縁結びの鬼

kanegon

縁結びの鬼

「ね、ねえ、佑二、こ、恐くない?」

「ま、まあ、そりゃ、肝試しだからな。全然恐くない場所でやっても意味無いだろう」

「それはそうだけど……なんか、この神社、随分参道が長いよね」

「ああ」

「スマホの明かりってこういう時に大した役に立たないね。電池ばかり食いそう」

「ああ、使わない方がいいよ」

「スマホも使わないと、ほんと真っ暗だね。何か出そう……」

「そんな。迷信だろ」

「いや、この神社って、恐ろしい人食い鬼を祀っているらしいよ」

「鬼? 神様を祀っているんじゃないのかよ?」

「神社って、そういうもんらしいよ。良い神様だけでなく、恐ろしい神様とか鬼とかが悪いことをしないように祀ったりするみたいだし」

「へえ、妙に詳しいな。……って、おい、くっつくなよ」

「だって、しょうがないじゃない。恐いんだもん」

「だから、くっつくなって。肘に柔らかいものが当たっているぞ」

「やっ……やぁねぇ。佑二のエッチ……」

「だから離れろって。人に見られたりしたら、色々誤解されるだろ」

「誰も見ている人なんかいないって。こんな真夜中に、寂れた場所にある不気味な神社なんて来るの、私たち四人くらいのものでしょ?」

「そりゃ、肝試しのために、わざわざここに来たんだからな」

「きゃっ、佑二、あれ、人の顔が……」

「あ、あれは木の幹のコブになっている部分が盛り上がって鼻みたいに見えるだけだろ」

「そ、そうかな? ……ひっ、い、いま、左の茂みで物音が……」

「野良猫か何かじゃないか……だから胸が当たっているって」

「だって、マジで恐いよ……」

「……今、通り過ぎたのが二番目の鳥居だっけ? 鳥居って全部でいくつあるって言っていたっけ?」

「さあ、参道がかなり長いから、なんかいっぱいあったはず……」

「よくこんな、肝試しにぴったりな神社を見つけたな。修一か? アイツ、こういう妙な部分で有能だよなあ」

「ただのデブではないってことね」

「デブとか言ったら失礼だよ愛子」

「修一も、痩せればモテそうなのにね。……ひゃんっ、今、その木の上から、女の人の泣くような声、しなかった?」

「フ、フクロウが、ホゥ、って鳴いただけじゃないか?」

「そ、そう? なんか不気味な鳴き声ね」

「……気にするなよ」

「……きゃっ!」

「危ない!」

「あ、ありがと佑二。なんか今、後ろから足を引っ張られたような」

「真っ暗だから段差に躓いただけじゃないか?」

「……お互い気を付けて歩こうね」

「ああ……」

「……ねえ、佑二」

「なに?」

「……この神社ってさ、恋愛成就の御利益があるらしいよね?」

「……え? ちょっと待てよ。恐ろしい鬼を祀っているんじゃなかったっけ?」

「うん、そうだよ」

「それなのに恋愛成就? 変だろ?」

「ちゃんとルールに則って祈願したら、その恐い人食い鬼がキューピッド役になってくれて二人は結ばれるらしいよ」

「そんな無理矢理な説、誰が考えたんだよ」

「でも、手続きを間違えてしまうと、カップルは結ばれずに破局してしまうんだって」

「それほんとに恋愛成就の御利益あるのかよ?」

「その上、ルールを守らなかった報いとして、人食い鬼に食われてしまうんだって」

「カップルが成立しないだけならまだしも、鬼に食われるとか言われると、とたんに胡散臭くなるというか、迷信臭くなるというか。誰がそんな、リスクばかり高い神社で恋愛成就を祈願するんだよ。所詮は迷信ですってネタバレしているようなもんじゃないか」

「まあ、それを言ってしまったら、ここ以外のどんな神社だって、御利益とかなんとか言っても、全部迷信でしかないでしょ」

「そうこう言っているうちに、あれが拝殿じゃないかな」

「着いた、みたいね。肝試しのルールは、拝殿のお賽銭箱の横に缶入りの甘酒を昼のうちにあらかじめ二本置いてあるので、そのうちの一本を持って帰ること、よね」

「真っ暗でよく見えないな。って、これかな。確かに缶が二本ある。これでミッション完遂、かな。お、おい、愛子、何をしているんだよ?」

「ここで私たちが甘酒を二本とも持って行けば、後から来る修一と陽菜のペアは任務達成できないから、私たちの勝ちってことになるわよね?」

「おいおい、神社の神様の前でそんなズルいことを言うなよ」

「なによ。神様なんて迷信って言っていたでしょ。それに神様じゃなくて恐い人食い鬼だし」

「そりゃ確かに迷信だけどさ。マジで二本とも持っていくのか」

「いいじゃない。別にこの肝試しの勝ち負けに何かを賭けているわけでもないんだし」

「それもそうか」

「あれ、佑二、鈴なんか鳴らして何やっているの?」

「いやあ、どうせ迷信でもさ、夜中にわざわざここまで来たんだから、ついでということで恋愛成就祈願でもしておこうと思ってさ。陽菜と結ばれますように、と」

「えええええっ? ちょっと佑二、それ、ルール違反よ」

「なんでルール違反なのさ? 恋愛成就祈願をすればいいんだろ?」

「だから、ただ祈願するだけじゃ駄目で、ルールに従ってやらないといけないのよ」

「そういえば、具体的な細かいルールを聞いていなかったっけ」

「祈願をするのは、夜中であること。結ばれたい相手と二人っきりで来ること。この二点を厳守しないといけないんだって。夜中はともかく、陽菜と一緒じゃないから今のはルール違反で無効よ」

「ちょ待てよ。それってそもそも条件からしておかしいんじゃないか。最初から両思いのカップルでもない限り、夜中に二人きりでこんな所に来たりしないだろ。それに、夜中にこんな所に来ると、恐いから、吊り橋効果で相手に好意を抱いてしまうってことなんじゃないのか?」

「つっ、吊り橋効果かどうかは知らないけど、なんで私じゃなくて陽菜なのよ! せっかく肝試しのペア決めのクジに細工して佑二とペアになったのに!」

「えっ、そ、そうだったのか」

「それより佑二、ヤバいわよ。ルールを破っちゃったから、人食い鬼に食われてしまうんじゃないかしら」

「まさかそんな。……って、今、女の人の悲鳴みたいの聞こえなかったか?」

「フ、フクロウってさっき佑二が言っていたでしょ」

「いや、今の陽菜の声だったような」

「まさか、モテない修一がムラムラして陽菜を襲ったとか」

「さすがにそれは無いと思うけど、念のため急いで戻ろう!」

「え、ちょ、走らないでよ、真っ暗なのに」

「うわっ、後ろから足を引っ張られた!」

「ちょっと佑二、走るから転ぶんでしょ。躓いただけだって」

「いや本当に引っ張られたんだ。……あ、後ろの茂みから物音が聞こえないか?」

「さ、さっきの野良猫じゃないの?」

「いや、なんか、もっとクマぐらい大きいものが潜んでいるような……」

「そ、そんな……恐いこと言わないでよ……」

「うっ、……あ、あそこの木の所に亡霊の顔が!」

「ヤダ……木のコブって言っていたでしょ」

「いや、その顔が笑ったぞ! やべぇよ……」

「ちょ、佑二! 私を置いて逃げないでよ! 待って!」

「神に捧げられた甘酒を盗んだ不届き者はお前だな」

「な、なによ佑二、ヘンに太い声を出して……って、え?」

「男はお前を守らずに逃げた。二人は結ばれぬさだめ」

「佑二! 助けて! 後ろから変な声が! マジで人食い鬼が追いかけて来ている!」

「旨い、旨いぞ。お前の肉は柔らかくて旨いな。特に胸の部分は柔らかくて脂が乗っていて、甘酒が進むぞ……」

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