その想いはクール便で

黒幕横丁

その想いはクール便で

 SNSやメールで交流を深めている昨今で、俺はとある相手に文通のやり取りをしている。

 知り合ったきっかけはSNSなのだが、文通をやってみませんか?と

 その相手は鮮やかな万年筆らしきペンを使いキレイな字で日々の出来事を便箋に綴って、俺へと送ってくる。名前もミキさんという名前なのできっと女性なのだろうと思っていた。

 そんなやり取りを二ヶ月くらいしていたある日、彼女からこんな手紙が送られてきた。


『もし、ご迷惑でなければ、会いませんか? 日時を指定していただければそちらへ参りますので』


 その手紙にまずびっくりした。いや、実際会ってみたいとは思っていたのだが、わざわざこっちの方まで足を運んでくれるとは思っていなかったから。

 ひとまず、あわてて俺は空いている予定を確認して手紙に日時を書き込んで送る。

 後日返ってきた彼女からの返事は、『わかりました。その日時必ず家に居てくださいね』とのことだった。

 一体、どんな子がやってくるんだろうと心をウキウキさせて当日を待った。


 その当日。慌ててした部屋の清掃もなんとか無事に終わり、あとは彼女を待つのみとなっていた。

 俺はどんな子がやってくるのか頭で妄想を膨らませながら今か今かと待っていると、軽快なチャイムがなった。きっと彼女だと颯爽と俺は駆け出し、爽やかな笑顔で玄関の扉を開けるとそこにいたのは、


「ちはー。クール便届けに参りました」


 無表情な宅配のオッサンだった。せっかく彼女のために振りまこうと思った笑顔を返して欲しい。

 俺はスンと顔を真顔に戻し、手っ取り早く受け取り票にサインを入れ、荷物を受け取ってドアを閉めた。

「はぁ、一体なんだったんだ。それにしても通販なんてした覚えもないのに、荷物なんて……ん?」

 そう考えながら荷物の差出人を見ると、なんと彼女だった。もしかすると、お土産を前もって送ってきてくれたのかも知れない。なんと、気が利くのだろうか。箱を見ると、【届いたらすぐに開封してください。】と書かれてあった。

 俺は部屋のテーブルに届いた荷物を置き、わくわくしながら箱を開封した。すると、そこから飛び出してきたのは。


 真っ白いはんぺん。どこからどう見てもはんぺんだった。


 はんぺんは勢い良く飛び出してきたかと思うと、ぺったーんとテーブルにダイブをする。随分と活きのいいはんぺんだ。産地直送だからだろうか。

 そんなボケが脳裏を過ぎった次の瞬間。

 はんぺんが……動いた。

「ギャーーーーー。はんぺんが動いたっ!!」

 まるでホラー映画でも見たかのようなリアクションを取る俺に、はんぺんは荷物の中に入っていた紙とペンを巧みに使い、キレイな文字を書いていく。

『どうも、はじめまして、ミキです』

 そのはんぺんが書いた字にはとんでもないことが書かれていた。

 え、これが、俺と文通していた、ミキさん?

 その驚愕の事実に脳の回転が追いついていない。頭が真っ白になっていた。

『実は、はんぺんの呪いにかけられていまして。こんな姿ですいません』

 ペコリとはんぺんは申し訳なさそうにお辞儀をした。その姿が急にキュンときたら負けのような気がした。


 話を聞くと(というか筆談なんだけど)、ミキさんははんぺん神の怒りを買ってしまい、はんぺんに姿を変えられたらしい。というか、はんぺん神イズ何?

 元の姿に戻る為には、その神様のご機嫌をとらねばならないらしく、今回そのご機嫌取りに俺が選ばれたらしい。その神様いわく、


『ユーたち、キッスすればいいじゃない。チッス』


 なんとまぁ飲み会の席の親父どもじゃないんだから、神様はそんなことを提案しないで欲しいとマジで思った。

『ご迷惑じゃないでしょうか?』

 はんぺんの姿には哀愁が漂っていた。

「まぁ。ミキさんの姿が戻るなら協力しますよ」

『ありがとうございます!』

 はんぺんはどことなく嬉しそうに飛び回る。

 それにしても、練り物に接吻をする日が来るなんて全く思ってもなかった。それに、このはんぺん、衛生的に大丈夫なんだろうか? ゴクリと俺の喉が鳴る。

 いよいよその瞬間が訪れた。俺ははんぺんを優しく持ち、ぎゅっと目を瞑って唇に押し当てるというか、顔に押し当てた。

 すると、ぽんっと軽い音がしたかと思うと、急に手に持っていたものに重量感が生じる。

 俺が目を開けると、そこには、くりくりとした目をした黒髪ショートヘアの、


 男が立っていた。


「男かーーーーーいっ!!!」

 開口一番の突っ込みはそれだった。

「ごっ、ごめんなさい。性別を言ったらやってくれないと思ってて。だますつもりは無かったんですぅ!!!」

 元に戻ったミキさん、もといミキ君は涙目で必死に俺に謝っていた。


 そんなドタバタがあったが、ミキくんの姿は無事に戻り、今も交流は続いている。

 しかし、あの日の出来事は出来るだけ黒歴史のブラックボックスの中に押しやって、永久に思い出さないようにしたいと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その想いはクール便で 黒幕横丁 @kuromaku125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説