いずれは。
認知の利用者さまと関わっていくにはやはりコツが必要だと思う。勿論、そうでない方との付き合い方もあるとは思うが、やはり、慣れていない私にしてみたら認知症の方との接した方が一番分からなかった。
ある利用者さまは旦那さんをいつも待ちわびている。
近くを通りかかる職員に話しかけては、いつ旦那さんが来るのかを確認される。そして施設内をぐるぐると歩き回り旦那さんを探し回っている。
そんな利用者さまに私は一番はじめにぶつかってしまった。ぶつかったと言っても転んだりとかではなく、接し方である。
はじめはどんな風な声掛けをしたらいいのか全く分からなかった。他の職員に尋ねてもあまり教えてもらえず、手探りの状態で利用者さまと接していくしかなかったのである。
尋ねられるたびに微妙な気持ちになりつつも、また来られますよと返事するのがせいいっぱい。私のその微妙な気持ちを相手も受け取ってしまっているのだろう。不安そうな表情がさらに険しくなっていった。そして浴びせられた声。
アホ、バカ、死ね!
人生で初めてだった。そんな連続して、それもそんなにはっきりと言われたのは。
正直、私は傷ついた。
家に帰ってもそのことをくよくよと悩んだし、学校に行っても少し涙ぐむくらいに落ち込んだ。それでも仕事の日はやってくる。利用者さまに会う日はやってくる。気分は晴れないけれど、出勤せざるおえなかったし、彼女から逃げることなどできなかった。
その日を境に彼女は私に対していつもアホ、バカ、死ねの三コンボを言うようになった。流石に何度も言われれば慣れてはくる。多少心は痛むが。
しかし、彼女の行動はそれだけでは済まなかった。
私を見かけると扉を勢いよく閉めたり、わざわざ私を監視に来るようにもなった。そして、立ち去る時に死ねと叫んでいく。流石にその状況に他の職員たちも見かねてなんでそう言うことをいうの、と止めたりもしてくれたが、彼女がやめてくれることはなかった。
しかし、半年ほど経ったある日、彼女からのそれはぱたりとなくなった。
今までなら私のそばにべったりと寄り添うことなどなかったし、昔話をしてくれることもなかった。寧ろ、私の顔を見るなり死ねと叫ぶくらいだし、部屋には入るな、と拒絶されるくらいだった。彼女の中でいったい何が変わったのかは分からないが、私との接し方にトゲがなくなった。
半年も経てば私もそれなりに慣れてきたし、人見知りもだいぶ減り、多少は世間話を利用者さまとできるくらいの余裕ができた。(当時はインターンとして、それも週一での出勤だったため、勤務内容を覚えるのに一苦労していた)
その時の私の彼女への接し方は当初とほぼ変わっていない。はきはきと3日後に来られますよ、と告げるだけ。
何が正しくて正解なのかは分からないけれど、間違いなく私と彼女の微妙な溝は私が慣れてきたこと、少しずつ変わっていったことに関係しているのだと思う。
徒然なるままに。 七妥李茶 @ENOKI01
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