RINO~ただひとりの旅路~

金魚姫

第1話「この青い地球でわたしは生きている」

「よかった。掛かってた」

 少女が言った。少女の名前はリノと言った。彼女はジャングルブーツを履いてジャンプスーツを着ていた。スーツの色は青で、両腕にはアメリカ合衆国の星条旗と日本の日の丸があった。胸にはNASAとあった。彼女の前には昨晩仕掛けておいた罠があった。罠は近くの蔦と木の枝を使った簡単なもので、その場所を動物が通れば蔦の輪が締まり、動物の首を絞め取るというものだった。罠にかかった動物は彼女に気が付き、ぴくっと頭を持ち上げた。いつ罠に引っ掛かったのかは分からないが、なんとか逃れようともがいて疲れてしまったのだろう。

 掛かっていた動物はうさぎのような動物だった。けれどうさぎよりも耳は長く、背中の中ほどまで伸びていて、体格も少し大きかった。全体的に筋肉質だった。体毛は濃い茶色だった。リノはこの動物のことを『恵みのひと』と呼んでいる。それはこの動物がいるところには多くの食用可能な植物が群生しているところが多く、何よりこの動物自体も彼女にとっては大変なごちそうだからだった。

 リノは腰の後ろに差し込んでいたサバイバルナイフを抜いた。罠のすぐ近くに膝を着くと、『恵みのひと』の頭を押さえた。

 そして、喉を裂いて息の根を止めた。



    ☆



 うっそうとした緑が茂るジャングルは夜の戸張に包まれた。じっと見つめていればどこまでも吸い込まれて行ってしまいそうな暗闇の中に、小さく燃えるオレンジの灯りが揺らめいていた。

 リノは焚火の火が消えてしまわないように注意深く観察しながら、『恵みのひと』の肉が焼けるのを待った。近くには彼女が葉っぱで作った釜があって、そこでも『恵みのひと』の肉が蔓に結ばれて吊るされていた。下で燃える焚火の煙によって燻製を作っているのだった。生肉は日持ちをしないが、燻製にしてしまえばある程度は日をまたいでも食べることが出来た。

 焚火のパチパチという音以外、何の音も聞こえないジャングルにリノは耳を傾けていた。そしてがさごそという音が彼女の耳朶を打った。彼女は慌てて音のした方を振り返った。獰猛な肉食獣かもしれないと思ったのだ。焚火の中から火の付いた一本の木を取り出して暗闇にかざした。

「……っ」

 息を呑み、目を凝らして暗闇を凝視しているとやがて音の正体が姿を現した。獰猛な肉食獣ではあった。けれどリノの前に現れたのはまだ幼い子どもで、しかも後足にひどい怪我を負っていた。

 大人になれば犬と狼の中間ほどの外見になるその動物は、けれど子どもの頃は子犬と言っても見分けがつかないほど愛くるしい見た目をしていた。リノはこの動物たちのことを『狩猟のひとびと』と呼んでいた。群れで狩りをするからだった。彼女も一度だけ『狩猟のひとびと』の狩りの様子を目にしたことがあった。すばらしい連携で自分たちよりも大きな獲物を捕らえるその様に彼女はすごく驚いたことを覚えていた。何より彼らは仲間意識が強いことも彼女にとって印象的なことの一つだった。そんな『狩猟のひとびと』が傷ついた、幼い子どもを見捨てるとは考えにくかった。

「……もしかして、群れからはぐれたの?」

 幼い『狩猟のひとびと』は何も言わない。ただ弱々しい瞳でリノを見つめて来るだけだった。

 リノは警戒を解くと、出来るだけ穏やかな雰囲気を纏えるように努力した。

「おいで。手当をしてあげる」

 リノが言った。けれど幼い『狩猟のひとびと』はおびえてなかなか近づこうとはしなかった。

「よっぽど怖い目に遭ったんだね……。う~ん、どうしようかな」

 放っておくことも出来ず、リノは悩んだ。そこで彼女はちょうどいい具合に焼けた『恵みのひと』の肉があることを思い出した。

 肉の一つを幼い『狩猟のひとびと』の目の前に投げ落とした。

「食べていいよ」

 そう言ってリノは自分の分の肉をお手本を見せるようにかじった。

「まずはわたしの存在に慣れて警戒心を解いてもらえればいいんだけど」

 もう一口リノは食べた。

「おいしいよ?」

 リノの様子を見ていた幼い『狩猟のひとびと』は、鼻をクンクンとさせながら眼の前の肉の匂いを嗅いだ。そして一口かじり取った。ほんの小さな一口だったけれど、それで十分だった。二口目はかぶりつくように食べ始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。小さい見た目に反して幼い『狩猟のひとびと』は瞬く間に肉を平らげた。

「いい食べっぷりだね。もう一枚食べる?」

 リノが肉をもう一枚あげようとすると、幼い『狩猟のひとびと』は彼女の下に少しずつ歩み寄ってきた。彼女に敵意がないことを理解したようだった。

「傷を、見せてくれる?」

 そう言ってリノが抱き上げても、幼い『狩猟のひとびと』は暴れたりはしなかった。彼女に身を任せるその様子は、やはり一人ぼっちで寂しかったのだろうと思わせた。

「寂しかったね」

 リノは言った。苦手な火からかくまうように焚火を背にして彼女は座り直した。改めて幼い『狩猟のひとびと』の傷を見ると、鋭いものに斬りつけられた様に肉が抉り取られていた。

「何に襲われたの?」

 リノは近くに置いてある随分と年期の入った大きなバックパックの中から応急処置に使えそうな包帯を取り出した。生憎ガーゼのような気の利いたものは持ち合わせていなかったので、葉っぱで代用した。傷を縫うことは彼女には出来なかったので自然の治癒力に期待するしかなかったが、何もしないよりはマシだろうと包帯を巻きつけていった。

 うっかり傷口に触れてしまうと幼い『狩猟のひとびと』は痛みに身じろぎをした。

「ごめんね! 我慢して!」

 リノは謝りながら包帯を巻いた。最後に包帯が取れないように固定した。

「これでよしっ!」

 包帯はすぐに赤い染みを作った。幼い『狩猟のひとびと』を地面におろすと、リノの手をぺろぺろと舐めた。

「それってお礼? ありがとう」

 リノは言って幼い『狩猟のひとびと』の頭を撫でた。幼い『狩猟のひとびと』はリノに寄り添うように丸くなった。

 その日、リノはそのまま夜を明かした。



    ☆



「さて、あなたの仲間を探さないとね」

 翌朝リノは焚火の後始末をした後、言った。燻製にした『恵みのひと』の肉は大きな葉っぱに包んでバックパックに詰め込んだ。釜も潰して、そこにはもう何もなかった。焚火の周りの焦げた葉っぱ以外、人がいた形跡は何もなくなった。

 リノはバックパックを背負った。色々と詰め込まれているのでずっしりとかなり重かった。最後に忘れてはいけない長さ三十センチほどの包みを肩に下げた。これで出発の準備が完了したのだった。

 探すと言っても、幼い『狩猟のひとびと』が一体どこで仲間とはぐれたのか分からないのにジャングルの中を歩き回って探そうとするのは無謀だった。それでもリノに全く策がないわけではなかった。

「あなたが仲間がいると思う方に進んで。わたしはあなたについていくから」

 リノが言うと幼い『狩猟のひとびと』は、彼女の言葉を理解した様に歩き出した。彼女は微笑んで幼い『狩猟のひとびと』の後に続いた。

 幼い動物の足では一時間かけてもそれほど多くは歩けなかった。加えて幼い『狩猟のひとびと』は後足を怪我しているのだから歩くペースも上げられなかった。リノはそれを怒ったりはしなかった。まして放っておくということもしなかった。あくまで幼い『狩猟のひとびと』のペースに合わせて彼女は歩いたのだった。幼い『狩猟のひとびと』が休めば彼女も休み、幼い『狩猟のひとびと』のお腹が鳴ればともに『恵みのひと』の肉の燻製を食べた。

 そうして歩き始めてだいぶ時間が経ち、太陽が空の天辺に到達したころ。幼い『狩猟のひとびと』の足が止まった。けれどそれは疲れたり、お腹が空いたりして立ち止まったものではなかった。三角の耳がぴくぴくと揺れていた。

「何か音がするの?」

 リノは訊ねて耳を澄ましてみた。彼女の耳には特に何の音も聞こえなかった。

 それでも確かに聞こえているのだろう、幼い『狩猟のひとびと』は突然今までの進行方向を変更して、リノの右手側に駆け出した。

「待って! 脚怪我してるんだからあんまり走っちゃだめだよ!」

 リノは慌てて幼い『狩猟のひとびと』を追いかけた。生い茂る蔦や草を掻き分けて道なき道を進んだ。

「どこに行ったんだろう……」

 見失ってしまった幼い『狩猟のひとびと』を探していると、アオォ~ンと可愛い遠吠えが聞こえた。声のした方へ行くと、急に視界が眩しくなった。光に目が慣れるとそこには綺麗な清流が流れていた。水辺では幼い『狩猟のひとびと』が足の半分までを川の流れにつけながら水を飲んでいた。

「なるほどね。確かに喉が渇いたかも」

 リノは言った。水を手ですくってみると綺麗に澄んでいた。喉を潤せば乾いた身体が生き返ったようだった。

 彼女はバックパックから水をためることの出来る植物で作った水筒を取り出すとその中に水を入れた。栓をすれば十分に立派な水筒として水を持ち運び出来た。

 幼い『狩猟のひとびと』は火照った体を冷やそうとして川の中をころころと転がって水遊びをしていた。

「こんな機会はあんまりないから、わたしも水浴びをしようかな」

 リノは言うとジャンプスーツのチャックを開いて着ていた服を脱いだ。靴は勿論、着けていた下着も全て脱ぎ捨てた。太陽の光を反射させる白くて瑞々しい肢体が露わになった。

 足の先を水につけると、ひんやりとして体が震えた。気持ちのいい冷たさだった。清流の中でも少し深くなっている部分まで進んで、身体全体に水を掛けた。水滴がキラキラときらめき、まるでスポットライトのようにリノのことを照らした。

 リノは水の中に両手を付けて昔父親に教わった水鉄砲を作ってみた。両の掌の間にたまった空気を押し出すように潰すと水が勢いよく飛び出て水遊びをしていた幼い『狩猟のひとびと』の顔に命中した。

 突然水を被ってびっくりしている幼い『狩猟のひとびと』がおかしくてリノは笑った。

「あはは、あなた濡れネズミみたいよ」

 幼い『狩猟のひとびと』は抗議をするようにリノに飛び掛かると、彼女の身体を甘噛みした。それがとてもくすぐったくて彼女はまた笑った。

「わたしはもうあがるけど、あなたはまだ遊んでる?」

 リノが訊ねると、幼い『狩猟のひとびと』は水の中を泳ぐ小さな小魚を捕まえようと一生懸命になっていた。彼女はがんばれと言って水からあがった。

 濡れた身体を乾かして下着を着けて、ジャンプスーツを着ようとした。そこで彼女は首筋に冷たいものを感じた。命を狙われている感覚だった。

 慌てて周囲を見回した。そして生い茂る緑の向こう側にこちらを見つめる鋭い黄色い眼光を見つけた。眼と眼が合った瞬間、彼女の本能がまずいと叫んだ。考えるよりも早く体が反応し、その場から飛び退いたのとそれが襲い掛かってきたのは同時だった。

 水辺をゴロゴロと転がり、その獣の飛び掛かりを回避したリノが顔を振り上げた。獣は虎のようだったが、虎ではなかった。顔つきこそ虎だが、縞模様ではなく黒ヒョウのような黒い毛で全身が覆われていた。体躯は何を食べればそんなに育つのかというほどに大きかった。

「『黒い王様』⁉」

 リノはその獣をそう呼んでいた。『黒い王様』はその見た目に違わず、とても凶暴で危険な肉食獣だった。彼女も何度も命の危険にさらされたことがあった。

 リノはすぐにその場から逃げ出そうとした。けれど態勢が悪かった。水に湿った地面に足を取られ、膝を着いてしまった。

「……っ!」

 喰われる! リノは襲い来る痛みに身構えて瞼をきつく瞑った。しかし痛みも衝撃もいつまで待っても訪れる気配はなかった。

「アン‼ アン‼ アン‼」

 眼を開くと幼い『狩猟のひとびと』が『黒い王様』に向かって吠えたてていた。それ以上リノに近づくなと言っているようであった。

『黒い王様』の注意が幼い『狩猟のひとびと』に向いた。

「駄目っ‼ 逃げなさいっ‼」

 リノは叫んだ。とてもではないが幼い『狩猟のひとびと』では『黒い王様』には勝てる筈がなかった。あっという間に蹂躙され、捕食されてしまうだろう。

「アン‼ アン‼ アン‼」

 幼い『狩猟のひとびと』は吠えることをやめなかった。

 のしのしと『黒い王様』が幼い『狩猟のひとびと』に詰め寄った。

「……だめ……逃げて……」

 もうリノがどんなに足掻いたとしても間に合わなかった。幼い『狩猟のひとびと』が殺されると思った、その瞬間。

 周囲の草木の中から無数の影が飛び出した。その影たちはあっという間に『黒い王様』を包囲した。影の正体は『狩猟のひとびと』だった。彼らは幼い仲間を護るように『黒い王様』の前に立ちはだかったのだった。彼らの多くは身体に痛々しい傷を受けていた。それを見て彼らはここに来る前にも『黒い王様』の被害に遭っていたのだとリノは理解した。

 幼い『狩猟のひとびと』の傷は恐らくその時に『黒い王様』によってつけられたものだったのだ。

「グルルル‼」

『狩猟のひとびと』は牙を剥いて『黒い王様』を威嚇した。

「ガァルル‼」

『黒い王様』も応戦をした。包囲をしているといっても、元の力に差がある上に体格でも劣る『狩猟のひとびと』はやはり不利にならざるを得なかった。

「……何とかしないと!」

 リノは『黒い王様』の一瞬の隙を突いて立ち上がると、服も何もかもを置いたまま、白い包みだけを担いでジャングルの中に飛び込んだ。彼女は素早く周囲に視線を配った。すぐに最適なポジションを見つけると彼女は清流に頭を向けて俯けに寝そべった。

 白い包みの覆われていた本体を取り出すと、それはスナイパーライフルだった。リノはそれを慣れた手つきで構えた。ライフルに取り付けられたスコープを覗き、照準を『黒い王様』に合わせた。

 激しく動いて乱れた鼓動も二、三度深呼吸をすれば落ち着いた。リノは意識が研ぎ澄まされていく感覚を味わっていた。身体に触れる土や葉の感触も薄れていき、『狩猟のひとびと』の威嚇の声も遠くなっていった。スナイパーライフルとスコープの中の『黒い王様』だけが彼女の世界の全てとなった。

 引き金に指を掛け、引いた。

 ダアァン! という音と共に排莢口から放出された薬莢がリノの顔の横を舞った。銃口から飛び出した弾丸は空を切り裂きながら、見事に『黒い王様』の首元から胸を一直線に貫いた。

「……ふう。間一髪かな」

 リノはスナイパーライフルを担いで言った。それから地面に落ちた薬莢を拾った。

「あとで弾も回収しなくちゃ」

 弾は貴重だからとリノは言った。



    ☆



 水辺に戻ると『狩猟のひとびと』が突然倒れた『黒い王様』の身体を警戒していた。やがて本当に動かなくなったことを確認し終えると彼らは次々に眼の前の肉に喰らいついた。彼らにとっては貴重な食料源となることだろう。

『狩猟のひとびと』はリノのことを警戒はしていても襲ってくることはなかった。彼女が自分たちの仲間を助けてくれたということを理解しているのかもしれなかった。

 群れの食事が終わると、『狩猟のひとびと』は再び移動を開始しようとした。すると幼い『狩猟のひとびと』がリノの下にやって来た。

「どうしたの?」

 リノは訊ねた。幼い『狩猟のひとびと』の顔は彼女と離れたくないと言っているように感じられた。彼女はしゃがむと小さな頭を撫でた。

「あなたには仲間がいるんだから仲間の下に帰った方がいいよ。仲間は大切にしなくちゃ」

 幼い『狩猟のひとびと』はリノの言葉を理解したのか、悲しげに一度、くぅ~んと鳴いた。

 幼い『狩猟のひとびと』が群れの中に戻ると、群れは移動を開始した。群れの中で幼い『狩猟のひとびと』に真っ先に寄り添いに行った一匹が少し振り向いて瞼を伏せてリノにお辞儀をしたように見えた。見間違いかも知れない。それでもいいと思った。

「あれがあの子のお母さんかな」

 リノは呟いた。



    ☆



 その日の夜、リノは焚火のオレンジの光をぼんやりと眺めていた。今までずっとひとりで旅をしてきていて、ひとりの夜の時間も数えきれないほど経験してきた。彼女にとって笑い合って過ごしたのは昨日が初めてでとても楽しかったのだ。

「やっぱり……少しさみしいな」

 リノは膝を抱えてため息を吐いた。彼女はジャンプスーツの胸ポケットから一枚の写真を出した。それは一見ただ真っ黒な空間が広がっているだけの写真だった。けれどよく注意をして見れば微かに、本当に微かに青白い点があった。

 天文学者であったカール・セーガンが1977年に打ち上げられたボイジャー1号に海王星を通過したところで地球を振り向かせ、撮影した写真だった。ペール・ブルー・ドットと呼ばれるものだった。リノはこの写真が好きだった。

 それはこの写真の中に自分の存在を感じられる気がするからだった。

 西暦2120年、地球全土の気温は温室効果により人類が耐えられないほどに上昇した。それは人類が産業革命以降、石炭を燃やし、化石燃料を消費し続けてきた代償だった。地球に生命が誕生してから海中や地中に降り積もっていった生命の痕跡を掘り起こし、僅か数世紀の間で消費しつくそうとした人類は、問題を認識してもなお行動を起こそうとはしなかったのだ。

 地上に人類の生きられる場所はなくなった。自ら手放したのだ。そして人類はそらへ行き場を求めた。人々は何度も何度もロケットを打ち上げ、生き残った人間を宇宙へ上げた。人類は地球を巣立って行ったのだ。

 そして、人類が地球を去って1億5000万年後、地球の環境は産業革命以前の状態にまで回復していた。北極圏の氷は広がり、緑が増えた。大陸は変動し、動植物は独自の進化を遂げた。代わりに人類がいたという痕跡は1億5000万年という年月によって面影もなく消されていた。新しく生まれ変わった世界に人類はいなかった。

 そんな世界にただ一人取り残されたリノにとって、仲間とはぐれ、孤独による不安に脅える幼い『狩猟のひとびと』と共にいる時間は今まで得られなかった友を得られたような気がしていたのだ。

 けれど幼い『狩猟のひとびと』には仲間がいて、帰るべき場所があった。それはとても幸せなことだとリノは思った。

 リノには、仲間も帰る場所ももうないのだから。

「それでもただひとり、この青い地球ほしでわたしは生きているんだ」

 リノは誰に言うでもなく、呟いた。宣言するように、自分の存在を確かめるように呟いた。

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