3分迷路

「3分以内に脱出してください。」

遊園地に最近できた新型アトラクション。

上下２階の巨大迷路。

白と赤に彩られた筒状のトンネルは、

右へ左と曲りくねり、分かれ道が何本もある。

アトラクションの制作者の趣味か、

ポップな作り物の電話や机も見られ、

開かない窓やドアなども付いていて全体的に凝ったつくりだ。

客の入りもいいようで、

道中、家族連れやカップルをよく追い越す。

ゆっくり眺める人ならいいが、

こっちは限定グッズを求めている。

スマホで写真を撮るカップルの横を素早くすり抜け、

イベント用に配られたスマホを見れば、残り時間は２分３０秒。

走っていくと、また分かれ道。

左右のトンネルのあいだに等身大のピエロが立っている。

『←左の道はちかみち』なんて根元の折れた看板を持っているが、

この手の騙しはよくあること。

その横をすり抜けて右のトンネルに入ると、

スマホのアラームが鳴った。

『脱出してください。脱出してください。』

画面に表示された時間は、きっかり２分。

通路に脱出用の非常ドアもちらりと見えるが、

ポップな文字に緊張感はなく、ゲームの仕様と理解し進む。

しかし、道中行き止まりもないのに時間を食い、

残り時間はきっかり１分。

曲がりくねる道を走りながらも、

先ほど、ピエロがいた分かれ道を思い出す。

あれは本当だったのか。

素直に行けば時間の節約にはなったかも。

しかし、後悔先に立たず。

とりあえずペースアップして、

らせん階段のような滑り台を降りてさらに走る。

残り時間は３０秒。

その時、スマホから緊急のコールが鳴った。

慌ててタッチすると女性の声が響く。

『避難してください。刃物を持った男が迷路内に紛れ込んでいます。

　近くの非常口から脱出してください。くりかえします…』

これもアトラクションか？

時間がないので、ともかく進む。

そして、角を右に曲がった直後、

ふいに腹に熱いものを感じた。

見れば、自分の腹から包丁が生えている。

柄の部分にもべったりと血が付いていて、

それを持っているピエロの衣装の男はニタニタと笑う。

見覚えのあるピエロ。

背後には３本のトンネルが見え、

そのうち一つは滑り台になっていて、

降りた先に看板が捨てられている。

それを見てピンときた。

看板を持っていたのは包丁を隠すため。

男がトンネルを使って先回りしたことは明らかだ。

だが、刺されているせいで

逃げようにも足に力は入らず…

残り２０秒。

何度も刺した包丁を腹から引き抜くと、

ピエロは衣装に返り血がついているのも気にせず、

鼻歌を歌いながら、再び穴の奥へと消えていく。

今の自分は仰向け。

赤と白だけの配色のはずなのに、

天井が緑色で色んな光がいくつも行き交っている。

残り１０秒。

床に広がった血は温かく、

逆に体は凍えるように寒い。

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その時、アナウンスが聞こえた。

『避難してください。刃物を持った男が迷路内に紛れ込んでいます。

　近くの非常口から脱出してください。くりかえします…』

そして、０をカウントしたスマホが、

血溜まりの中で動きを止めた。