お地蔵さま。


働き始めて一週間と少しすれば、そのフロアの職員全員と顔を合わすことができる。たまにちらりと見かける程度の時もあるが、不幸にも幸いか、私の場合はフロア会議が近くにあったこともあり、職員全員とすぐに会うことができたのである。


私は考え事をする時、立ち止まってしまうことが多々ある。その時邪魔にならないよう隅に寄って、次に何をしよう、ああこれがないな、と考えてから行動にうつす。周りから見たら突然立ち止まった奴、と思われるのも仕方ないことだとは思う。

しかし、そんな私を気に食わない人もいるのだ。

言い訳にしかならないとは思うが、入ってすぐにリネン交換のみを任された私はフロアのことは全くと言っていいほど分からなかった。この人をどう介助したらいいのか、どんな声掛けをしたらいいのか、次に何をしたらいいのか……一室にこもり、シーツ交換ばかり行っていたため、フロアの状況のことを全く把握できていなかったのである。なので、次にこれをしてと頼まれなくては分からなかった。次に何をしたらいいのか聞かなくては分からなかった。

中にはそれを聞かれるとすごく嫌な顔をする人もいた。なんで、できないの、と言いたげに。

悲しいことに私は先を読むことが下手くそだ。うまく読めたと思っても自信はないし、空回りすることの方が多い。それならば、ということもあり、私は必ず聞いてから行動するようになっていた。

次にこれをしたらいいですか?あと何がありますか?はじめはたったこれだけの言葉さえかなり勇気のあるものだった。人生初のアルバイトであり、人生初のことばかりだったから。当然、職員たちからは何故分からないの出来ないのと言いたげにされたが、構わずに聞いた。

後日、フロアを移動する直前の飲み会にてお地蔵さまと呼ばれていたことを知ることになる。職員にはあの子は自分から動かないお地蔵さんなのだと陰で言われていたようだった。


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