第3話

朝起きて、森に入って、なにか持って帰って食べる。


ただそれだけなのに、そんなことしかしていないのに



なんで僕、今、石を投げられてるんだろう。







子供「やーい、ナナシ!!また変なもの食ってんのか!?そんなもの食ってるから頭おかしくなるんだよ!!!」


子供「そうだそうだ!!なんか言えよ!!文句があるなら言ってみろよ!!喋れない奴は犬以下だ!!!」



バキッ!


ガキッ…!


家を出たらすぐこれだ。暇なんだか知らないが、いつも僕の家の前に待ち構えていて僕に石を投げる奴らがいる。


まぁ流石、自分達から投げに来ていることだけはあって、動いている僕によく当たる。頭にあたって目の上から血が出てきた。


…ガキッていったのこれか。


適当に腕で血をぬぐうと目の前が赤い霧に覆われたように見えた。血が目に入ったのかもしれないな。


子供「やったぜ!!頭にあたったぞ!」


子供「ぎゃはは!血ぃ出てやんの!」


子供「バイ菌うつるぞ、逃げろ~!!」


『…?』


何を騒いでいるんだろうか。


僕の頭に石を命中させたことがそんなに嬉しいのか?


僕が不思議に思ってそちらを振り向くと何故か奴らは笑った顔から恐怖の顔に変わった。


子供「うわああ!?あいつ片目が血で真っ赤になってる!!!」


子供「ぎゃああ!!気持ち悪い!化け物!!」


そう言うと奴らは一目散に逃げていった。


『…???』


余計わからない。片目が真っ赤?一体誰が?


というかこのスラムに化け物はいないはずなのに…。何か見えたのだろうか??


でもこちらを指差していたが周りには僕しかいない。さっきまで誰か後ろにいたのかな…?


ナナシは話がわからないまま目を雑にこすると外から家の窓を開けた。


ふと手を見ると血がついている。足元も垂れた血がポタポタと跡を残している。


『…汚れてしまった』


ナナシは悲しそうにつぶやくと、自分の汚いTシャツの裾を破り、それで家の前の血で汚れたところをゴシゴシと磨き始めた。


ゴシゴシ…


『………』


ゴシゴシ…


無言でひたすら磨いていると隣でズリズリッと音がした。


『?』


顔をあげるとそこには白髪の女が傷だらけで立っていた。息が浅く、顔色も悪い。スラムでひどい目にあったのだろう。…それか追われているか。


周りの人間はコソコソとなにか話している。どうせ“フェイント”だからどうのこうのと言っているのだろう。


でもフェイントには狂暴な者とそうでない者がいる。この人はどうやら後者だ。皆もそれは理解しているらしい。だが手は出さず、遠巻きに見ているだけ。


『どうしました?』


ナナシが顔を覗きこむと女は膝から崩れ落ち、ナナシに寄りかかった。


女「食べ物…食べ物をください…」


女が苦しそうに言う。喉がヒューヒュー鳴っているのが痛々しい。


女は離さないで、見捨てないで、というようにナナシの服を握った。


『食べ物ですね、わかりました。立てます?』


女「!!!…恵んで下さるんですか?」


『たいしたものはないですが…それでよければ』


大衆「!!!!???」


大衆がざわめいた。フェイントに優しくするなんて前代未聞だからだ。だがその中には「またか」という人間もいた。…ナナシはフェイント救済の常習犯なのだ。


ナナシは女の体を支えながら家に入ると戸を閉めた。女を座らせ、食料の入った籠の中を見ると昨日拾ってきたムカデの死骸…ではなく、籠の隣においてあった小さな箱を取り出した。


それを女の目の前まで持っていって、パカリと開ける。


女「…え」



中身は綺麗に赤く熟した林檎だった。


『あなたが食べられそうなものはこれしかなかったです…。小さくてごめんなさい』


呆然とする女にナナシは申し訳なさそうに頭を下げた。思わず女は慌てる。


女「林檎なんて……何故こんな高価なものを……??これは…」


“林檎”と言うと家の外がざわめいた。どうせ野次馬達が聞き耳をたてて壁にへばりついているのだろう。


だがそんなことはお構い無しにナナシは箱を女に渡した。


『たまたま昔…森で拾いまして。林檎は好物なのでとっておいたんです。でもあなたに僕がいつも食べているようなものは食べさせられないですから…これで我慢していただけないですか…?』


女の手に林檎を握らせると女はぼろぼろと涙をこぼしながら何度も礼を言った。ありがとうございます、ありがとうございますと言いながら林檎をゆっくりゆっくり味わいながら食べてくれた。


『まずくなかったですか…??』


ナナシが心配そうに聞くと女は何度も頷いてまた礼を言った。だがナナシは首を傾げた。


『??何故礼を言うんですか?』


僕は当たり前のことをしたのに、何故?


“泣くほど美味しかったのはわかる”が礼を言う意味はわからない。


女「え…あ…それは…その…」


急な質問に女も焦る。そんなこと聞かれるとは誰も思っていなかっただろう。


『ねぇ…何故?』


ナナシは本当にわからない、という顔をしてずいっと女に詰め寄った。


女がようやく口を開こうとした時…





バァン!!





銃声が鳴り響いた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フェイント 字・エンドロール @rapiruri0903

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ