俺、彼女にひかれる(物理的に)
そんな彼女に向かって走って行ったら、彼女はおろおろしながら何かを探している様子。
ゴスロリ赤毛の女性がそんな事をしていたらとっても目立つはずなのに、誰も足を止めない事に腹を立てながら彼女に近づいていくと、彼女も俺に気が付いたみたいで、一瞬ほっとした表情を浮かべたんだ。
「どうしたんですか?」
「わらわの携帯機器がなくなってしまったらしく、難儀しておる・・・」
携帯機器って言ってるから、一瞬なんのことかわからなかったんだけど、スマホの事だってわかってさ、だったら電話かければ早くね?って思って彼女の番号を教えてもらったら、さっきまで飲んでいたお店の店員さんが出てくれたからほっとしたよ。
彼女に、さっきまで飲んでた場所にあるよと伝えると、ほっとした顔を見せてくれたんだ。
ものはついで、お店の常連になってる俺のほうが、いろいろ話がしやすいと思ったから、一緒にお店に行こうとすると、彼女が首をかしげながら一言、
「何故おぬしはわらわを助けてくれるのじゃ?」
なんて言ってきたので、お酒が入ってる事もあってついいろいろ話してしまった。
派手な外見、特徴的な言葉とは裏腹に、日常的な事とはどこか離れていて世間知らずな印象を受けた事。
でも、なんだかわからないけどほっとけなかったことや、不思議と目で姿を追ってた事。そんな事を「正直、なんでかさっぱりわからないんだけどね」なんて、頬をぽりぽり掻きながら話をしていると、何故か背中を思いっきり叩かれる俺。
「青年よ!お主はなかなかの人物じゃのぅ まるで聖人のようじゃ!褒めてつかわす」
相変わらず古風な口調で話す彼女だったんだけど、気が付けばそんな彼女の笑顔に惹かれている自分がいて、なんだかドキドキしちゃっていたんだ。
俺は何処の中学生だ!今時こんなんでドキドキする奴いねぇぞ!なんて思いながらも、二人だけで歩くことにちょっと嬉しさを覚えながらお店へ急ぐ。
ただ、もう夜も遅く、飲み屋さんが多い道を歩いているせいか、ところどころで大声で叫んでいるあんちゃんや、おじさん達の声が聞こえ、ムードもへったくりもないのよ。
でもね、俺の横を歩いている彼女を見ると、なんだかとってもまぶしくてキラキラしてるんだ。不思議そうな顔をしてこっちを見ている彼女が、まるで自分の大切な人に思えてしまってさ。俺思った以上に酔っぱらっちゃったんかな?って、思わず自分の頬をぶったたいたんだ。
「おぬし大丈夫か?」
「ううん、何でもないんですよ。なんでも・・・」
不自然に頬をぶつ俺を気にしてか?彼女は心配してくれたけど、酔っぱらっちゃってお店もわからなくなっちゃうのは怖いし、何より一番は彼女のスマホを無事回収することだよなって思いながら気を引き締め直していたら、もうお店についてしまった。
お店に入り、店員さんに話すとすぐにスマホを渡してくれたのでほっとしたら、
「本当に感謝している、おぬしはわらわの恩人じゃ!」
なんて大喜びしている。
そのちょっとずれたところも、またいいなぁ~なんて思ってしまった俺自身、本当にお酒に酔ってしまったのか?それとも彼女に酔ってしまったのか?
それがわからないまま彼女が喜んでいるところを見てたらさ、
「今日はありがとう」
って言葉と一緒に目の前から消えてしまったんだ。
気が付いたらいなくなってたんだ。
さっきまでそこにいたんだよ。
目の前でありがとうって言って、スマホを片手に何かやったと思ったら、ふっと消えちゃったんだ。
人が目の前で消えるなんてそうそうありえない。
そこまで酩酊してないって言いきれないけど、頬を叩いてみたら痛かった。
なんでなんで?って考えたけど、いくら考えてもわからない。やっぱり俺は酔っぱらってたのか?
本当に酔っぱらってて、彼女が架空の人物だったら笑えねぇよなって思いながら、ふと自分のスマホを見てみると、彼女の履歴は残ってる。少なくとも彼女の電話はあったって事だけは確かだよな?って思いながら、気が付けば家に帰って布団に入っていたんだ。
自分でもなんだかわからないけど、あれは一目惚れってやつなんだろうか?
それとも好奇心からくる何かなのかな?
ふと消えてしまった彼女の事がどうしても気になって仕方がないけど、今日は彼女が無事に帰ってることを願いながら寝ようと思った俺がいましたよ。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日、常連さん達にラインでお礼を言いながらも、昨日ゴスロリの赤毛の女性いたよね?なんてさりげなく話をしたところ、みんなも彼女がいたことを覚えていたんだ。
俺の前からすっと消えてしまったから、てっきり寂しすぎて強すぎる妄想をしてたんじゃないか?って不安に思ってたから、そうじゃないってわかってほっとしたよ。
そんな安心感の中ぼんやりしてたら、危うく仕事に遅れそうになりかなり焦っちゃったよ。
遊びと仕事は完全に別にしたいって思ってるんだけど、どうやら今日の俺は彼女の事が頭から離れないよう。
仕事をしている中、黒い服装の人や髪の毛が赤っぽい方を見かけると、つい目で追ってしまったり、許可を得て持ち込んだスマホの着歴が気になってちらちら見ていたらお客様に怒られてしまった。
どうにも落ち着かなくて、思わず彼女の電話番号に連絡をしてしまったんだけど、話し中なのか?全く繋がらなくて、本当に不安になってしまって、全く仕事に手がつかなくなってしまっていたんだ。
結局、そんな俺を見ていた先輩方に「ちょっと休め!」と早退を勧められ、すいませんとお詫びをしながら帰ることにしたんだ。帰り際に「もしかして、恋煩いか?」なんて茶化してきた先輩に、もしかしたらそうかもしれません・・・としょんぼりした表情で言う俺。
瞬間的に「マジカ!」と驚愕の表情をしながらも、帰りきーつけろやーなんて言ってくれる先輩に感謝しながら、アパートに帰る途中、ふとスマホの画面を確認すると、彼女から着信があったので、出るかわからないが電話をかけると・・・
ぶべっ!!
いきなり背中に何かがぶつかり、そのまま押しつぶされるように倒れ込むと、俺の背中のほうから聞きなれた声が聞こえた気がしたんだけど、今の状況に何がなんだか訳がわからない状態になってたんで、もがいてジタバタしていると・・・
「なんじゃ、おぬしか!いきなりの呼び出しでかなり焦ったではないか!」
と少し怒っている様子の彼女がいたんだ。
昨日とは全く違う、着物の下にだぼっとしたズボンのようなものをはいている彼女。
これってモンペって奴だっけ?って思いながら彼女を見ていると、俺のほっぺたに何やら冷たくてざらざらした感触が当たったんでそちらを見てみると、俺の身長位ありそうな黒いバッファロー!
ぶもっ!
ってさ、鼻息荒く鳴きながら俺のほっぺたをなめている黒い物体に思わず固まってしまってたら、そのバッファローを優しくなでながら俺に近づいてきた彼女はかなり驚いていたんだ。
「この荒くれブーモが人に慣れるなんてのう・・・不思議な事もあったもんじゃ」
そんな事を言いながら俺に手を差し伸べてくれたので、思わず大丈夫!と言いながら立つと、彼女は顔を覆っていた手ぬぐいをとって、笑顔で笑ったんだ。
そんな笑顔に惹かれながらも、いろいろツッコミどころ満載な状況を何とかしたくて、思い切って一つの質問をしてみたんだ。
「えっと・・・貴女は何者なんですか?」
すると、彼女は笑顔でこう言ったんです。
「ん?わらわは魔王候補じゃ!」
腰に手を置き堂々と宣言する彼女に、思わず苦笑いをしながら近づいた俺。
まだいろいろ混乱してるけど、とりあえず彼女が目の前にいるから、今は彼女と話をしよう!
「うちはすぐそこなんですが、良かったらお茶でもしていきませんか?」なんて下手な誘い文句に乗ってくれた彼女を案内し家に向かう俺。
嬉しいけど、いろいろどうしよう・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます