自由な男と囚われの男

@Wisyujinkousaikyou

混合

この世には様々な部類の人間が存在している。

例えば、『会社員』と大まかな部類の中にも、普通のサラリーマンから代表取締役まで様々。

学生もそうだ。

現代社会において学生は一番大切な存在である故、様々な葛藤を繰り返している。


今回はそんな学生の話をしよう。


「今回のテスト九十点だったよ!」

大きな屋敷の玄関から響く元気な声。

長い廊下を抜け、リビングでソファーに座り紅茶を飲む母の元へ走っていく男の子。

彼は【大路松 柚希】。

父は一流会社の社長でいわゆる大富豪。

「見てお母さん!」

少年は高校数学1のテストの回答用紙を持って見せつける。

「……九十点? それが何でありますか? 柚希は毎回百点のみを取ればよいのです。あと私の事は『お母様』と呼びなさい。礼儀がなってないわよ」

母の辛辣な言葉に黙りこける少年。

「返事は?」

「はい……お母様」

少年はとぼとぼと部屋に戻っていった。


次の日、学校に着くと女の子たちが迎えてくれる。

『キャー! 柚希様!』

彼は一切振り向かずに教室へ向かった。

今日の時間割は一から五限は通常授業。六限、七限で進路についての講演があるらしい。

通常授業を難なくこなし、いよいよ例の講演会。

「さて、今日は高校一年生の皆さんのための将来の進路のための講演をしていこうと思います! さて、皆は将来の事考えているかな?」

担任の投げかけに何か反応した者は居なかった。

「まぁそうだね、でも、受験が終わったからって気を抜いていたらだめだぞ? 人生遊ぶとき遊んで、やる時はやるんだ。君たちは今この高校の生徒なのだから、しっかり将来の事を考えるんだぞ!」

先生の話に生徒は呆然。

ユズキも遠くを見ていた。

「おいおい、なぜ黙るんだ? クラス委員長の大路松は別に構わないが、ほかのみんなはしっかり考えろよ!」

生徒たちはため息をついた。

一人を除いては……。

「こらぁ! 鍵村! お前は成績も悪いし日々何かに参加してるわけでもないんだからしっかり考えろよ!」

教室の窓の外を見てぼーっとしている彼。【鍵村 拓海】。

成績不良、素行不良。ユズキとは正反対の存在である。

タクミは先生に怒られるも何も聞こえていないのか、一切動こうとしない。

それどころかあくびをして寝始めるしまつ。

その様子を見て、ユズキはタクミを下に見始めた。

もともとまったく関わりの無かった二人だが、今後も関わらなくなりそうだ。

ユズキはそう確信していた。

しかしそのフラグは十五秒で折れた。

「分かったぞ鍵村! おい、大路松! 委員長らしくほらぁ、何とか言ってやれ! 同級生に言われた方のが心に響くらしいからな!」

ユズキは優等生なので先生にはなかなか逆らえない。

「……分かりました」

スタスタと歩き始める彼の姿にクラス中がざわめく。

「鍵村君、君少し真面目に授業受けたりしたほうがいいよ。そうじゃないとこれから大変に……」

ユズキがまじめに諭そうとしたときだった。

「ッせーな。お前みたいな親のすねしかかじれないバカ息子に何が分かるんだよ」

とタクミが立ち上がる。

クラス中が騒然とする。

ユズキはタクミとの身長差に圧倒されそうになる。

「いや、そもそも僕はクラス委員だから君に注意してるだけで……」

ユズキの答えにタクミは

「はぁ、これだから。 どうせ家でもちやほやされてるだけで何も思っちゃいないんだろ?」

その言葉にユズキの中の何かが切れた。

ピシッ!

タクミの頬をユズキが叩いたのだ。

「君には何も分からないさ!」

ユズキは怒って言った。

「……ふふ、上等じゃねぇか。 放課後、学校裏の土手に来い」

そう言い残してタクミは教室から姿を消した。

「お、大路松! あんな奴の挑発に乗らなくていいんだからな! な! だから君はここでまじめに過ごしなさい! 鍵村に襲われたら直ぐに言うんだぞ! 学校はお前の見方だからな!」

と教師が駆け寄り、ユズキに言う。

その時、ユズキは何も言わなかった。


そして放課後、西日の眩しい川の土手の上に一人の少年の影が。

「……呼ばれたってことは……喧嘩だよな……」

ユズキが喧嘩の構えの練習をしていると、

「おぉ、来た来た。少しは根性あるみたいだな」

両手をズボンのポケットに入れたタクミが姿を現す。

「ぼ、僕をここに呼んだってことは喧嘩……なんだろ?」

ユズキの言葉にタクミはニヤリとし

「さぁ来い! 大路松!」

と叫んだ。

「うぉぉぉぉぉぉ!」

喧嘩などしたことのないユズキは目を閉じ、両手をぐるぐる回しながらタクミに襲い掛かった。

ユズキがタクミと当たる瞬間、彼は自分で自分の足を引っかけ、後ろに倒れる。

その上にタクミの足でつまずいたユズキが馬乗りになる。

「はっはっは!」

タクミは大笑いする。

ユズキは彼の声を聴いてゆっくりと目を開け、自分の光景に驚く。

「あ、あれ? 僕……え?」

「まぁまぁ落ち着け大路松。いったん俺の上からどいてくれ」

「あ、あ、ご、ごめん!」

ユズキは急いで退いた。

タクミは一度立ち上がり、土手の斜面に寝そべり、夕焼けを眺める。

「大路松も来いよ」

タクミはユズキを自分の横に座らせた。

「えっと……、喧嘩するために呼んだんじゃないの?」

「いや、そんな気一ミリもなかったさ」

タクミの言葉にユズキは驚いた。

「え!? じゃあいったい何のために……?」

「お前に忠告しなきゃいけねぇことがあるからな」

「忠告……?」

ユズキは息をのむ。

「いいか、お前はロボットじゃない。人間だ。だからすべての事を信じ実行する必要はない」

「べ、べつに僕は……」

「いいや、お前は今のままじゃ使い捨てのロボットさ。なぜあのクソ担任がお前なんかのことを大切にすると思う?」

タクミの意見に

「それは僕がまじめに学業に取り組んでいてクラス委員も……」

「金だよ」

ユズキの意見はその一言で消し去られてしまった。

「このクラス一の問題児は俺じゃない。お前だ。お前みたいにいつも周りからちやほやされている人間は何もできない。何も生み出せない」

「そんなことない! 僕だって探せば……!」

「ほう、言ってみろよ」

「えっとそれは……」

ユズキは黙ってしまった。

「別に俺はまじめがお前のいいところじゃないだなんて思っちゃいない。ただ、おまえはそのまじめを何に使ってきた?」

「……」

「俺の場合、一家全員整備士。だから正直、学業なんかより技術が必要だ。高校にはもし整備士としての仕事がなくなった時の保険としか思っていない」

ユズキはおもむろに地面に寝っ転がる。

「なぁ大路松、一回整理しろよ。それ」

「整理? いったい何を……」

「お前の背負っているそのおもそーな荷だよ」

「荷……? いや、そんなの僕一人で……」

ユズキは遠慮気味に言った。

「はぁ、お前変わる気あるか? 俺には大体わかるからな? まず家で高得点のテストを親に見せてももっと上を取れって言われて、学校では女子から人気故に男子の友達も作れない」

「分かった……」

タクミの言葉でユズキは自分の荷を全て話した。


気が付くと辺りはもう真っ暗になっていた。

家に帰ると、カンカンになった母親が。

「ちょっと! 柚希! いったい何をしていたの! あぁもう! 学校終わったらさっさと帰って勉強しろってあれだけ言ってるはずですのよ?」

するとユズキは

「お母様、邪魔。僕はお母様やお父様のロボットじゃない」

とスタスタと部屋に戻っていった。

ユズキの背を見た母親は魂が全て抜けきったような顔をしていた。


次の日の朝、ユズキは朝ご飯を食べる前に家を出た。

母親は昨日のショックか風邪をひいたらしい。

ピーンポーン!

ユズキはとあるぼろい整備工場のドアベルを押す。

「よう、ユズキ、上がっていいぜ」

ドアから出てきたのはタクミだった。

「おはよう! タクミ!」

今日この日、ユズキは何年かぶりに他人に笑顔を見せた。

それからというもの、ユズキは女子たちへ対応が変わり、手を振ったり笑いかけたりするようになった。

ユズキはタクミに感謝の意を表して、今は彼に勉強を教えているという。

二人の仲の良さは学校中の評判となり、教師たちにも大きな激震が走ったという。

しかし、成績は落ちるどころか二人でぐいぐい上がっていった。

なぜ二人の成績が上がり続けるかは未だに謎であるが、二人が学校裏の土手で昼寝をしている姿やゲーセン、商店街などで遊んでいるところの目撃情報が多々上がっていた。

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