第21話 映画館
水田愛花はもう嬉しさを隠そうともせず嬉々として話し続ける。
(もう、いいや)
話の内容にもう得るようなことも無さそうだし。
愛し合う二人、不幸な事故、精神を病んだ夫は妻の幻影を愛する、妻を殺した女と自分の母親の区別もつかず暴力を振るう、一瞬正気に戻り飛び降りる、死なずに半身不随、正気は再び失っている。それを看病する私。
水田愛花のストーリー。
河下真由も助けてあげたい、あの親子の仲も取り持ってあげたい、本気で言っている。生きがいを見つけたんだな。羨ましいことで。
河下真由は鼻の骨を折り左目の視力をほぼ失った。
その後息子にはあっていない。
河下サチが自室のベランダから落下したのは母親らが訪ねてきた翌日だった。
理由は分からない。
心神喪失も認められ母親への暴行も不問になる見通し。ただ肉体的にも精神的にも一生退院はできないだろう。そのくらい。
肝心なVRが二重再生されているか…だが、河下さんの言う事だけで誰も見てはいないというなら…精神的なモノから来る思い込みとか、VR譲らなきゃよかった後悔からの…実際かなり病んでいたし…もし二重再生しているとしても今の河下さんの言う事は信用性がないだろう。まあそれは限りなく薄いけれど、最悪バレないって事だ、俺が何かミスをしていたとしても。ないと思うけど…移動距離が長くて一人にしか適用されない…あ、場所…河下さん個人を座標と認識して河下さんだけに適用…?まさか。
(うん、もういい)
この件はtheend
…さぁて俺。次はどんな人生に寄り添えるのでしょうか?
俺自身がいちいち体験した気持ちになれる、無傷で。なんてお手軽な人生経験。誰にどんなキャラで寄り添うかで変わるマルチエンド。
映画やドラマで涙を流すなんてのは理解できなかったけれど、案外こんなものなのかもな?入り込む感覚。
そうすると俺って案外つまらないな。
役者の側だと思うのはちょっとばかりおこがましいし。あ、そういえばあれいい例えだったな、俺自身が死なないVR。36時間寄り添ったら消えるタイプじゃなく、次のお客様に寄り添うニュータイプ。なんて、ね。うん、この気づきが今回の仕事の収穫か。
ベタベタと水田愛花の声。相槌を打つ俺の声。
これはもうエンドロール。席を立つのも自由。
でも俺はこのまま、次の映画に思いをはせる。
一番前の席で。足を組んで。
絨毯敷きの映画館は足を組み替えても靴音が響かない。
*
電話を仕舞い、俺の尖った靴の先を見る。足…。そうだ河下さんはもう歩くことはできないのかな?動かないのか足そのものが欠損したとか…その辺聞かなかったな…足、足のない…。
?
!
プフーッツ!!!
何だそれ!あは!あははは!ふっ!は、はは!
やっば、やっば、俺、アハ、葬式んときの河下さん見たくなってる、あは!
っふは!
なーんだ、VR関係ないただの霊現状じゃねえか!
お化け、幽霊、だったのね、みかりちゃん。
VR ホラー 666 只木のりあ @watasizankokudesuwayo
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