笑顔に捧ぐメッセージ
タカナシ
最後の3分
「俺は、もうダメだ。短い間だったが、お前らといられた時間は忘れねぇぜ」
俺はニヒルな笑みを浮かべながら、目の前の仲間に別れの言葉を告げる。
「そんな、フータさんッ! まだ、まだ諦めるのは早いわッ!」
俺が必死に守ってきた一人、コムギは涙を浮かべる。
「そいつぁ、ムリだ。俺の体を見ただろ。もう半分逝っちまっているんだ。今はテーピングでなんとかこらえているが、俺にはもうお前らを守る力も時間もない。そうだな……。持って3分ってところだ」
「う、うう……」
コムギは涙の海に溺れることしかできない自分を呪うようにすすり泣いた。
「すまねぇな。ぐぅうッ!!」
「ああっ! どうしたんですか! フータさんッ!?」
「野郎、俺たちから奪ったターレを人質にっ!」
「どういうこと? 私には、あなたで見えないわっ!」
「ハッ! どうってことないさ! お前が見る必要もないほど、どってことないことだ。ただ俺の背中に零せねぇものが1つ増えただけだ」
「フータさんっ! 汗がそんなに……」
気づけば俺の体は油汗にまみれていた。
もう別れの時が近い。そんな様子をコムギをはじめ、他の仲間も心配そうに見つめる。
「今日はちぃーっとばかし暑いようだな。このくらいよくあることだから、そんな心配そうな目で見るなよ」
「フータ~~」
「おいおい、ニック、そんなだらしない顔をすんなよ。これからはお前がコムギを守ってやれ」
「そんな、おいらじゃムリだよ~」
「今は俺の方が目立ってるかもしれないが、お前は影の主役だ! 胸を張れ! そうすりゃ、もっと味のあるいい男になれるさ。今に誰もがお前のことを気にするようになる!」
「フータ」
ふっ、いい顔つきになったじゃねぇか。これでこいつは問題ない。俺も安心して逝ける。後は――。
俺は残りの仲間にも声をかける。
「エビちゃん、タマ子、お前らがこいつらをいつも支えてくれているのは知っている。確かに地味かもしれないが、そのおかげで俺たちは何度も救われている。ありがとな。お前らがいれば、大丈夫だろ」
エビちゃんもタマ子も一声に首を振る。
「わたし達がこうして元気でいられるのも全部フータのおかげよ! ありがとう」
俺の頬は思わず緩み、今まで浮かべたことのないような柔らかい笑みが自然とこぼれる。
「いけねぇ。最後まで気を抜いちゃあダメだよな。ちょいとばかし目に汗が入って気が緩んじまった」
俺の体は汗なんだか、涙なんだか、わからないくらい濡れ、次第に力も入らなくなってきた。
「チッ。目が霞んできやがった、お前らの姿がぼやけて見えるぜ」
どんな状態になっても、俺は、俺は、せめてお前らが巣立つ時間まで守ってみせッ!
俺はまるで走馬灯のようにあいつらとの思い出が脳裏を駆ける。
無機質な工場で選別され、幾多との同胞と別れを繰り返した後に出会った真の仲間。見世物のようにさらされる事もあった。
それからは寒く暗い部屋に閉じ込められたが、そんな環境でも仲間の為に俺は頑張れた。
そしていざ日の元へ出たと思ったらそこは戦場だった。
だが、それと同時に俺たちが真に求められる場でもあった。
俺たちはこの戦場を潜り抜け、笑顔を掴むんだっ!
ピピピピピピッ!
合図の鐘の音。
この合図こそ、あいつらが巣立ちを迎えた合図だ。
「とうとう、俺の役目は終わりだ。みんなといた時間は本当に楽しかった。家族ってこういうもんなんだなって思えたよ」
「フータさん……」
「お前らが立派になったのは俺の誇りだ。お前らはこれから笑顔を届けるんだ」
「お、おいらたちに出来るかなぁ~?」
「大丈夫だ。俺が命を懸けて守ったんだぞ。お前らにはその価値があるんだ。俺が保障するッ!!」
ぺりりっ。
俺をこいつらから引き剥がそうとする魔の手が俺を掴む。
テーピングも解け、もはや抵抗する力も残っていない俺は、仲間の力を信じ、力を抜いた。
「だがよぉ、俺だってただじゃ逝かねぇぜ。俺からの最後のメッセージだっ!」
――ありがとう! インスタントラーメン発明60周年――
笑顔に捧ぐメッセージ タカナシ @takanashi30
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