母親が生えてきた。
亜済公
母親が生えてきました。
母親が生えてきた。昨日の雨のせいだろうか。数日前に刈り取ったあとから、ニョキニョキと生えてきた。
「ごめんなさいね」
申し訳なさそうに、母親は言った。
まるでキノコみたいだ。
僕は言ってやった。
母親は心底悲しそうな顔をして、けれど言い返すことはせず、黙ってじょうろの水を浴びていた。
普通、刈り取った母親は金曜日に生えてくるものだ。けれどうちの母親はちょっと変わっていて、水曜日に生えてくる。時々火曜日にも生えてくる。今日は木曜日だから、いよいよいつ生えてくるのかわからなくなってきた。
こんな母親は、他にいないんじゃないかと思う。
小さい頃から、母親は家にいた。僕は生まれてすぐに母親と引き合わされ、水をやることを覚えさせられた。
頭のてっぺんがしっかりと濡れるように。
土がしっとりと湿るように。
僕は言いつけどおりに水をやった。2度枯らして、3度目にようやく花を咲かせた。けれど次の年、病気にかかってしまったから、今育てている母親は4番目ということになる。
母親を大きく育てるコツは、定期的に根本から刈り取ってしまうことだ。本体に寄生した虫や細菌を一網打尽にできる。あんまりやりすぎると栄養失調で枯れてしまうから、ほどほどにしておくことが大切だ。
これは母親が自分から言ったことだから、信頼できる情報だと思う。
「最近肩がこるわぁ」
母親がぼやく。
僕は肩のあたりに殺虫剤をかけてやる。
気持ち良さそうにくねくねと揺れる母親を見ながら、僕は幸福感に包まれている。
あなたの家の母親は、元気でやっているだろうか。
僕の家の母親は、残念ながら元気だ。
寿命で枯れれば、新しい母親が支給される。けれどそれは、当分先のことになりそうだな、とそんなことを思いながら、僕は今日も母親に水をやっている。
母親が生えてきた。 亜済公 @hiro1205
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