告白ルール

杜侍音

告白ルール


「なぁ黒野、何でこの世にルールとかあんのかな」

「何だよ藪からスティック」

「お前こそ何だよ」


 男二人、放課後の教室で、どうでもいい話が始まった。


「いやさ、最近よく聞くだろ? 就職ルールとか飲み会での部下の立ち振る舞いとか、ああいうのってマナー講師が作った奴だって」

「あー、インターネットかなんかで見たな」

「だからルールって何だろなって。人が決めるのってなんかちげぇなーって」

「まぁ、それがルールだしな。法律とかだって無いと国が崩壊すんだろ」

「そりゃそうなんだけどさぁ」


 一人の男──名を金橋かねばしという男はどうやらルールに納得していないみたいだ。

 それもそのはず。金橋は学校で禁止されているにも関わらず、長期休暇の間に髪を金色に染めて、さっきまで生徒指導の先生にこっぴどく怒られてきたところなのだ。

 理由が、「名前に金色入ってるからー』らしい。


 もう一人の男──黒野と呼ばれた男は金橋の友達。髪色は染めずに、生まれたままの黒色だ。

 だが、ちょっと髪が長い。中二病上がりというか、ナルシストというか……。

 少し自分は達観していると思い込んでいる節がある。


 まぁ、どの高校にも一人はいそうな男たちのくだらない話である。


「なぁ、俺たちも何か作ってみねぇか⁉︎」

「何だよ藪からスティック」

「それ気に入ってんのか? あー、だからよ。マナー講師が作ったのがここまで浸透するならさ、俺たちが作ったやつも世間に広がるかもしんないだろ⁉︎」

「ほぉほぉ」

「そしたら、ほら何かさ! ちょっと良い気分になれんだろ!」

「つまり日本を支配した気分に浸れるというわけか」

「まぁ、そうだな!」


 黒野はしばし沈黙して考える。


「それ、面白そうだな」

「じゃあ決まりだな! いい暇つぶしになる!」


 金橋はノートを取り出し、ページを雑に一枚破ってルール作りの準備を始める。


「よーし! どんなルールを作ろうかな〜」

「まぁ、待て。無闇にルールを作っても意味はないだろ。ルールの統一性が大事なんだ」

「統一性?」

「そう。統一性だ。一つのジャンルに対して細かく言った方がそれっぽいだろ? 就職でのルールや、飲み会でのルールのように」

「なるほど確かに」

「だからまずは何に対してのルールかを考えるべきだ」


 男二人は知識を無駄に使っていく。

 しかし、考えてみても何も思いつかない。


「結構世の中ってルール多いよな」

「確かに。事あるごとにルールはあるな。新しく作るなら馴染みやすそうで、ルールはありそうでなさそうな状況……」


 二人がまた町内で一番無駄なことを考えていようとした時、突然教室のドアが開いた。


「あれ、人がいた。ごめん、私、邪魔しちゃった?」

空崎そらざきさん⁉︎」

「いえいえ、そんなことは滅相もございません!」


 入ってきたのは学校のマドンナである空崎。

 言うまでもなく二人は彼女にメロメロである。


 しかし、数日前に学校中を悲報が駆け巡った。

 マドンナである空崎に彼氏が出来たというのだ。相手は真壁まかべ大地だいち

 学校一の変わり者が一体どうやって学校一の美人と付き合えたというのか。

 今、学校の七不思議に登録されようとしている。


「じゃあ私、忘れ物取りに来ただけだから。じゃあまた明日」

「「は、は〜い」」


 それでも男二人は夢のような時間を過ごしたのだった。



「やっぱ可愛いなぁ、空崎さんは!」

「そうだな。俺たちも彼女欲しいよなぁ」

「それこそ告白にルールとかあればいいんだよ。これさえ守れば彼女出来るみたいな」

「それだ」

「え、どれ」

「お前が言っていた通り、告白ルールを作ればいいんだよ!」


 黒野は早速、紙に文字を書き起こしていく。


「告白ルール……って何だよ」

「告白のルールだよ。これをSNSで広めるんだ。若者はこぞって本当か確かめたくなるだろ? 成功すれば一気に全国に広まるぞ!」

「おお! でも失敗すれば?」

「その時はその時だ。失敗しても俺らが損することはない」

「違いねぇ。よっしゃ! ドンドン考えていこうぜ!」


 二人は思い付く限り、ネタを言っていった。


   ◇ ◇ ◇


『1.告白する時は半径5m以内に』


「それっぽーい」

「具体的な数字を言えば妙に信憑性増すだろ。俺ドラマとかで遠くから告白する奴、見てて辟易するんだよな」

「周りの人ビックリするよなー。ビクンってするよなー」

「他の奴に『俺、告白してますよ』アピールが嫌いだ」

「じゃあそれ追加でいいな」


   ◇ ◇ ◇


『2.服はスーツで』


「金橋……何だよこれ」

「いや俺さー、服のセンスとかねーから、みんな一緒ならいいかなーって」

「なるほどな。まぁ、楽だよな」


   ◇ ◇ ◇


『3.場所は人のいないところで』


「寂しくないか?」

「俺は人の前で告白する奴が意味分からん」

「ただの嫉妬じゃーん。これ交互にやってる感じだから次俺か」


   ◇ ◇ ◇


『4.プレゼントは500円以内で』


「子供か! もっと金出せよ!」

「嫌だよー、俺金ないもん」

「500円って牛丼食えるレベルだぞ」

「味噌汁も付けれるだろー」

「知らねぇよ」

「ほら、いい意味考えてくれよ黒野〜」

「お前なぁ……まぁ、最初は重いプレゼントは厳禁とかでいいだろ」

「さっすが黒野〜。いい意味でいい〜」

「普通にいいじゃねぇか」


   ◇ ◇ ◇


『5.フラッシュモブ禁止』


「フラッシュモブって?」

「急に踊り出す奴だよ」

「やっぱりこれ、ただの嫉妬じゃん!」

「違う! これは孤独を愛する男共の味方となるルールなんだ」

「嫉妬だろ」

「断じて違う!」


   ◇ ◇ ◇


『6.返事はしてあげて』


「無視は辛い」

「うん、そうだな」


   ◇ ◇ ◇


『7.別れてから半年経つまで告白禁止』


「何だこれ」

「俺思うんだよ。男と女の数はほぼ同数のはずなのに、童貞と処女は童貞の方が圧倒的に多いと」

「ほぉほぉ」

「それはモテる男共が貪り喰ってるからだよ! ちょっとぐらい待てよ!」

「黒野……昔なんかあったか?」


   ◇ ◇ ◇


『8.……』


「あ、思い付かん」

「頭悪いなぁ。もっとあるだろ。『願掛けに自分の髪の毛吸う』とか、『勝負パンツは相手のブラジャーの色と同じにする』とか」

「キモッ!」

「そういうの入れてこうぜ。どうせ適当なんだし」


   ◇ ◇ ◇


 こうして数々の考えたものをまとめ、SNSにあげた。


「なぁ、最後ふざけまくったんだけど」

「大丈夫だ。どうせ誰も見ないよ。んじゃいい暇つぶしになったし、帰るか」


 黒野はネタを投稿し、教室を後にする。


「つーか、広まるかなー」

「俺フォロワー5万人いるから」

「黒野すげぇな!」


   ◇ ◇ ◇


 二週間後──


 学校のあちこちで告白が知らぬ間に行われており、カップルが大増殖していた。


「ど、どういうこと……?」

「お、おい! 携帯見ろよ!」

「あん?」

「通知凄いんじゃねーの⁉︎」

「あー、俺通知切ってるから。やっぱ5万もいればちょっとダルくてさ、投稿したやつの反応見るの忘れてた……ぬぉ⁉︎」


 携帯には投稿した内容に大量のいいね! とリツイートが。


「おぉ、みんな本当にカップルが出来て良かったなぁ! こう、神になった感が……」

「『84.海沿いでの告白は海の加護を受けるために一週間海鮮食わない』とか、『169.勝負パンツを二枚重ねに履く』とか、誰かやってんのかこれ?」

「よく分かんねーけど、女子もこれ見てるから受け入れてくれるんだよ!」

「そういうもんか?」

「そうだよ! 俺らも彼女作ろうぜ!」



 しかし後に、二人は気付くこととなる。この高校は男子の方が二人だけ多いということに。

 そして、女子は見事に席が埋まったということも。


「え、余ったの俺たちだけ?」

「マジかよ⁉︎ 黒野の影響力ってすげぇなー」

「マジ無駄なことに時間使ったんだな……」

「あー、そうだ! 俺らで付き合うか!」

「バカかお前は。さっさと次のルールを作るんだよ」

「次のルール? 黒野、それはどういうことだよ?」

「彼氏が守るべきルールをデタラメに流すんだよ。そんで世の中のカップル別れさせるぞ」

「おぉ、黒野すげぇな! いい意味で頭良い!」

「ありがとよ。行くぞ金橋」


 こうして、二人は彼氏ルールを作り、次に彼女が切り出す別れルールを作ったりと、数々の恋愛ルールを作ることとなっていく。

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告白ルール 杜侍音 @nekousagi

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