彼女、餌をまく。
異世界のノミカイとやらに参加して、一人の男と出会った。
周りの人間から”カンジ”と呼ばれ、酒の席ではあちらこちらで酌をし、周りの人間に気を配っている、なんとも真面目な男であると思った。
そんな男を見ていると、ひとりでいたわらわに気をつかってか?
「一人で飲むより二人のほうが楽しいですよ。とりあえず乾杯!」
なんて言いながら一緒に食事を楽しんでくれ、わらわが飲めそうなお酒を頼んだり、たまに近くにいた男女を呼び止めて話したりもしてくれた。
そんなカンジがとても頼もしく、この場を陰から盛り上げているのがよくわかり、異世界人であるわらわも気持ちよくこの場にいる事ができ、とても感謝した。
わらわが携帯機器を無くしてしまった時も一緒に探してくれ、見つかるまでわらわに付き合ってくれたことに、心から感謝をし、そして、この場にこれて本当に良かったと思っていたのだ。
そんな事を思い出しながら、手元の機器を眺めながら作業をする。
異世界と連絡が通じる事自体とても珍しい事なのだが、魔王候補として名があがり何か出来ないものか?と無我夢中でやっていたら出来てしまったわらわの才能が憎い。
異世界風に言えば”すまあとほん”というような携帯機器に近いものが出来てしまい、話すだけだったら出来るようになっていたのだが、また気が向けばカンジにでも連絡をしてみようかと思いながら作業に戻る。
わらわが出来る事は自分の領土を広げるために行っている開墾作業くらいだからのぅ。幼少期から育ててきた黒い魔獣ブーモと一緒に木を倒し土を耕し、そして農作物を植える。今はそれが精一杯出来る事。
正直、魔王候補と言っても、わらわに出来ることなどたかが知れている。
そもそも魔王候補などわらわの身には重い重責であるのだが、断ればこの村がただでは済まない事だけはわかっている。私のような半端な妖魔たちが身を寄せ合って作ったこの村を守るため、わらわ一人が頑張ればそれでいいだけの事だが、正直かなり切羽詰まっている現状。
村の中では優秀な部類に入る魔法操作がわらわの唯一の武器ではあるが、次の一手がどうしても浮かばない。このままでは何も出来ないまま他者にこの村を奪われて終わりになるのは目に見えている。
この地が辺境で周りに魔王候補がいないのが唯一の救いだが、この魔王候補争いが後半になればなるほど領土拡大が重要視されるのは目に見えている
…というか、なんなのだ!この「魔王候補」とやらは!!!
時期魔王候補を決めるために、自国で領土争奪なんかやってどうするのだ!
こっちは生きていくだけで精一杯な弱小村。そんな争いごとに巻き込まれたくないのじゃ!
この魔王候補に名を連ねたものが行う行為の中で、相手を殺す行為を禁止しているとは言え、我ら魔族、それを無視する輩は星の数ほどおろう…つまりは自衛しないと即死亡という状態であるのは目に見えている。
ただ自衛だけではどうにもならない事がある。こんなちっぽけな場所を死守するためにはもっとこう画期的なものが欲しいのだがどうにも浮かばない。
そんな事を考えていたらカンジから連絡が来たので、なんとなく移動して見たら、カンジはブーモに轢かれ思う存分なめられていた…本当に面目ないと思っている。ブーモの大量の唾液にめげずわらわにも優しく接してくれるカンジを見ていたら何か胸の奥がもやもやした気がするが何なのだろう?移転酔いだろうか?
そんなわらわの様子を気にしてくれながら、何故かぎこちない様子のカンジの様子をおかしく思いながら、本当に疲れてしまったので家にあがらせもらったら、部屋がわららの作業部屋と同じ雰囲気だったのには驚いた。
はじめての部屋にも関わらずすっかりくつろいでしまったわらわの言うことに耳を傾けてくれ、最後まで一生懸命話を聞いてくれたカンジの優しさが本当に嬉しく、久しぶりに胸にしまい込んでいた思いを吐き出すことが出来たように思える。
とりあえず自分が置かれている立場を話すと、カンジは頭をぼりぼり掻きながら、こういう時ファンタジー系の小説だったら~とかゲームだったらこうだろうあーだろう?なんてことを言ってたのだが、ふと考えるのを止めたようで、
「あの、目の前に置いたビスケット。美味しかったですか?」
なんて聞いてきた。
何気なく食べてしまっていたのだが、目の前のこれは美味だった。
最初、この茶色い物体の正体がわからなかったのだが、カンジが出してるものに危険なものはあるまいと口にしたところ、なんとも言えぬ甘さが口の中に広がり感動すら覚えたのだ。
それがビスケットというものだとは知らず、ところどころにあった黒い粒のようなものも合わさって、とても甘くておいしかったので、そのことを伝えると、異世界土産にこれでも持って行って、近くの村でも回ってみてはどうか?と提案された。
政治の駆け引きとかよくわからないけど、珍しいもの持って行って相手のご機嫌をとるのは何処の国も一緒だろうし、それが美味しいものだったら相手の覚えも良くなるだろうからやって損はないんじゃないか?とカンジは言うのだ。
ちょっと待っててと言い、バタンと戸を閉め外に出たカンジが30分後に大量のビスケットとやらを買ってきた事には驚いたが、思い立ったが吉日と言い張るカンジがなんとも可笑しく、久しぶりに大笑いしてしまった。
気が付いたらかなり時が経ってしまった事に気が付いたので、カンジに別れを言うと
「また会えませんか?」
と何やら真剣に言われてしまい戸惑ったが、わらわにもここはいこごちが良いのでぜひ来たいと言うと、何やら複雑な表情を浮かべはしたが笑顔でわらわを見送ってくれた。
さて、
何もしないよりかは何かしたほうが良い。
早速、周りの村でも回ってみるかのぅ。
俺の彼女は魔王候補 おさるなもんきち @osaruna3
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