三分間で殺せる人数

ぶるすぷ

三分間で何人殺せるか

 三分で何人の人間(成人男性と想定する)を殺すことが可能なのか、考えたことがあるだろうか。

 無ければ、ここで一緒に考えてみてほしい。


 まず真っ先に思いつくのは”殺せない”である。

 武器を持たない状態。更に相手が抵抗してきた場合、三分という限られた時間内に相手を倒すのは難しい。

 相手が複数人だった場合、殺害者側が不利な状況に追い込まれる可能性も高い。


 しかしそれは武器を持っていない場合の話だ。殺せる人数というのは、正確に表現すれば、実現可能な方法で最大限人を殺せ、ということである。


 とすると、次に思いつくのは地球に隕石でも降らせることか。

 超巨大隕石が地球に衝突した場合、地球の表面は超高温になり、生物は全て絶滅する。現在地球上に生存している全人類、その数七十億以上を殺す事が可能だ。

 しかし、それは人間が”死んだ”だけであり、”殺した”わけではない。加えて殺害者自身も死亡するので、それが殺害行為と断言できるかは微妙である。


 自分が死亡しては元も子もないので、殺害後自分が生存していることを条件にする。


 こうなってくると自爆テロは選択肢に入らなくなる。自分の死亡が確約されているのだから仕方ない。


 とすると、戦争時に強力な兵器を使って敵兵を一掃するのはどうだろうか。原子爆弾などはその筆頭とも言えるだろう。殺傷能力も申し分ない。こちらが被害を受ける可能性も低い。

 だが、それは殺したというより”殺させられた”と言った方が正しいのではないか。

 戦争は一個人の決定によって行われているわけではない。前線に立って敵兵を殺したところで、それは上官からの命令であり、国からの命令だ。命令されたから殺した、では本来の殺害とは意味が異なる。殺した人数には数えられないだろう。


 そもそも、不特定多数の人間を一度に残滅するというのは、狙った一個人の殺害ではない。『爆弾を落としたら”たまたま”殺すことができた』というのは、殺人ではなくむしろ事故死だ。

 殺害人数の把握もほぼ不可能であるので、”何人殺せるか”という趣旨からは離れすぎているだろう。


 人の集団の残滅が無しになるとすれば、毒ガスでの集団殺害、重火器での一斉掃射、ビルの爆破・倒壊による大事故の誘引。他にも沢山の方法が消える。一気に選択肢は絞られた。


 ここでよく考えてみると、高額な武器や爆薬の使用は、一般人が殺害計画を立案するという点において現実味を帯びていない。それなりの権力を持っている人間ならまだしも、この場における”殺害できる人数”というのは”どこにでもいるレベルの人間が殺害可能な人数”である。

 よって、(特に資金面において)手軽かつ簡単に殺す方法を考える必要がある。



 さて、ここまで出た可能性を考慮して、最も効率の良い方法を考える。

 とするとやはり、一番に挙げられるのは銃の発砲による殺害だろう。

 喉を狙えば簡単に、一撃で殺害可能だ。毒薬のように、仕込んでから殺害に至るまで時間がかかることもない。ナイフを振るう時のように、殺害者が体力を消耗することもない。

 発砲音が大きいというデメリットも、サイレンサーなどのアタッチメントを装着することで大幅に削減できる。

 コスト面でも問題は無い。一年の労働で得られる給料で(非合法の手段ではあるが)十分に手に入る金額だ。


 唯一、銃のメンテナンスについて、素人では管理が難しく時間も掛かるという懸念点がある。だが、ハンドガン、特にグロック系の特定の物は泥水につけても使用できるほど耐久性と信頼性に優れているため、今回の殺害におけるメンテナンスはほとんど不要となるだろう。


 使用する武器については問題無いことが分かった。

 次は殺害方法である。

 殺害対象が離れた場所にいると、殺す度に移動しなければならず非効率的だ。

 となると、一つの部屋に集めて一気に殺害するのが良いと考えられるだろう。

 しかしその場合、いくらこちらが銃を持っていたとしても集団を相手にするので、抵抗されれば殺されてしまう可能性は大いにあるだろう。


 ではどうするのか。


 寝込みを襲えばいいのだ。

 夜中、人が寝静まる時間帯に攻撃を仕掛ければいい。


 とすると集団で寝ている雑魚寝をする場所、それこそ合宿所などはどうだろう。

 人数もいる。寝ているので抵抗されない。移動する手間も無い。

 ただ、一つ問題があった。


 発砲音である。


 サイレンサーが着いているとはいえ、完全に発砲音を消せるかと言われるとそういうことではない。

 サイレンサーは音を低減する機構であって、完全に遮断することは不可能なのだ。

 集団で寝ている場所にて発砲すれば、気づいて起きてしまい逃げられる可能性がある。愚策である。


 となると、出てくる結論は”古い旅館”。それも人気のある場所がいいと考えられる。

 宿であれば部屋ごとに壁があり、多少音が出たところで隣の部屋に気づかれる可能性は低いだろう。

 加えて、古い旅館は部屋のマスターキーの管理が疎かになっているところも多い。

 見つけた物件には、なんと鍵そのものがかかっておらず、扉に棒を一つ立てかけるだけというものもあった。

 これならば気づかれずに、そして効率的に殺害をすることが可能である。



 部屋の間取り、移動時間、一回の殺害にかかる時間なども考慮すると、三分間で殺害可能な人数は十八人。

 恐らくそうなるはずである。




 最終的な結論を確認し終えたところで、ふうと一つ息を吐く。興奮で少し口角が上がる。


 ストップウォッチを押す音が響いた。

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