勇者も魔王も勝てないルール

結城藍人

勇者も魔王も勝てないルール

「待ってくれよ、あと少し、あと少しで魔王を倒せるんだ!」


「関係ありません。ルールはルールです。すぐにやめなさい」


「あとほんの少しだけなんだよ! そのくらい見逃してくれてもいいじゃないか!!」


「駄目です。例外は認められません。だいたい、あなたは正義の勇者なんでしょう? 正義の味方がルールを破っていいんですか?」


「だけど、このままじゃ今までの努力が無駄になるんだよ!」


「そうしないための方法もあったんでしょう? それを怠ったあなたが悪いんです」


「モンスターを倒すのに熱中してて、ちょっと忘れちゃっただけなんだよ。なあ、見逃してくれよ!」


「駄目です。すぐやめなさい」


「頼むよ、一生のお願い!」


「何度そう言ったかおぼえてますか? もう聞けません」


「待ってくれよ、そもそもこのルール自体がおかしいんだよ! 作った頃は正しかったかもしれないけど、今の時代には合わないんだよ!!」


「何も変わっていないでしょう」


「大違いだよ! あの頃とは、やってる内容が全然違うんだから!!」


「私には同じようにしか見えません」


「まったく違うって! 確かに、あの頃だったら途中でやめても何とかなったよ。最後の敵まで行くのにも、倒すのにも、そんなに時間はかからなかったし。だけど、これは違うんだよ! 途中でやめたら全部パーになるの!!」


「何が違うのか、まったくわかりません。だって、やっていることは同じでしょう。悪いやつを倒すって」


「だから、そういう意味での内容じゃないって! あの頃だったら、戦ってるうちに自分の腕が上がって、先に進めるようになるの。だけど、今はコツコツと戦って強くならないと先に進めないの。時間がかかるんだよ」


「意味がわかりません。それに時間がかかるのなら計画的にやっていけばいいんでしょう。昨日まではそうやってたんだから。それを忘れちゃったのがいけないんです」


「だから、もうすぐ魔王だって思ったから、つい熱中して忘れちゃったんだって! 今まで努力してきたのが、あとちょっとで報われるんだからさ。本当にあと少しだけなんだって。見逃してくれよ。魔王を倒せたら、それで終わりなんだから」


「駄目です。どうせまた『別の世界を救わなきゃいけない』とか言って、新しい冒険を始めるんでしょう?」


「あ、いや、その……」


「前も同じことを言ってましたよね? 何度『これで終わり』って言ったって、すぐに新しいのを始めるんだから」


「別にいいだろ! 悪いことはしてないんだから!!」


「ええ、ルールさえ守っていれば、別に咎めませんよ。でも、はルール違反です。あんまりルール違反を重ねるようだったら、私にも考えがありますよ」


「だから、そのルールが古いんだって!」


「ルールに古いも新しいもありません。あなたも、このルールを決めたときには納得していたでしょう。ほら、あなたが尊敬していたナントカ名人だって言ってたじゃないの。『ゲームは一日一時間』って。こんな簡単なルールも守れないようだったら、ゲーム自体を禁止しますよ!」


「そんなシューティングやアクションの頃のルールじゃRPGを遊ぶのには全然時間が足りないんだってば!」


 今は昔、ちょうど昭和が終わろうとする頃のお話でございます。

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