第40話 ザウス王国への協力者

 今日もいい朝だな。

 結構肌寒いからコーヒーから湯気があがってる。

 ちょっとだけ朝日が当たってるし絵になるな。


 この宿屋は高えしイマイチだなーなんては思ってるけど、このテラスがあるのはなかなかいい。

 従業員は寒くねーのかって聞いてくんだけど、オレもウェルも全然平気だ。

 オレらは結構鍛えてるし強化もしてりゃそれ程寒くはねーよな。


 いつも通りウェルと話ししながらの魔力制御訓練。

 なんか元気ねーからどした? って聞いてみた。

 昨日からまともに始めた戦闘訓練に何気に苦戦してるらしい。


「剣に挑むのが怖いとか言って情けないですよね」


 なんて言ってるけど怖くて当然だろ。

 こっちは拳であっちは長物だしリーチが違え。

 踏み込みが一歩多いんだし怖えに決まってる……


 ん?

 なんかちょっと閃いた!

 ま、今はいいや。


 ウェルの場合まだ爆破が精霊魔法に頼ってんだろうし、安定しねー魔法で挑むのは結構怖えかも。

 それでも肉体強化だけでもある程度戦えるようには訓練してるし、手本の一つも見せてやりゃ参考になんだろ。


 オレもあんま余裕ねーけど、ちょっとそっちも構ってやんねーとな。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 昨日まとめた内容で今日は訓練してみる。


 オレの考えをジェスチャーしながら説明もしてみたんだけど、言葉が通じるかはわかんねーよな。

 なんか鳴き声で反応するし、もしかしたら理解してるかも。


 早速イメージした魔力を肩当てに集中させてみる。

 今のところロンに変化はねーな。


「準備は良いな? では行くぞ」


 オレが構えたところでロナウドさんが動き出す。

 ゆらりとした動作からの鋭い剣撃。

 昨日と同じ左薙ぎに合わせて右拳で払い除ける。

 隙ができたところに左拳の振り打ちだったがバックステップで回避される。

 爆破跳躍からの追い討ち。

 左右の連打に爆破ジャブ。

 普段より反動がでけーって事は、ロンにオレのイメージがちゃんと伝わってんだろ。

 とはいえ、魔獣なら一溜まりもねーだろうこの連打をロナウドさんは全部捌ききる。

 そんで表情はすげー楽しそうだなこのおっさん……


「ふむ。儂の激震を耐えおったな」


「その能力は激震って言うのか。すんげぇ強烈な一撃だし受けるのも怖かったけどな」


「今のが耐えられるのなら加減は要らんな?」


「おう! ガンガン来てくれ!」




 口は禍の元。

 ここから地獄が始まった……




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 あれから三日間。

 ロナウドさんの手加減なしの激震との訓練の日々。


 受ければ動けなくなるほどのダメージをもらい、爆破で合わせれば派手に吹っ飛ばされての繰り返し。

 どーなってんだよ激震っつー能力はよ!?

 こっちは爆炎込みの精霊魔法だっつーのに押し負けるとか洒落んなんねーわ……


 それでも三日もやり合えばそこそこ戦えるようにはなる。

 月読に慣れてきたっつーのもあるんだろうけどな。


 今日はなんとかまともにやり合えた…… と思いたい。




 そんで四日目の今日なんだけど、客人迎え入れなきゃなんねーって事で訓練無しで準備中。

 なんかオレらが訓練場来る前の日に会談があったとかで、ザウス王国にめっちゃ強え奴を呼び寄せたって事だ。

 なんで強え奴呼ぶんだって聞いたら訓練場以外では口外しないって事で教えてもらえたんだけど、一番魔族の襲撃を受ける可能性があんのがここザウス王国らしい。

 オレらにもできれば戦力としてしばらくここに留まってほしいそうだ。

 リルフォンで連絡すりゃすぐに飛んで来れるし、ザウス領ないであればどこでもいいみたいだけどな。

 オレらは冒険者だし他の街も見に行っていいなら別に構わねぇ。

 世界中見てぇ気もするけど、人間領守る事のが大事だし。




 聖騎士連中がバタバタしてっけどオレらは暇だ。


 ナスカ達はここ数日の訓練の成果を月華とハウザーパーティーとで確認してる。

 クイースト剣術とは違うザウス剣術に、またちょっと腕上げたみたいだ。

 ハウザー達なんかは正統な剣術習ったわけだし、我流に比べりゃ相当良くなったんじゃねーかな。


 困った事にウェルの事構ってやれなかったんだけど、ロナウドさんに苦戦するオレからでもなんか学べる事があったらしい。

 ちょっと師匠としてはかっこ悪いけどな。


 ま、オレは激震に集中してっから他の奴だとぶっ飛ばしちまう可能性もあるし、一人で魔力制御中だ。

 月読の出力全開にできてねーし、まだ制御が甘えんだろ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 十四時。

 ザウス王国に客人ってのが五人到着した。

 到着して早々に王宮に行って国王に挨拶してきたみてーだけど、ザウス王国の戦力も見ておきたいとかで訓練場にやって来た。


「ノーリス王国のヴィンセント=ノーリスだ。ザウス国王より要請があったので協力を申し出た次第だ。よろしく頼む」


「その妻、イーディスですわ。主人共々お願い致しますね」


「はじめまして! ヴィンセント様の弟子をしております、ワイアット=クリムゾンです! よろしくお願いします!」


 この人達の装備…… 絶対朱王さん達関わってんだろ。

 和服みてーなのに独特のアレンジ。

 それに刀挿してるし。

 地球の成人式…… 田舎の成人式?

 なんかそんな感じはすっけどこの世界なら結構かっこいいな。


 そんで他のあと二人は。


「クリムゾン総隊長サフラ=クリムゾンだ。朱王様の命を受け、今日からここでクリムゾンの指揮をとる。よろしく頼むぞ、皆んな」


 クリムゾンメンバー全員が跪いた。

 同じっくれーの歳だろうけど、カリスマ性が半端ねーな。

 背中にはでけー両手剣。

 そんで…… 

 精霊は火属性で人型してるって事は……

 もしかしてイフリートとかか?


「クリムゾン総隊長補佐ハクア=クリムゾンです。今後私の部隊も到着しますので仲良くしてくださいね」


 真っ白な女の子だ。

 装備もほぼ白に、ところどころに七色が入っててすげー綺麗。

 背中に掛けてんのはたぶん魔槍だろな。

 んでこっちも人型の精霊だけど女騎士みてーな奴。

 何の精霊だろな。


 こっちの聖騎士達も自己紹介して、オレ達も挨拶しといた。

 サフラとハクアの二人がオレをめっちゃ見てんのは何でかね。

 あ、オレもクリムゾンだからかな?

 あとでまた別に挨拶行ってやろ。




 この後ロナウドさんはまた稽古つけてくれんのかなーと思ったけど、ちょっと予想外の展開に。


「ノーリス公。ちと儂と手合わせしてはくれませんかな?」


「おお、ロナウド殿がお相手してくれるのか。願ってもない」


 っていきなりこの二人が模擬戦するみてぇ。

 聖騎士共の話じゃこのヴィンセントさんはノーリス王国最強の剣豪って事だし、とんでもねー戦いになるんじゃねーかな?




 オレ達が見守る中で二人が構えて向かい合う。


 ヴィンセントさんも火属性か。

 サラマンダー肩に乗せて抜刀の構え。

 ロナウドさんもサラマンダー顕現させてるし、盾も装備してる。

 これは完全に本気だな。


 一拍間を置いて二人が動き出した。

 ヴィンセントさんが足元爆破して一気に加速。

 お互いの間合いに入った瞬間に爆音と共にロナウドさんが吹っ飛ばされた。

 ヴィンセントさんが刀を振り抜いてるとこから見て、抜刀に爆炎乗せてんのか。

 それにしても刀抜く瞬間なんて全然見えねーんだけど!?

 ロナウドさんも右袈裟に振り下ろしてはいたけど、たぶん打ち付けてすらいねぇ。

 咄嗟に盾でガードしてるとは思うけどな。


 なんて考えてるうちに距離詰めてロナウドさんが転がってるより後方に抜けながらの右逆袈裟斬り。

 爆音と金属音。

 ロナウドさんは弾き飛ばされる事なくその場に蹲み込んでる。

 そっからの突き。

 普通の炎じゃねぇ、バーナーみてーな収束された炎の突きだ。

 ヴィンセントさんは体捻って腕振り上げながら突きを受ける。

 激震込みの精霊魔法を受けても平気なんだな。


 そっからヴィンセントさんの強襲。

 目で追うのもやっとなくらい斬撃も体捌きも超速え。

 それをロナウドさんは最小の動きで捌いては反撃を繰り出してる。

 凄え戦いだ。


 速度を特化させたヴィンセントさんの剣術に比べりゃ、ロナウドさんの動きは全然遅え。

 それでも反撃繰り出せるってのはなんでだ?


 ……


 あれか、速度に強弱つけて錯覚させてんのか。

 それに盾もあるから守れる範囲がでけーし、攻撃のモーションも隠せる。

 それでもヴィンセントさんの斬撃は全てが爆炎込めた一撃なんだろうな。

 盾で受けんのが結構キツそうだ。

 それでも精霊魔法を攻撃出力並みには放出してるんだろうけど。




 しばらく剣劇が続いた後にお互いに距離を取った。

 下級魔法陣発動してお互いのサラマンダーが巨大化する。

 大きさだけならロナウドさんのがデケーかな。


 今度はロナウドさんから駆け出して、盾を前にして突進して突きの構え。

 対するヴィンセントさんは再び抜刀。

 うん、見えねぇ。

 そして盾が弾かれても突きは止まんねーからな。


 刀を振り切ったヴィンセントさんだったけど、その抜刀も動きが普通じゃねぇ。

 なんか体ごと持ってかれて上体が流れた。

 その上、振り切った刀は盾に対して峰打ち。

 そのまま右袈裟に振り下ろすヴィンセントさん。


 隙の出来たロナウドさんだったんだけど、肩に乗ってたサラマンダーからの炎のブレスが吐き出された。

 ヴィンセントさんも刀を止めて、爆炎でブレスを散らす。


 再び距離が開いて向かい合う。


「む、すまぬ。儂の負けじゃな」


「ぬ? 勝ったとは思っていないが!?」


「いや、ノーリス公は精霊魔導師になって日が浅いのじゃろう? メテラは儂を守ろうと自らの意思で魔法を行使するのでな。手合わせとしては対等でなくてはならんじゃろう」


「ふむむ。ではまたお相手して頂けますかな?」


「いつでも大歓迎じゃ…… 大歓迎ですと言うべきじゃった。すまぬ」


 ロナウドさんもあんま敬語とか使えなさそ。

 この前、知らねー騎士がいるなーと思ってたら国王様って事だし、その国王様を何故か叱ったりもしてたしな。

 国王と聖騎士長っつーより部下と上司にしか見えなかったし。


 ロナウドさんとヴィンセントさんは仲良くなりそ。

 二人共どう考えても戦闘狂って感じだし、お互い遊び相手出来たみてーなもんだろ。

 これじゃあオレの訓練相手はどーしたらい……


「鈴谷勇飛さん、で合ってるかな?」


 サフラがオレに話しかけてきた。


「ああ。オレもちょっと前からクリムゾンのメンバーなんだ。月華部隊、よろしくな」


「こちらこそよろしく。朱王様からは組織の別働隊として配すると聞いているからね。特に私から命令する事はないけど…… どう接したら良いのかわからないね」


「んじゃ友人って事でよろしく! 出来ればオレの訓練相手にもなってほしいんだけど」


 総隊長っつーくれーだからかなり強えだろ。

 ロナウドさん程じゃねーかもしんねーけど、オレよりは強い可能性も充分ある。


「うん。喜んで相手になるよ」


 サフラと握手する。

 友達って事でお互い強くなってけりゃ今後も楽しいしな!

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ヒーラーでも強くなれますか?〜奴隷になりたくないので冒険者になります〜 白銀 六花 @Platina_Rocca

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