01-1
毎日が憂鬱だ。長谷川 舞がそう思いながら大学に登校する。
彼女は、今年で大学3年生になる。大学受験の際、
東京の大学に行きたいと心に決めていた。
最初の頃は親に反対されていたが、それでもめげずに勉強し、そして、東京の大学に見事合格した。
夢にまで見た東京のキャンパスライフに長谷川は、胸を踊らせていた。
地元から出て行くとき、母は
「東京は危ない街が多いから気をつけなさい。」
と長谷川に伝え彼女を見送った。
長谷川は、念願の東京暮らしに期待を寄せていた。
しかし、その生活は長谷川が思っていたのと違っていた。
アパートの家賃やガス代、電気代等の額が地元に比べてとても高いのだ。
それだけではなく、大学で出来た友達と遊ぶためのお金、学費等々。
親から少しばかりの仕送りが送られてくるが、とてもそれでは払えそうも無い。
そこで長谷川はアルバイトを始めた。
自宅近くの駅にある飲屋街にある居酒屋だ。
大学の講義の終わりにその居酒屋でバイトをする。
居酒屋の時給は中々良く、夕方から閉店の23時までそこで働く。
このバイトの給料と実家からの仕送りで長谷川の生活を養っている。
アルバイトのなかには長谷川の他にも同じ大学に通っている学生がいるのでとても楽しく働けた。
しかし、そんな時にある事がおきる。
この事が、長谷川にとって日々の生活を憂鬱にさせる。
長谷川の他にも同じ大学のアルバイトがいるのだがその中に 清水 典明 という男がいる。
その男は、容姿がとても良く明るい性格でいかにも異性に好かれそうな男であった。
実際にバイト先でも人気は高く、よく同じバイト仲間の女の子達が彼に話しかけるのを何度も目にしている。
実は長谷川も彼を少し気になってはいた。しかし、他の女の子達が彼に話しかけていたりと中々自分から話しかけるタイミングがなかった。
ところが大学2年のある日、彼から
「長谷川さん。」と、話しかけてくれた。
「仕事の方は慣れた?」
「大分...ですね。」長谷川は少し照れくさそうに返した。
そこから2人は、会話を進め次第に距離が縮まっていた。
「今度の日曜とかヒマ?」清水から唐突に誘いの言葉が来た。
「多分大丈夫だと思います...。」長谷川は少し迷いながらも答えた。
それからちょくちょく2人で飲みに行ったり、遊びに行ったりなどして次第に2人は恋人同士になった。
やっと出来た彼氏、長谷川はとても嬉しかった。
しかし、清水にはある噂があった。
ある日、大学の友達 西川 あみ とともに昼食を摂りながら彼氏になった清水について話していた。
「えっ、あの人と付き合ってるの?」と、西川は驚いた顔で長谷川に言った。
長谷川は「そーだよ」と嬉しそうに言った。
嬉しそうな長谷川になぜか申し訳なさそうな表情で
「舞、その人と別れたほうがいいとおもうよ?」
なんで?と長谷川が聞くと西川の口から衝撃の言葉が出た。
長谷川の彼氏、清水は実は昔から女性との付き合いが最悪だと噂されていた。
まず清水は複数の彼女がいるという。要するに浮気だ。そして毎日いろんな女性に声をかけ遊び倒しているらしい。
さらに、ある1人の彼女が浮気されていると気付き清水に浮気をしているんじゃないかと問うと、何かで口封じされ、しかもそれをバラされたくなければ金を寄越せと要求され、その彼女はバラされたくないがために金を渡し、渡す金がなくなった彼女は、バイトと掛け持ちで裏の仕事で生活費を稼いでいるらしい。
長谷川はそれを聞いてただ驚くだけだった。
「裏の仕事って?」
「多分風俗とかじゃない?」
彼が本当にそんなことをするのだろうかと清水のあの優しそうな顔を思い出しながら考えた。
「わたし聞いてみる。」長谷川がいうと、
「いや、やめといたほうがいいよ!?」と必死に西川が止める。
「だって、あの人がそんなことするような人だとは思ってないもん。」彼を信じたい。その思いが長谷川から伝わってくる。西川は、
「わかった。けど、もしなんかあったら私に相談してよ。」
この会話の次の週、長谷川は清水を食事に誘いその帰り道、長谷川は清水君と呼び、話し始める。
「どうしたの?」清水が聞くと
「女の人からお金を貰ってるって本当?」と長谷川が言った瞬間、清水の右眉がピクンと動いた。
「なんで?」と清水が少し焦った様子で聞く。
「噂で聞いちゃって...。」長谷川は清水の様子が変わったことに気付いた。
「ただの噂でしょ?」と言う清水に対して長谷川は、
「私の他にも付き合ってる女の子がいるんでしょ?」と長谷川が聞いた瞬間、清水の様子が変わり少し空気がピリッと変わった。
もう色々聞かれてるな。と、思った清水は、
「じゃあ、もしそれが本当なら舞は俺と別れるの?」
やっぱり本当だったんだ、信じてたのに。と長谷川は思っていた。
「そういう人とは付き合えない。」長谷川が言った瞬間、清水はポケットからケータイを取り出す。
そして清水は急に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「そうか、じゃあ舞にこれを見せよう。」と清水はポケットから取り出したケータイを舞に見せた。
「何これ...。」長谷川は青ざめた。ケータイに映ってるのは長谷川の裸の姿だ。そして動画に映っている場所は清水と始めて行ったラブホテルだ。
「まさか、これを出す日が来ちゃうとはね。」
「いつこんなの撮ったの!?」長谷川は怒りを含んだ様子で清水に聞いた。
「まぁ、口止めのためかな?こうでもしないとみん言うこと聞いてくれないからさ。」清水は以前の優しい雰囲気では無くなりヘラヘラした感じで長谷川に説明する。
「もし君が、この事を大学やバイト先のみんなにバラすとどうなるかわかるよね?」
「どうする気?」と聞く長谷川に清水は、
「この君の恥ずかしいセックス動画を、SNSや大学とバイト先のみんなにばら撒く。」
「やめて!!」長谷川は少し泣きそうなりながら続けた。
「どうすれば消してくれるの?」すると清水は長谷川の顔の前に手の平を見せ、
「50万。50万を大学卒業までに払ってもらう。そしたらこの動画は削除しよう。」
50万。その額に長谷川は驚きを隠せなかった。
私が社会人ならまだしも私はまだ大学生だ。それ以外にも支払わなければいけないものが色々ある。
清水は「じゃあこの動画のために頑張ってね。」と言い、バイバイと馬鹿にするような感じで手を振り姿を消した。
長谷川はただその場に立ち尽くすたけだった。
それから地獄の日々だった。
大学では彼の姿を見かけるとすぐにその場から逃げるか、姿を隠しやり過ごす。
バイト先では彼と同じシフトにならないように店長にお願いしながら仕事をした。
しかし、それでも清水と一緒になってしまうときがあり、その空間にいるのがとても嫌だった。
表では愛想良く振舞っているが、裏ではそれらを欺くように人の金を奪い、女性達の身体弄ぶ最低な男でだったのだ。
長谷川は大学生やバイト先の仲間の目を盗み清水に声をかけ、少しずつだが金を渡していった。
それから今に至る。あれから約1年、中々減らない金額に長谷川は悩みを抱えていた。
もういっそのこと西川に相談しよう。長谷川はそう思いながら講義を受けていた。
講義が終わり、長谷川はバイト先に向かおうとした。その途中、長谷川は校門の道沿いにあるベンチの上で寝ている男に遭遇する。
その男は、耳にヘッドホンをして音楽を聴きながら寝ている。
長谷川はこの男に見覚えがあった。名前こそわからないが、よく講義に出ている人で、とても眠たそうに講義を受けている。
友達はそんなに多そうではないがいるかもしれない。けどそんなに目立つようなタイプではない。
長谷川はそう思いながらもこの場を後にしようとしたとき、カチャンと音がした。
寝ている彼のヘッドホンが落ちた音だった。長谷川はそのヘッドホンを取ろうとした瞬間、彼の手と長谷川の手が同時にヘッドホンに触れた。彼は起きているようだった。
「「あ...。」」2人は口を揃えて言った。
「あの、起きてたんですね。」と言いながらヘッドホンから手を離す。
「起きてましたよずっと、あとあなた、ジロジロ僕の方を見てましたよね。」
バレたと思った長谷川
「まぁ、こんな道のベンチで堂々と寝ている人がいたならですけど。」
少し焦った様子で話す長谷川に彼は、
「そうですよね確かに、でもここ結果落ち着くんですよ。」
「何を聴いてるんですか?」
そう聞く長谷川に彼は、ヘッドホンに繋がっているケータイを長谷川に見せる。
「ジャズです。ジャズを聴いています。」
色んな音楽が世に出ている時代に渋いもの聞くなーと長谷川は不思議そうに思った。
「変わったのを聴くんですね。」
「よく周りに言われます。」と彼言う。
「そう言えば私よくあなたのことよく講義で見かけるんですけど...。」の長谷川に対し
「あなたは僕のファンかなんかですか?」
すぐさま長谷川は、否定して
「いえ、よく会うなーと思って、だけど名前まだ知らなかったなーと思っただけです。」
「名前?」
「はい、多分これも良いきっかけだと思うのであなたの名前を聞いてもいいですか?」
すると彼は自分の名前を名乗った。
「僕の名前は 葛城 悠馬 って言います。」
彼はそう名乗った。
ジャズが流れる刻。 chiba. @chiba3205
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