俺の彼女は魔王候補
おさるなもんきち
俺、主催者。彼女、参加者
社会人になって数年が経ち、ようやく気がついた。
ウチの職場で、男女の出会いは到底望めない事にな!
社会人一年目、期待に胸を膨らませて入った職場は、野球バカな野郎ばかり。
手すきの時間があれば、贔屓の野球チームの選手や成績の話に花を咲かせ、チームの試合に合わせて休みをとる徹底ぶり。
社会人になれば大人のムフフなお店や、他社との合コンなど、男女の出会いがあると信じていた俺だったので、この純粋な出会い熱を返せ!と仲のよい先輩方に八つ当たりしまくったけど、状況は変わらない。
会社の寮に帰っても、不規則すぎる勤務だから、なかなか同業の奴と会えず、一人孤独に飯を食う…そんな毎日だった。
そんな俺の人生が少しだけ変わったのは、あまりに寂しすぎて作った、一人で作った飲み会サークルもどきのブログ。
「一人であまりに寂しいから、一緒に飲んでくれ!」
「男女の出会いは求めてないです。とにかく寂しいので、酒飲んで話したいんす!」
「目印持って立ってますんで、お暇な方、よろしければお付きあい頂けませんか?」
頭の中で羞恥心が焦げ付いてしまっていたのか?
正直作った当初、必死過ぎてそんな思考なんかどっかに行ってたけど、それだけ人との出会いに飢えていたように思う。
まぁ・・・当たり前だけど、サイトを開いた数回は人は来なかった。
俺も当たり前だと思って一人で飲んでたんだけど、「今回も駄目でした、また次回やってみます」「見てくれている方々がいるだけで嬉しいです、ありがとう」なんて書いていたら、ある日ひょっこり参加者が現れた。
「根性あるよお前!」
なんて、肩をバシバシ叩きながら来てくれた彼と飲んで、ぶっちゃけた話をしていたら、本当に楽しくてさ、
そんな感想を書いてみたら、人が人を呼んで、数十人集まるまでになっちゃったんだよね。
当然、人が来れば楽しくなるもんで、気が付けば毎月一回の飲み会を設定するのが当たり前になったんだ。
自分が拠点にしている場所のいろいろなお店の情報をいろいろな場所から仕入れて、いろいろなお店に直接下見に行くのもとっても楽しくて、ついつい仕事は二の次になる。そんな生活を送っていたんだ。
そんなある日の飲み会で、俺ははじめて彼女に会った。
「こちらが飲み会サークルとやらか?参加を希望したモノだが、こちらでよろしいか?」
言葉遣いだけ聞けば年輩の方にも思えるかもしれないが、目の前にいるのはどうみても20代の女の子。
インターネットと言う、顔の見えない場で人の募集をしている事もあり、多少人とは違う話し方をしたり、ネット特有の話し方をする方はよく見るんだけど、話してみると普通に話せちゃったりするので、今回もそんな方かな?と思いながら目の前の彼女を見てるとなんか違和感がある。
今までいろんな人と飲んで話してってやって来たから、それなりに人を見る目が出来てきた気がするんだけど、まず彼女の話し方が自然なのに違和感感じたんだ。
たまに自分とは違うキャラクターを作ってくる方もいたので、ちょっと変わった人がいても全然気にならなかったし、話して見ると意外と普通の人だったりするので、そのギャップを楽しんだりしてたんだけど、どうやら彼女はそういう人とは違う様だ。
こちらの普通とはちょっと違う口調と、かなり派手で浮きまくってる衣装。
腰まである赤く染まった長い髪の毛を後ろに縛り、頭にはベレー帽のようなものをかぶっている。
全身は黒一色のゴスロリ?って奴だろうか?
中世ヨーロッパの貴族のお嬢様が着るようなドレスで、これから貴女は舞踏会にでも出席するんですか?っていう恰好だったので、さすがの俺もドン引きしてしまったんだ。
そして、極めつけが・・・
「こちらのお金はよくわからぬ、参加費をここからとれ・・ってください」
なんて言いながら、俺に布の袋を渡してきたので、思わずびっくりして”えっ?”なんて声をあげちゃったんだよね。
仕方がないから、一番最初から参加してくれている副幹事っぽい役割をしてくれてるヤツと一緒に立ち会って、目の前で参加費を確認してもらったんだけど、赤の他人に財布を丸ごと預ける人がいるなんて驚いてしまったよ。
「あのね、赤の他人なんだから財布を預けるような事したらあかんよ!危ないかんね!」
って話をしたら
「おぬしの目は正直者の目だ。人をだますような事をするはずもない。わらわが保証するぞ」
なんて言ってくる。
本当に不思議な人だなぁ~って思いながら、飲み会の幹事として、皆さんを会場に移動させ、お店で各種手配をしたあと、乾杯の音頭をとって部屋の隅っこでビールをピッチャーで飲んで楽しむ。
寂しいと思って飲み会を開いたのに、いつも端っこにいるのには理由があるんだけど、その大きな理由の一つが、飲み会に浮いている人の前に座ってお話をすることなんだよね。
俺自体が寂しいって言う理由で飲み会したのに、飲み会に来て寂しい思いをして帰る人がいたら嫌だ!って理由から、ちょこちょこ席を立って移動して、ところどころで乾杯をしてるんだよね。
まぁ、俺がそんな事をやっているうちに、常連の人達もそれを真似して周りを見て飲んでくれるようになって、一人で寂しそうにしている人は今のところ見られないんだけど、たまに酔っぱらって暴言吐いたり、気持ち悪くなってしまう方もいるんで、そういう人たちを見るのも俺の役割だと勝手に決めてる。
最初はちょっと大変だったけど、自然と周りの人が気をつかってくれて手伝ってくれたり、別の席で同じように気持ち悪くなってしまった人を介抱してたら、それが縁でお話が出来たりもしたので、幹事って役割も案外悪くないかな?って思い始めて来たんだ。
あ・・・脱線してすいません。
で、今日はそんな事もなく端っこに陣取って飲んでたんだけど、気が付けばあの派手な女の子の席の周りが空いていたので、なんとなくそちらに移動して女の子の前に座り、「今日は来てくださってありがとうございます」なんてピッチャー片手に話をしようとすると、女の子の目の前には綺麗なお皿やグラスがそのまま置かれていて、彼女は何も手をつけていない。
あれっ?料理も飲み物も手を付けてないんですか?なんて話をすると
「こういった場所に来るははじめて故、何をしたらよいのか見当がつかず」
と眉毛をハの字にして困ってる様子。
たまに「これやってくれないと嫌だ」なんてお姫様を気取る女性は見かけるが、この人は素でわからないんだろうな。本当に不思議な人だなぁ。
まぁ、前者だったら「自分の事は自分でやれ!」と突っぱねるんだけど、後者なら仕方がないかな?と思い、近くの席で適当に料理をよそって彼女の目の前に並べてみた。
お酒は飲めるんですか?なんて言うと、故郷で飲んだことがあるということだったので、とりあえずアルコール度数が低そうなお酒を頼み、じゃ~頂きましょうか?と言いながら、俺は俺で適当に別の場所から料理をとって、ピッチャー片手に料理を頂く。
彼女も俺を見ながら、手元の料理を食べて「美味!」と驚いていたり、ちょっとお酒を飲んでは「この様な美味い酒、故郷にはなかったぞ!」と極端すぎるくらいの驚きを見せていたので、ついついその表情を見るのが面白くなり、周りを見る事を忘れて、その子の近くに居続けてしまったんだ。
そんな時間もあっという間に過ぎ、気が付けば一次会終了の時間になったので、彼女に一言ありがとうと伝え、会計などをしたあと、来てくれたみんなにありがとうとお礼を言って帰宅しようとしたんだ。
常連さんに挨拶をしながらも、ふと彼女の事が気になって、周囲を探してみたが彼女はいない。
ふと、もう少し話したかったなぁ・・・と思いながら、後ろ髪をひかれるように歩いていると、一瞬彼女の姿を見た気がしたんだ。
瞬間、俺はその方向に向かって走り出してた。
何処の青春ドラマだよ?!なんて思う俺もいたんだけど、仕方がないじゃん!足が動くんだもん!俺がそっちに行きたいって思ってるんだもんよ!
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