で、でも!」
「でもじゃない。さてと、きみがコードネームで呼んでくれるまで、おれはきみを
「ううっ……そんな……。えーと、なんだっけ?」
ピースフル友愛ボーイめ。まだおれのフルネームを覚えていないのか。もう二年も一緒にいるのになんてガキだ。ちょっぴり頭にくるぞ。
「うーんと……たしか……。あっ、そうだ! アメイジング・ウルトラ・ハイパー・ジャスティスマン! どうかぼくの話を聞いてください!」
「ブブー。不正解だ。やり直し」
「くそっ……なんだっけな……。あっ、わかった! アメイジング・ウルトラ・グレート・ジャスティスマン!」
「違う」
「アメイジング・ハイパー・グレート――」
「まず出だしから間違ってる。いったん、アメイジングから離れよう。そこからやり直すんだ」
「ううっ……くそう……。あっ、そうだ!」
そういって、ピースフル友愛ボーイは手をのばすと、おれの手元からサッと新聞を引ったくった。しまった!
おれはスーパーヒーローだ。新聞には連日の
やれ銀行強盗を
そして、そこには当然おれのコードネームが乗っているわけで。
「き、きたないぞ! ピースフル友愛ボーイ! ピースフルが聞いてあきれるな! 友愛の精神をどこへやった?」
「ぼくが好きでつけた名前じゃないです。それ先生が考えてくれたんですよ?」
「うるさい。先生って呼ぶな!」
「はいはい、わかりましたよ。ウルトラ・ハイパー・グレート・アメイジング・ジャスティスマン! これでいいですか?」
ピースフル友愛ボーイは、新聞の文字を
「しかたがない。今回はきみの勝ちだ。だが次はないぞ」
「えへへ、やったァ!――って、そんなこといってる場合じゃないんですよ! じつは大統領から
「まーた、あのジジイか。ろくでもない。毎回毎回、よその国でトラブルを起こしやがって。だいたいあれ
「そんな風に自国のリーダーを悪くいうもんじゃないですよ」
「嫌いなもんは嫌いなんだからしょうがないだろ。ほら見ろ。あいつの話をしただけで天気まで悪くなってきやがった」
「天気は大統領のせいじゃないです」
「あーあ、まったく……。今日一日がさっそく台無しの気分になった。朝から最悪のスタートだよ」
「最悪……あっ、そうだった!」
ピースフル友愛ボーイは、大げさにその場で飛び上がった。
かれもヒーローの
だから勢いあまって飛びすぎた。天井に頭をぶつけて、かれは床の上にひっくり返った。
「おいおい、おれの家を
「ううっ……すみません。でも聞いてください! ウルトラ・ハイパー・グレート――」
「あーもう。ジャスティスマンだけでいい。いちいちフルネームで呼ぶな。うっとうしい」
「はい。ですが、ジャスティスマン。最悪なことが起きたんです。さっきもいいましたが、じつは大統領から連絡があって――なんと、今日、地球に、超巨大な
それを聞いて意外にも、おれは安心してしまった。
自然と
「ふっ……ふっふっふっ……」
「なにを笑ってるんですか。早く止めに行きましょうよ!」
「なんだよ、思ってたより楽勝な任務じゃないか。前回、あのジジイに呼び出されたときは『
「あのときは、ぼくが拭いたんです! キツかったのは、ぼくのほうです!」
「そうだっけ?」
「そうですよ!――って、そんなことはどうでもいいんです。早く隕石をなんとかしないと!」
「まあ、そう慌てるなよ。
おれはゆっくりと立ち上がった。
「隕石なんてもんは、おれたちの手にかかれば朝飯前さ。たぶん三分もありゃ
「あ、あの……それがですね……」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「じつは大統領はこうもいってたんです」
ピースフル友愛ボーイは、
「隕石が地球に
外はますます暗くなる。空の色は
なるほど、そうか……。
…………。
…………。
…………。
必要な時間 弐刀堕楽 @twocamels
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