法則は乱れる

のーはうず

破るためのもの

「ルールってさ、破るためにあるじゃない?」


どちらかというと規範に対してワイルドな考え方をする学友が、平常通り唐突に物騒なことをいいだした。彼女はいつだって奔放なのだ。


「ルールっていうのは、守るためにあるもんだと思いますよ。」


言っても無駄なことはわかっているが、一応一般的な正論を申し述べておく。



「相変わらずの優等生回答! だけどね! 守るためにあるってことはルールが破られる前提があるからって考えないとおかしいよね?」


「何を言わんとしているか、よくわからないですね・・・。」


「だからさ! ルールが必ず守られる前提だったら、ルールなんてつくる必要がないわけじゃない? 破る人がいるからルール化するわけでしょ?」


「そのようにも考えることもできるかもしれませんね。」


「人を殺したらだめですよ! っていうルールは、殺しちゃうやつがでてくるからルールにしてるんだよね?」



「なんです・・・? とうとう人を殺したくなったとか・・・?」


「な、わけ、ない! はいはい、違う違う、違うって! 私はね不思議に思ったわけですよ。自然界のルールってあるじゃない。上から落としたものは下に落ちるとか、温めたら暖かくなるとか、押して転がしたものもいずれ止まるとか。いろいろ!」


「えぇ、先人の偉大な方々が自然界の中に見つけた様々な法則のことですね。」


「そう、それ。法則! ルールなわけですよ。 だけどね!ルールである以上それは破られなければならないわけですよ!!」



「・・・だから、なんです? その美学は。 でも、言わんすることはわかるかもしれませんね。物が落ちるという法則は、そうじゃない状態、ルールが守られていない状態があって初めて法則化できると。」


「そそ、そういうこと。 『物は落ちる』がルール化されなければ、人が飛んだり浮いたりすることなんて無かったわけ!」


「ときどき鋭いこといいいますね。ほとんど愚か者なのに。」


鋭い蹴りをふくらはぎに入れられた。痛い。人を蹴ってはいけませんをルール化する必要がある。いや、まてよ、ルール化しても彼女は嬉々としてルールを破ってくるのか。これは困ったぞ。


彼女はどこからか取り出したりんごをポーンポーンと上に投げ上げてはキャッチして遊んでいる。食べ物で遊ぶんじゃありません。


「こうやって、同じ力でものを投げれば、毎回同じように落ちてくるから法則として成り立って、またそれを逆手にとって法則を破ることもできるようになったんでしょ?」


「厳密には法則を破っているわけではないんですけどね。」


「でもあれでしょ、第一法則でだめになったら第二法則とかどんどんでてくるじゃない? いたったい第何形態まであるんだ!? って勇者様達も困惑しちゃうよね。 でもそれなら、最初からルール化することにどこまで意味があるんだろうって思わけですよ。」



「それは違いますよ。物が落ちる法則があるから、浮かせる法則をみつけて、浮かせる法則をキャンセルするための法則を見つけることができたわけです。魔法の授業でも師父が言ってたじゃないですか。」


彼女が投げ上げたりんごは中に浮いたまま落ちてこない。これが魔法力学第一法則万有引力拒否の法則。ここは、ルールが見つけられるたびに法則ごと破られる理りの世界。ルールは常に破られるために存在する。

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法則は乱れる のーはうず @kuippa

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