第4話

「チズちゃんがどこかに迷ってしまったと聞いた竜介がすぐ探しに行ったよぉ」

 今近いカフェで5人が集まった。私の向かいにサトミちゃんが竜介の隣に座った。私はダイキくんとミサちゃんの中に挟んだ。

「どうして、私のためにせっかく探しに来た?」

 彼はスマホに何か打ち込んで皆が見えるようにテーブルの上に置いた。

『チズさん気持ちがわかる気がしたから...かな』

「素敵な人だね」

 サトミちゃんは必要以上に大きい声で彼を誉めた。

 けれど、私の彼についての気持ちがちょっと矛盾になってしまった。無礼に何も言わないけど、迷子になった私を手伝ってくれた彼に感謝の気持ちもあった。

 ともかく、お礼はもう言ったから、彼には前と何も変わっていない。もう話そうとしないと決めた。

「先日見ていた。バスケットボールすごく上手だよね」

 ダイキくんに集中を向けた。彼は照れるように笑った。

「あははは、そこまでじゃないと思う。こいつはもっと上手いと思う」

「は?こいつって?まさか竜介のこと?」

「そうだよ。1対1で何回もストリートボールで挑戦したけど、一度でも買ったことがない」

 ダイキくんが素直に秘密を教えるように低い声で私に説明した。

「じゃ、そんなに上手いならどうして彼はバスケット部に入らない?」

 私は怪しげに竜介にチラッと見た。彼は一所懸命にサトミちゃんとミサちゃんを聞いてスマホで自分の言いたいことを打ち込んで忙しそうだ。

「決まっているじゃない?話さないから」

「ダイキくんの友達だからどうして話さないかわかる?失礼だと思わない?」

 ダイキくんは私の質問に笑った。

「彼と初めて会う前から彼はずっと喋らないみたいだ。僕にはそんなに構わない。むしろ、ちゃんと聞いてくれる人だと思う」

「どういうこと?」

「だって、皆はいつも自分の話をしたい。つらい時あっても友達とか家族とか話してみると相手はいつも自分の経験について話しはじめる。ちゃんと僕の問題を聞いていない気がする」

「あ、なるほど」

 ある程度、ダイキくんの言うことが納得できた。思い出したら、自分もそういう同じ罪が何度も犯したかも知れない。

「しかし、竜介は」

 彼は顎で竜介の方に指示した。

「違うよ。ずっと黙ってちゃんと僕の悩みいつでも聞いてくれる」

「へー、そういう印象がないけどさ」

 他の二人の女性の話が速くなって竜介はもう会話についていけないようになった。無言であの女の顔から次の女の顔を必死に眺めた。

 今、ダイキくんがどう言っても今のじろじろする竜介を見ると気持ち悪いとしか思わない。

「チズちゃんは? 先日の練習の試合に来てくれてありがとうけど、自分も部活動とか興味ない?」

 この急な質問にどう返事するかわからなくて時間を稼ぐように前に置いたコーヒーを手に取って一気に飲んでしまった。

「熱っ!」

 皆は私に向けた。

「チズちゃん何しているか?そんなに熱いものを一気に飲めば焼けるよ?」

 サトミちゃんは私を叱りつつミサちゃんが私にお水を渡した。それも一気に飲んでしまった。ダイキくんはこのシーンを呆然と見つめた後に笑い出した。

「何がそんなにおかしいか」

「っや、初めて焼けるまでコーヒーが好きな人と出会った気がする」

 私は頬を膨らんだ。そんなに好きなわけないよ、と思った。

 目のはたに竜介が心配そうな顔で私を見つめた。どう考えてもこの人は可笑しい、と思った。


 その後、5人揃って色々な店を回った。案の定、サトミちゃんとミサちゃんはこのシーズンに流行っているファッションを気に入っていっぱい買った。ダイキくんものりに乗ったように何枚のシャツを買ってしまった。私は服についてそんなに興味はないから遠慮したけど、毎回サトミちゃんが店から新しいビニール袋を持ってくると私が早く彼女から取った。

「ありがとうチズちゃん、そこまでしなくていいけどさ」

「いやいや、サトミちゃんの鞄を持ったら、また先に行かないはずだから、私のためにしている」

 それは半分だけ冗談だ。

 竜介は相変わらず静かに全部を見た。店に入ると彼も竜介と同じように色々なシャツを試着するけど、毎回結局手ぶらで店を出る。

 4~5つの店の時ぐらい、彼は私の隣に立って、スマホに何かを打ち込んで私に見せるように出した。

「ダイキくん、あのシャツはすごく似合うよ」

 私が私の横に出された画面を見ずにダイキ君の元に行った。何か言いたいことあればちゃんと言う、と私は自分に言い聞かせた。

 私の後ろにミサちゃんが店に見つけたスカートを試着したまま竜介にかけた。

「どう思う?」

 私が彼女の声が聞こえた。それで、少しの間の静かの後――

「あ、本当?よかった。うれしい!」

 彼は何か返事としてスマホに打ち込んだようだ。何がうれしいでしょうか。本当に可愛いとか綺麗とか思ったらメッセージじゃなく口で伝える。

口で伝えないと意味がない、と思った。メールで告白する人はただ断れてしまうかと怖いし、メールで別れる人もただ卑怯者だと思った。メッセージではじめて愛とか伝えられたら誰が嬉しいでしょうか?誰がその言葉を信じるでしょうか。

 どう考えても竜介はただ卑怯な生活を過ごしている、と思った。

 けれど、私の心のどこかに自分の考えでも信じていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私たちの出会う時、無言だね 永人れいこ @nagahitokun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ