世界で一番お手軽な異世界転生

結城藍人

世界で一番お手軽な異世界転生

 やあ、よく来てくれたね。さあ、異世界転生を始めよう。


 君のお望みのままに、どんな転生だってできるよ。何が望みだい?


 冒険者になって無双したいかい?


 悪役令嬢になってザマァしたいかい?


 TSだって簡単さ。今の性別に縛られることはない。


 王子様やお姫様にだって転生できるよ。逆に、犬や猫になることも可能だ。モンスターがいいかい? スライムやゴブリンやスケルトンにだってなれるよ。別に弱くなる必要もない。雑魚モンスターで無双することだってできる。


 このペンと紙と、があればね。


 え、小説なんか書けないって?


 いやいや、違うさ。だいたい、小説を書くのには要らない。いやまあ、「ルール」によってはさえ要らないことがあるけどね。でも、くらいはあった方が便利だからね。


 うん? そりゃ「ルール」くらいはあるさ。これも「無いと不便」だからね。


 だけど、。だって、僕は「神」なんだから。だから、君が望むことは何だってかなえてあげられるんだよ。これも「ルール」の内さ。「神」が決めたことは「ルール」を上回る。それが「ルール」だ。


 さあ言ってごらん。どんな無茶だってかなえてあげるよ。ここには君と僕しかいない。ほかの誰に遠慮することもないんだ。


 どんな風に転生したいのか言ってごらんよ。強くなりたいなら、好きなだけ強くしてあげよう。モテたいなら、モテモテにしてあげよう。


 恋人が欲しいかい? 望むなら、それも君のお好みのままに用意してあげよう。好きな人を連れて来てあげようか? そんな人いないというのなら、アイドルでもアニメのキャラクターでもかまわないよ。別に恋人じゃなくて友達でもいい。絶対に君を裏切らない友達を作ってあげよう。


 そうそう、何でもいいから話してごらんよ。話さなきゃ何も始まらない。キリスト教の聖書にだって書いてあるだろう「はじめに言葉があった」って。


 確かに僕は「神」だけどね、それでもまず、君が何かを「話して」くれなきゃ何も始められないんだ。


 ……なるほど……ほうほう……うんうん……よしよし。


 うん、だいたいの希望はわかった。それじゃあ、これを見てもらおうかな。ああ、そんなに尻込みしないで。別に難しくないよ。僕が全部教えてあげるから。


 君の希望に合うのは、これだね。いや、テンプレートに合わせる必要はないよ。カスタマイズは自由だ。うん、そこはルールを無視して選んでいい。「神」である僕が許す。


 さあ、を二個振ってくれ。うん、この出目は悪いな。振り直していいよ。いい目が出るまで何回振り直してもいい。僕が許す。だって僕が「神」なんだから。


 え、振り直したらを……「サイコロ」を使う意味が無いだろうって? まあ確かにそうだね。だけど「神」には許されるのさ。


 それにしても、君も真面目だねえ。だからこそ思い詰めちゃったのかもしれないけど、今は何もかも忘れて楽しんでおくれよ。


 少なくとも、異世界に行けるかどうかわからないけど、とりあえず現世から逃げたいからって本当にトラックの前に飛びだすよりは、こっちの方が絶対に楽しいから。


 さっきも言ったろう。今は君と僕しかいないから、誰にも遠慮しないで思いっ切りワガママを言っていいって。ルールなんか無視してかまわないって。


 だって、僕が「ゲームマスター」なんだ。ゲームマスターの決めたことは絶対。それがルールなんだよ、この「テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム」においてはね。さっきも言ったとおり、ゲームマスターは神に等しいのさ。


 だから気にしなくていい。ゲームマスターが認めたら、どんなインチキなキャラだって認められる。「チート」なんて言葉が流行る前から、既にネット上でルーチェ・クラインなんてキャラがさらされてたくらいだ。


 ただし、その何をやっても許されるゲームマスターさえも、たったひとつの原則は守らなきゃいけない。それは「」。


 今、プレイヤーは君ひとりだ。だから、僕には君を楽しませる義務がある。今の君を楽しませるために、どんな風にルールを破っても、それはルール違反じゃない。


 さあ、君のキャラクターは決まった。希望を言ってくれたから、大体の設定もできたよ。それじゃあ、ゲームを始めよう。ペンと紙とサイコロさえあればできる、世界で一番お手軽な異世界転生、たっぷりと楽しんで欲しいな。

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