西日本魔法少女大戦
にゃべ♪
鳥取戦線
敵の罠にはまって島根に着いてしまった魔法少女達はそのまま日本海側経由で最終目的地である大阪に向かう選択をする。何故だか日本海側は2人を襲うモンスターが少なく、想定より楽に進む事が出来ていた。
これは単純に日本海側にあまりモンスターが進出していなかったから。その理由は分からない。
そうして島根を越えて鳥取に入り、ある程度進んだところで彼女達は多数のモンスターに待ち伏せされる。その集団のリーダーは、2人を島根に飛ばした元凶、死神っぽい外見のモンスターのゲインだった。
喋るモンスターは幹部級と決まっている訳で、彼女達も思わず緊張で魔法武器を握る手を握り直す。
「ほう、まさかあの洞窟を抜けられるとはな。少し計算外だったぞ……」
「な、何でここにお前がいるっ!」
魔法少女の1人、ブレード使いのキリエが啖呵を切った。ゲインはまぶたを閉じて額を指で抑え、軽く頭を振るとため息を吐き出す。
「私はね、勝利を確信していたんです。だから広島で祝杯を上げていたら、貴女達が無事脱出したって言うじゃありませんか。だから急いで駆けつけたって訳ですよ」
「それはまたご苦労な事だな……」
「全くです。大人しく洞窟でくたばってくれていれば、こんな田舎に顔を出す事もなかったのに……」
全鳥取県民を敵に回す言葉をゲインはしれっと口にする。その暴言にもう1人の魔法少女、銃使いのマルルが挑戦的な顔で皮肉を口にした。
「あなたこそ、広島で牡蠣に当たって苦しめば良かったのにね」
「なっ! その暴言許しません! ここが貴女達の墓場です! 我ら異世界モンスター東方担当特殊戦せブヒッ!」
マルルは得意げに自分達の所属部隊の名前を高らかに宣言するゲインの顔に向かって銃弾を撃ち込む。無防備だった敵幹部は攻撃を受けて呆気なくひっくり返った。
「ごめん、話が長かったからつい」
マルルは少しも悪びれる事なく形だけの謝罪をする。攻撃自体の威力は軽微だったようで、すっ転んだゲインもすぐに起き上がった。そうして握り拳を作り、こめかみに青筋を立てながら、目の前の礼儀知らずな魔法少女に向かって渾身の抗議をする。
「お、おまっ! ルール違反だぞ! 名乗りを上げている間の攻撃禁止は敵も味方も守るべき重要事項だろうがっ!」
「そっちが隙だらけの方が悪いんじゃないの。馬鹿なの?」
この手の物語のお約束を力説する敵幹部の言葉をマルルは冷めた顔で一蹴する。その態度を目にしたゲインは怒りが頂点に達した。
そうして対峙している魔法少女2人に向かって指をさすと、邪悪に顔を歪ませて挑発的な言葉を投げつける。
「言ったな? じゃあお前らも変身途中で攻撃してやるからな! 覚悟しておけよ!」
ゲインはドヤ顔でふんぞり返る。どうやら悪の幹部らしくものすごく卑怯な事を言えたと自分に酔っているのだろう。
しかし、言われた側の魔法少女達には何もダメージは与えられていないようだった。逆にその程度の言葉でドヤ顔っている敵幹部を憐れむように見つめ返す。
「ざ~んねん。だって私達はずっと変身してるし」
「いつ襲われてもいいように常にこの姿のままだ」
マルルとキリエはそう言いながら、ビシッと変身完了ポーズを決める。その姿は堂々としていて、敵も見惚れるほどのものだった。
自分の挑発が全く無意味だと言う事に気付いたゲインは、さっきまでの自信満々な態度から一転、今にも腰を抜かしそうな勢いで後ずさる。
「な、何……だと?」
「私達は隙なんて見せない! いくよ!」
キリエはそう言ったかと思うと、超高速でこの間抜け敵幹部の至近距離まで一気に距離を詰める。
この不意打ちに全く身動の取れなかったゲインは、彼女の必殺のブレード攻撃をその身にまともに受けてしまった。
「キリエスラーッシュ!」
「何故だァァァァ!」
こうして死神っぽくて強そうな雰囲気を醸し出していた敵幹部はキリエの一撃で空の彼方に飛んでいった。
幹部がいなくなった敵集団が脆いのもまたお約束で、その後にキリエがブレードを構えただけで大群はバラバラに散ってしまう。
2人は間抜けな敵幹部を1人ふっとばしただけで、この難局をあっさりと乗り切ったのだった。
「「いえーい!」」
風景からモンスターの姿が一掃されたところで、2人は笑顔でハイタッチ。行く手を阻む障害物がなくなったと言う事で、魔法少女達は旅を再開させた。
その後、野良モンスター程度にしか遭遇しなかった一行は順調に旅を続け、日が暮れる頃には兵庫との県境にまで駒を進める事が出来た。
もうすぐ夜になると言う事で、キリエが今日の旅の終わりを宣言する。
「ふう、今日はこの辺にしとくか」
「そうですね、まずは泊まれそうな所を探しましょう」
「ふふ、そうは問屋が卸しませんよ……」
2人が今日の寝床を探し始めたその時、道の向こう側から謎のシルエットが現れた。その口ぶりから間違いなく敵である事がうかがわれる。気配を察知してすぐに臨戦態勢を取る魔法少女達。
緊張感が場を支配する中、その謎の声の主はゆっくりとその姿を2人の前に現した。その全身像は何だかイカっぽい感じだ。
イカっぽい姿にスーツを着込んだその異様な造形はまさに異世界モンスターと飛ぶに相応しいものだろう。そのイカは完全に姿を現すと、紳士的にペコリと頭を下げた。
「お初にお目にかかります。我が名はグラーンと申します。以後お見知りおきを」
このまさかの展開に驚愕したのは魔法少女側だった。その理由をキリエは激白する。
「嘘だろ? 敵本拠地以外での喋る幹部的なやつの出現は1日に1人のはず。ルール違反だ!」
そう、この手の物語のお約束を外した事に文句を言っていたのだ。このクレームに対して、イカ、もとい、グラーンは当然のように反論する。
「そっちが勝手に設定したルールなんて知るか!」
こうしてなし崩し的に敵幹部戦第2ステージの幕が上がる。お互いに挑発しあった結果、場は既に暖まっているぞ!
「では早速イカせてもらいますよっ!」
グラーンはそう言うと両手を伸ばし、触手攻撃を開始する。ぐにゃんぐにゃんに伸びまくる触手は魔法少女達の意表をついて、秒で2人の拘束に成功した。
「きゃあっ。キリエ、大丈夫?」
「くううっ、まさかここまで手が早いなんて……」
「誤解を招くような言い方は止めてもらいましょうか!」
一瞬で魔法少女2人の自由を奪えて、イカモンスターは悦に浸る。
「くくく……さあどう料理してあげましょうか。今まで我々は貴女達に散々煮え湯を飲まされてきましたからねぇ……」
「にやけんなこの変態触手イカ野郎!」
「何とでも言いなさい、もう貴女達は何も出来なないのですよ?」
キリエの挑発にもグラーンは全く動じない。自分が優位な立場に立っているのだから当然だろう。触手に縛られながら千載一遇のチャンスを狙っていたマルルは、無理やり体を動かそうとする。
「無駄ですよ。私は触手から全ての情報を把握出来ます。貴女、あの最終兵器を起動させるつもりなのでしょう? そうはイキません」
「くううっ……そんな」
「流石にトリへの対策はしてきたか」
最後の切り札を封じられてしまい、魔法少女達は落胆する。その切り札はと言うと、この状況にも関わらず道端でのんきに寝息を立てていた。
2人の視線からだらりと無防備に眠りこける体調30センチのぬいぐるみのようなマスコットを発見したグラーンは、一番の好物を目にした飢えた犬のような顔をする。
「なるほど、こいつがそうですか。何だ、寝ている間に倒せば楽勝じゃあなイカ」
イカの、じゃなかった、グラーンの目が狂気に歪む。魔法少女を束縛して、ゆっくり歩く地面に接地した足を除いてもまだ使える触手は6本もある。トリピンチ!
苦労して手に入れた切り札の危機を前に、キリエは大声で叫んだ!
「ああー! それこそルール違反だーっ!」
「知った事かーっ!」
勝利を確信したイカモンスターが大声で叫びながら残りの触手全てを使ってトリを攻撃する。魔力を宿し破壊力を増して鋭利な槍と化した6本の触手が超高速でマスコットに迫る。
今まさにイカモンスターの触手によって体を貫かれようとしたその瞬間、危険を察知したトリの目がピカっと光る。
「うっさいホー!」
「そんなバカなァァァァ!」
緊急危機察知能力で目覚めたフクロウマスコットは、一瞬でグラーンをこんがりと丸焼きにする。触手が焼き切れ自由を取り戻した魔法少女達が目にしたのは、美味しそうに焼けたイカモンスターの姿だった。辺りにはとても美味しそうなイカの匂いが漂っている。
この時、一行のお腹が鳴ったのは多分偶然ではないだろう。
「うんまうんま。結構美味しだね、キリエ」
「モンスターもこうなると結構いけるな」
「俺様が焼いたんだホ。感謝するホ」
こうして、ルール違反を侵した幹部モンスターは魔法少女一行に美味しく頂かれたのだった。
大阪を目指す旅はまだまだ続く。孤独な戦いを続ける魔法少女達の明日はどっちだ。
次回『最後のカップラーメン争奪戦』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888924694/episodes/1177354054888924925
西日本魔法少女大戦 にゃべ♪ @nyabech2016
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