第2話

アディア王国。


世界ひとつがまるごと国。


有名とかそんなものではない、常識のひとつの巨大な国。


世界の果てまで行けばちょうど一周できる、と言えばわかるであろうが、その領地はばかでかい。


いくつもある区は「あ」~「ん」までの名前でランクづけされている。勿論「あ」から始まる名前の区はランク1、つまりは一番広く、人口が多い。


ちなみにそれはアイディという発展都市で人口約500万人のモンスター地区だ。誰もが一度は行きたいと願う、全てが最先端の場所でアディア王国の首都でもある。


だがこの話の主人公がいるのはそんなキラキラした都会ではなく、むしろ下級の地区だ。


今回は東の小さな町に目を向けてみよう。


「メルヴェイス」


道も家も全てが白い(汚れた白)、王国の中では珍しい“おかしな”場所で人口は約2万人。町も村もほとんどがスラムと化していて白髪のフェイント達が潜みやすいと言われている。実際、他のどの町よりもフェイントの出現率が高い。だからどこよりも警備が厳しく、商売をするにも向かないために人が寄りつかなくなって家のない者達のたまり場となった。


そして、メルヴェイスの中の町の端の端の端…まで行けば“その子”に会える。


スラムの子供達の中でも変わった子、ナナシ。12歳くらいの濃紺色の髪で銀の目を持った少年。


結構有名だ。…名がないのに。


勿論ナナシというのはただのあだ名で周りの連中が勝手につけた名だ。だが本当の名は誰も知らない。もしかしたら本人も知らないだろう。ない、ということも自覚していないかもしれない。


ナナシは町のはずれの一番小さな家に住んでいた。普通スラムの人間は食べ物の残りやゴミを食べたりしているのだがナナシは違っていた。それが有名になった理由だ。


ナナシの家の隣はただの森で、動物はいず、植物だけが生えているような所だった。スラムでは植物には毒があるものがある、と知られているので誰も森には入らずにいたがナナシはどんな植物でも食べてしまう奴だった。


毒々しい色のキノコでも苦い草でも、汚い土でも、虫の死骸でも。

いつだか、よくわからない黒い物体を持って帰ってきたこともあるという。そしてそれを火にかけるわけでも水で洗うわけでもなく、そのまま食べつくす。たまに優しい人が「大丈夫か」と声をかけても何も言わないで森に食料探しに行ってしまう。


要するに変人ということだ。大人達はナナシを忌み嫌い、子供達はナナシをいじめた。


だがそれでもナナシはその町に居続けた。まるでその生活を繰り返すことしか能がないかのように。





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