俺、彼女を家に誘う

誘ったのはいいけど、このつぶらな瞳の黒い物体はどうにもならんなぁって思っていたら、彼女はスマホのようなものを頭上に掲げ、つぶらな瞳の彼?を何処かへ転送してくれたんだ。


さっきまで俺をべろべろ舐めてたから、俺の事は嫌いじゃないんだろう?

最初は俺と別れるのが嫌だって感じだったんだけど、最後は仕方がなく空間に消えてくれたからほっとしたよ。


今度なんか買ってやるから勘弁してな、なんて心の中で思いながら、彼女のほうをちらっと見ると、行かんのか?と不思議そうな顔をしてたんで、慌てて部屋に向う。


最初にあった飲み会の時は、奇抜な恰好と話し方のインパクトが強すぎて、あんまり彼女の事を見れてなかったんだけど、改めて見ると、かなりの美人さんに思えたんだ。


身長は俺より頭一個分くらい小さいから、160cmくらいかな?

最初に会った時は、赤い髪の毛と奇抜なファッションに目を奪われてしまい、まじまじと見れなかったんだけど、顔ちっちゃいなぁ。


吸い寄せられるような大きな瞳と、ちょっと幼さが残る表情。あの時は見えなかった、ほぼすっぴんの顔はとても健康的で、見ていて元気を貰える気がするよ。


嬉しすぎて勢いで家に誘ったけど、今まで女の子とお付き合いなんてしたことなかったから、どうしよう?それ以前に彼女の事思いっきりガン見してたから、気持ち悪く思われてないかな?なんて思ってたらさ、


「おぬしの部屋はここかえ?ちょっと疲れたから休みたいのだが」


なんて言われちゃったから、あ、ごめんって言いながら、慌てて鍵を開けると、彼女が入り口で土をはたいてそのまま土足で上がり込もうとしたので、慌てて靴を脱ぐようにお願いしたよ。


「ほほぅ こちらでは靴を脱ぐのが礼儀なのか」

なんて言いながら、彼女は俺が脱いで靴の向きを見ながら、自分の履物を合わせて部屋にあがってきた。


海外では靴を履いたまま家にあるみたいだけど、ここは日本だもんね。でも異文化に対応してくれて、俺の様子を見て真似して入ってきてくれるのがちょっと嬉しいよ。


あげてみて思ったんだけど、俺の部屋ほど殺風景なものはないな。


1LDKの狭い部屋。

元々あまり趣味ってものがなくて、あまりモノを置かないから、殺風景って思われたら嫌だなって思ってたら


「まるでわらわの作業部屋のようじゃ、とても他人の部屋とは思えぬ」


って不思議そうな顔をしてるのよ。


そんな彼女に、お茶持ってくるから適当に座っててと言うと、そこら辺にあった大きなクッションに腰かけて、俺が抱き枕代わりにしている大きなあざらしのクッションに興味津々の様子。


机にお茶を置いて勧めても、しばらくアザラシくんから目を離してくれなかったんだけど、それはそれで可愛いからいっか!


とりあえず、お礼だけは言っておこうと思ったんで、俺も彼女の前に座ってお茶を頂くことにしたんだ。


「えっと、いきなり電話したのに来てくれてありがとう」

「いやいや。一息つきたいと思ってたから丁度良かった。こうやって冷たいお茶ももらえて、おまけに珍しい甘味もある。とっても気が利くのぅ」


そう無邪気に笑いながら、一緒に出したチョコクッキーを食べる彼女を見ていると、本当に普通の女の子。


だけど、飲み会の最後の時だったり、電話したら突然現れたのはやっぱりおかしい。


「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、飲み会の夜だったり、さっきもそうだけどさ、いきなり現れたり消えちゃったりしたのって、あれって何なの?言いたくなかったらいいんだけど、やっぱり気になっちゃってさ・・・」

「おお、あれは移転の魔法じゃ。あっちからこっちに来れる唯一の魔法だからなかなか重宝しておるのぅ」


・・・・・


・・・・


・・・


ま、魔法だって?


ぉぃぉぃ、素で言ったよこの人!


きょうび魔法って言葉を素で言った人なんか見た事ないよ!しかも自分が使ったってさ!俺も見てたから嘘行ってるわけじゃないと思うけど、魔法って言われてもいまいち信用できないよ!しかもあっちの世界ってなに?飲み会の時にキャラクター作って参加してる人じゃないとは思ったんだけど、マジモノで異世界の人なのかな?よくよく見たら耳がちょっととがってる気もするし、瞳が赤いような気がするのも気のせいじゃないかも?さっきの黒いモフモフさんもやっぱり異世界のモンスターとか?じゃさ、そんな人がなんで俺の飲み会サークルなんか参加してるの?俺のサークルなんて独りよがりの弱小サークルもどきだから知名度なんてないし、異世界人が来るってなんなのよ!俺もうわけわかんねぇよ!!!!!


なんて、頭の中で考えがぐるぐる回ってたらさ、


「おぬし、言ってる事駄々洩れじゃ。まぁ異世界人だったらそう思うわな」


って苦笑いしてるんだ。

まぁ、隠す訳でもないからって、いろいろ話してくれたんだ。


彼女は「アルテミス」という異世界から来たそうな。


どこぞのファンタジー小説に書かれている、剣と魔法のファンタジーな世界を想像すれば早いのかな?中世ヨーロッパの人達の生活がベースになっていて、そこに魔法や空想世界の亜人やモンスターをぶち込んで、ぐっちゃぐちゃにした世界らしいよ。


いろいろな種族の人達が国を作り住んでいるんだけど、彼女はその中で「魔族」と呼ばれる種族が治めている国にいるらしいんだ。


元々、人間と妖魔(魔物の血を引く人間に近い種族ということらしい)のハーフである彼女は、魔族としては下に見られる存在で肩身の狭い思いをしてたんだけど、同じような境遇の者達と一緒に村を作り、国の端っこでつつましく暮らしていたら、ある日突然、魔王候補者として名前を挙げられたらしいんだ。


魔王候補ってなんだ?って調べたら、最近、魔族領を治める後継者を決めるために何人かの候補者を立て、時期王にふさわしい人物を探すためにひとつの課題を出しているって事らしい。


その課題は「富国強兵」


国を富ませ、軍事力を大きくして、国の勢力を強める。


その施策を一番納得の行く形で示したものが魔族の時期王として認められるという事で、知らない間に候補者になってしまった彼女も、村の役に立ちたくていろいろ頑張ってるところなんだって。


そんな彼女がモデルケースはないものか?と思って魔力を巡らせていたところ、たまたまこっちの世界のインターネット環境と繋がり、いろいろいじくってたら、気が付けば俺のサイトでお酒を飲むという登録までされてしまい、何がなんだかわからないけど、勢いでやってたら、気が付けば飲み会の集合場所まで移動させられたという事だった。


「どうせなら異世界の人間と話して少しでも課題のヒントになるような事を探したいと思ったんだけど、周りはわらわの恰好を見て引いていたし、そもそも何を話せばよいのか?何をすれば良いのかすらわからなかった。本当に不安でしかなかったぞ」


なんて話をしたあと、彼女が俺を見てさ、


「だが、おぬしが声をかけてくれ、わらわの話を聞いてくれた。それだけで嬉しかった」


なんて笑顔で言ってくれたので、思わずドキッとしちゃったんだよ。


こういう時、男って単純。この笑顔だけで”俺この人に何かしたい”って思っちゃったんだ!


ただな、仮に彼女が異世界から来たとしてだ。


彼女が住んでるところがどんなんだかわからんし、何処まで発展してるのかもわからない。手伝うにしても何からはじめたらいいのかさっぱりだよ。


これが異世界小説だったら、俺が彼女の世界に飛んでいって驚異的な力とか現代の知識を用いて大逆転とかするんだろうけどさ、俺そんなの求めてないし、少しでも彼女の助けになれることがあればいいな的な感じなんだけど。ホントどうしたらいいんだろう?

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