僕と君の物語

禾遙

とある冒険者のお話

「君の適性は紙とペンだね」


この国は10歳になると必ず自分の適性を調べなくてはいけない。僕は農家の5男として生まれたが、だいたい3男以降は12歳の成人で家を出なければならないので、この適性検査はとても重要な意味を持っていた。適性次第で今後生きて行く道がほとんど決まると言っても過言ではないからだ。

僕は将来冒険者になろうと思っていた。以前村に来た冒険者達がとっても強くてカッコいい男達だったからだ。僕も男だ、冒険譚を聞かせられたらそんな男達に憧れを持つのは当然というもの。その時将来村を出たら冒険者になるんだ、と決めたのだが……。


「紙とペンって、何が出来るんですか?」

「んー、こんなの初めて見るからね、文官でも目指したらいいんじゃないかな?」

「文官……」


こんな文字も書けない読めない農民の子が文官とかふざけている。無理に決まっているだろう?僕はこれからどうしたらいいんだろうか。





あの適性検査から8年、僕は諦めきれず冒険者になった。冒険者になって知ったが、適性が無くても努力次第ではある程度使いこなせるようになるのだそうだ。剣や盾、様々なものを試してその中でも一番相性が良かったのが杖だったので、僕は魔法使いになった。調べてもらったところ魔力量は人一倍あり、過去見る中でもトップクラスだったのだそうだ。悔やむのは適性が杖ではないのでその才能を活かすことが出来ない事だった。正に宝の持ち腐れ、有り余る魔力量を持ってしても十把一絡げの魔法使い止まりなのだ。それでもやはり魔法方面にセンスがあったのか、初級魔法を上手く使って上級一歩手前の冒険者まで成長する事が出来た。偏に人に恵まれた、という事もあったのだが。パーティメンバーは皆冒険者に適した適性を持ち、それをぐんぐん伸ばしていける才能と努力を持っていた。


そして運命の日。


僕達はダンジョンと呼ばれる迷宮に潜っていた。冒険者は富と名誉、そして更なる力を求めてダンジョンに潜る。僕達も例に漏れずダンジョンへと挑んでいた。特に今回は今までとは違い特別な意味を持つダンジョンアタックであった。このダンジョンをクリアすれば上級冒険者になる事が決まっているのだ。そしてその時は来た。


目の前には5つの宝箱が現れていた。


そう、ダンジョン最下層のボスを倒し、その褒美として宝箱が現れたのである。どういった理屈かは分かっていないが、そういうものだと聞かされている。そしてボスを倒すと1人1つの宝箱が出現するのだ。しかもどれが自分のものか、なんとなくわかるのだ。

今回もそれぞれが惹かれるように自分の宝箱の前に立ち、一斉に宝箱を開けた。


「え?」


そこに入っていたのは1枚の紙と1本のペンだった。


「な、何で……」


僕は愕然とした。宝箱からこんなものが出た事なんで聞いたことない。今まで自分の適正を否定し忘れようとしていた僕にしたら、現実を突きつけれれた気分だった。


「おい、アクトお前どんな杖が入ってたんだよ!このダンジョンは特別で自分の特性に合ったアイテムが出るらしいからな。俺はこの剣だぜ!見てくれよ、紅く光ってるんだぜ!……アクト?」

「それ、本当?」

「え、何が?」

「だから特性の……」

「そりゃそうだろ?有名だぜ?」

「知らなかった……」

「もったいぶってないで見せろよ!……ん?何だこれ?」


呆然としていた僕の手元を無理やり広げられ、気づくと僕の宝箱は皆んなの目にさらされていた。


「……アクトの適性って、杖だよな?」

「…………そんな事言ったこと無かったと思うけど」



その後気まづい空気のまま僕達は街へと帰った。ギルドへダンジョン踏破の報告へ行き僕達は上級冒険者へと昇格した。しかし……。







「はぁ……」


僕は朝っぱらから酒を呑んだくれていた。

ギルドへ報告した後、僕はパーティを追い出された。別に嘘は付いてはいないけど、本当の事も言っていなかった僕は信用できない、という理由で追い出されたのだ。本当は適性違いの戦闘スタイルの僕がお荷物になったからなんだろうけど。


あれから1ヶ月。1人でこなせる依頼なんて限られている。僕はあらたなパーティを探したが、何処からか僕の適性が噂になって誰も組んでくれることはなかった。すれ違った今まで組んでいたパーティの奴らがニヤニヤしていたので、どうせあいつらが面白半分に噂を広めたのは明白だが。

下級の依頼をコツコツこなせば、その日暮らして行く分くらいは稼げる。まぁ、宿屋のランクを2つくらい落とせばだけど。そうやって最初は真面目にやっていたが、途中で馬鹿らしくなってそれからはこうやって呑んだくれている。幸い、貯蓄はあった。仮にも上級冒険者となれるパーティにいたのだ。多少は貯えというものがあるのは当然だ。しかしそれもそろそろ底を尽きそうだが。


酒を飲むのも飽きて来て、もう宿屋で不貞寝しようと現在常宿としている隙間風の酷い木枯らし亭に戻る。


「また戻ってやがる……」


部屋に帰ってドアを開けると、部屋の中にベッドの他唯一取り付けられている机が目に入った。その上にはあの宝箱から出てきた紙とペンが置いてあった。パーティを追い出されて直ぐに魔道具屋で鑑定してもらったこのアイテムは一応魔道具らしいが、使い方がわからない、普通の紙とペンと同じくらいしか価値が無い、と言われた。引き取っても銀貨1枚にもならないと言われ売る気にもなれずそのまま持ち帰った。そして酒を飲んでむしゃくしゃして勢いのまま道端に捨ててきたのだが、次の日の朝には机の上に戻ってきていたのだ。それから毎日のように捨てているのに毎回戻ってくる。


「お前のせいで!」


今日もむしゃくしゃしていたので、その勢いのまま窓から紙とペンを放り出した。どうせ明日の朝には戻ってくんだろと思ってベッドに横になる。そのまま気づくと次の朝になっていた。そしてチラリと机の上を確認して目を見開く。


「え?」


紙とペンが戻ってきていなかったのだ。


「嘘だろ?」


必ず戻ってくると思っていた物が無くて急に心の芯がブルリと震えた。何だか自分の半身が失われてしまった気がしたのだ。慌てて宿の外へ出て窓の下の道を探すがやはり無い。どうしていいかも分からずとりあえずギルドで誰かに話を聞けばわかるかも、と走り出した。


ギルドの中はいつもと違いやたら賑わっていた。何だろうと耳を傾けると昨日の夜新たなダンジョンが街の外に出来たのが発見されたらしい。


直感で俺の紙とペンだと思った。理屈で無く心が惹かれる感じ、あの宝箱と同じだった。


俺は場所だけ聞くとすぐさま引き返し、自分の荷物を持つとあり金叩いて魔法回復薬を買えるだけ買い込み街を出た。


ダンジョンに1人で挑むなんて馬鹿げている。自殺志願者しかいない。そんな風に言われているが、そんな事かまっていられない。無くなってから分かる大切なもの。当たり前が当たり前で無くなるという事の恐怖。僕は1度経験して知っていたのに……。何処かで僕の適性は自分を見放さないと思い込んでいたのだ。あんな蔑ろにしていた僕にそんな事言う資格は無いかもしれないけど、でも戻ってきて欲しかった。今度こそ僕と一緒に冒険して欲しかった。誰に笑われてもいい、君と一緒に居られるなら。


ダンジョンは思った通り辛い道のりだった。しかし出来て間もないという事もあり、最下層は5階と浅かった。なんとかボスの間に来ると、そこには白いドラゴンが待ち受けて居た。


「君だろ?」


でも僕にはそれがドラゴンでは無く、それこそが紙とペンだとわかった。


「ごめん、本当にごめん!謝っても謝りきれないけど……でも僕は君と一緒に冒険したいんだ!僕の元に、戻ってきてくれないかい?」


GYAAAAAAAAAAAA!


ドラゴンは大きな口で僕を一飲み、にしなかった。僕は目をそらさずじっとドラゴンの目を見続けた。


パァァァァァァ!


ドラゴンは光るとあの紙とペンの姿に戻った。

僕は駆け寄り腕に抱きしめる。


「ごめんね、もう1人になんかしないから」


紙とペンは嬉しそうにチカリと光る。


僕は紙とペンを手にダンジョンを出た。ここから僕達の本当の冒険は始まるのだ。




数年後、世界に3人しかいないというSランクの冒険者に、新たに名が連ねられた。4人目となったSランクの冒険者は紙とペンを使いこなす不思議な魔法使いだった。




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