借金返済のために、今日から傭兵やります

ありす

第1話 ダイビングショップとボス

俺の名は佐藤マモル。

私立大学の薬学部に通う、大学2回生だ。


今日は高校1年から始めていたスノボーの、板のメンテナンスをするために駅前に来ていた。


と言っても、年に1回しかゲレンデに足を運ばないなんちゃってボーダーの俺には、メンテナンスが何なのかもよくわかっていないが。とりあえず前から気になっていた駅前の店に恐る恐る入ってみた。


店内には誰も見当たらない。

綺麗に並べられているボードウェアと、冬なのに水着が並べられている点を除いては、おしゃれな店でワクワクした。天井にはサーフボードも飾られてある。店の外にはムキムキの外人がサーフィンをする映像が流れていたので、サーフショップでもやっているのだろうか。


「あ、いらっしゃーーい♪」

奥から若い女性の声が聞こえてきた。視線を首ごと右に向けると、頭の上にガスマスクを載せた、短パン、Tシャツの美女が右手にハンドガンを持って立っていた。


「あ、ちょっと待ってね!今着替えるから!」

ここはコスプレ店なのかと思いつつも、まだ肌寒い3月に短パンを身に着ける女性がどう変身するのか気になっていた。まあ、少し年上の女性と話すのは慣れていないので、緊張で返事ができなかっただけだが。


しかし、冬なのに暑い店内だな、少し暖房を効かせすぎなのか、店内は体育を終えた学生達が次の授業を気だるそうに待っている教室のように蒸し暑い。


パンッ!パパンッ!!!


ん?突然の銃声に何やら店の奥が騒がしい。

そういえばさっきの人、ハンドガン持っていたな。


「お待たせ〜〜〜♪」

短パンギャルが帰ってきた。

しかし、一体、ここはどういう店なんだろう?


短パンギャルが半袖の緑の迷彩服を羽織って戻ってきた。長い髪はざっくりと手ぐしコームでまとめられていて、前の開いた迷彩服からのぞかせる白いTシャツ姿に、この店は当たりだなと、根拠のない自信を手に入れていた。


「今日はどうしたの?」

「あの、スノボーのメンテナンスをお願いしたくて、店の前にスノーボードって書いてあったから」

「あ、ボードねぇ♪うんうん、メンテナスしてるよ。じゃ、まずは受付するからカウンターに座ってくれる?」


案内されたガラスショーケースの前にある丸椅子に座り、ショーケース越しに迷彩ギャルと商談に戻る。


「じゃ、このアンケート用紙にスノーボードの状態と、メンテナスの状態を簡単に書いてね。あと、君の名前と連絡先も書いてね。」

言われるままに白い用紙に書き込んでいると、アンケートの下の方に目がいった。


「あだ名?」

「そう。君の”あだ名”を教えて。ちなみに私の名は”メグミ”あだ名は”メグ”よ♪」

僕は何も考えず僕は小学生時代の変なあだ名を書いてしまった。


「あ!マモル君のあだ名は”マンモス”って言うんだ!何それ、強そぉ〜〜〜♪」

「いや、なんか小学生時代のあだ名で。」

「いいね!強そうだよ!コードネームにぴったりだね!」

「コードネーム?あの、さっきから気になってたんですけど、ここってサバゲーとかやってる店なんですか?」

とりあえず、気になっていることを聞いてみた。


「うん、サバゲーもやってるよ!今ね、みんなでサバゲーの練習してたんだ!マモちゃんも興味ある?」

いや、マモちゃんて、あだ名はマンモスなんだけど。でも可愛いネーミングでちょっと嬉しい。


「サバゲーは少しだけ興味あります。でも、どっちかって言うと、スキューバダイビングやってみたいんです」

「え!まじで?!うちの店ダイビングショップだよ!しかもプロダイバー限定の!やったねマモちゃん♪」

「あ、そうなんですか、へぇ〜」

「すごい偶然だね!せっかくだから奥覗いていかない?もうサバゲーも終わってみんな休憩してるころだから」


すごい偶然だ。興味本位で言っただけなのに、俺は奥に通されることになった。


「っと、奥に行く前に、ここにサインして、1000円だけ払ってくれない?メンバーになると奥の集会所でドリンク飲み放題になるんだ♪ね?それだけお願い」

1000円なら安いものか、と思い、財布から1枚のお札を手渡し、奥に連れていかれた。


「みんな〜!新しいメンバーのマモちゃんで〜す♪」

いや、マンモスはどこいった。とツッコミを入れる前に集会所のメンバーが暖かく迎え入れてくれた。

「おはよ〜!マモちゃん!よろしくー!」

「マモちゃんよろしくー!」


なんだか暖かい雰囲気でみんな人が良さそうな人たちで安心した。

もうすぐ夜20時なのに、結構いるな、8人くらいか。

ダイバーってもっと、黒光した肌を想像してたけど、みんな結構肌は白いな。冬だから潜ってないのかな。


「冬でも潜るぞ、うちの店は」

奥で小さなサルを肩に乗せている、金髪の男性が話しかけてきた。


「あ、うちの店のボスです♪あだ名も”ボス”だからね♪」

メグミさんがフォローに入ってくれた。ボスは金髪で気さくそうな人だけど、ガタイがよくて声も太くて、多分むちゃくちゃ怖い人なんだろうな。他の人には悪いけど、この人だけは雰囲気が別格だ。


「初めまして、マモルと言います」

「OK!マモル!入隊おめでとう!今日から君もソルジャーだ」

「え、入隊?ここは軍隊なんですか?」

「軍隊とは少し違う。俺たちは傭兵集団 Diarms(ディアームズ)。スキューバダイビングと軍事訓練を教えているプロショップだ。」

何のことかさっぱりわからん。ボスはちょっとイかれてるのだろうか。


「ボスはね、自衛隊幹部出身で、元は陸自の少佐だったのよ。」

「え、少佐?へぇ、すごい」

思わず感激してしまった。少佐なんてアニメの世界でしか出会ったことがない。どうりで雰囲気が違うわけだ。


「でも傭兵集団って、何をしてるんですか?」

「それについては、少し奥で話そう」

ボスが意味深な顔をして、メグミさんに俺を別室に連れて行くよう指示した。メグミさんも手馴れた様子で、いくつか資料を抱えながら俺を連行した。


随分と広い部屋だ。

片方の面には鏡ばりで、ダンススタジオとしてもやっていけそうだ。

隅の方にちょこんと置かれた、4人がけのテーブルに座る。


「じゃあ、始めるね」

「お願いします」

別室で出されたお茶とお菓子を軽くつまみ、くつろぎながら、メグミさんから、冊子を渡された。


”Seed(シード)”


表紙に書かれたタイトルの下には、英語をそのまま日本語に訳したような、少々硬い文章が書いてある。


”人は、誰でも1つの才能を持って生まれてくる。しかし、その才能に気づいて活かせる人はわずか0.01%しかいない。つまり1万人にひとり。Seedは、人に秘められた才能を活性化させる種。それは、きっかけでしかないが、あなたの能力を開花させるには十分だ。”


「才能……?」

うさんくせぇぇぇ!

やっぱやばいぞこの店!

……いやでも、メグミさんの顔を潰しては悪いから黙っていよう。


「そうだ。君には素質がある」

いつの間にかボスが部屋の入り口に立っていた。


「君にどんな才能があるかは、Seedを飲んで訓練をつまなければわからない。しかしだ。Seedを飲んで、未だ才能を開花できなかった奴はいない。俺が訓練させるからな」

自信満々に答えるボスに、俺は男ながら惹かれていた。傭兵、才能、訓練、しかも元少佐直々に訓練してくれるなんて願ったりだ。うさんくさいけど。


「どう?すごそうでしょ?やってみたくない?」

「ん〜、これが本当に効くならやってみたいです。俺、自分でも将来何がやりたいかわからなくて、迷ってるんです」

っと、少しお悩み相談室っぽくなってしまったな。


「ちなみに、Seedはいくらするんですか?」

「ん、えっとね、1億5000万円」

「は???......冗談ですか?」


「冗談ではない」

ボスが真剣な顔でこちらを見ている。


「Seedはフランスの特殊部隊が開発した極秘の薬だ。第二次世界戦争の最中、特殊部隊の限られた人間だけに渡された。Seedを飲んで訓練を受けたものは、人間の持つ筋肉のリミッターが解除され、本来の5倍の身体能力を得ることができる。そして、飲んだ本人の唯一の才能が開花される」

「す、すごいんですね。ボスはどんな才能が開花されたんですか?」

ボスは確実にSeedを飲んでいる、と確信しながら質問した。


「俺の才能は、ギャリック砲だ」

は?思わず笑ってしまった。

その瞬間、ボスの右手から青白い光が瞬く間にメグミさんに向かって放たれた!


「ちょっ!」


っっっどん!!!

いきなり放たれたギャリック砲をもろに食らったメグミさんは、迷彩服がボロボロに破けていた。


「イタタタ……。ちょっと!!ボス!何でいつも私に向けて撃つんですか!」

あ、いつもなんだ。


「いつも準備しておけと言っているだろう」

「マシンガンで撃たれても平気な迷彩服がボロボロじゃないですか。ちょっとは手加減してくださいよ」


……そしたらギャリック砲食らったら、即死じゃないですか。

まじでびびった俺はちょっとたじろいでしまった。ボスは俺の目を見て続けた。


「俺たちはプロの傭兵集団だ。世界で起きている戦争を止めるために戦っている。そして、君に協力してもらいたい。」


えっと、軍資金の提供ですかね?俺にギャリック砲が撃てる訳が無い。


さあ、どうやってこの場を切り抜けたらいいんだろうか……。


(続く)

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