第39話 聖騎士長ロナウド

 ちょっと楽しくなってきたオレとロンの精霊魔法。

 まだ上手く魔力を込められねーから威力はイマイチなはずなんだけど、それでも以前よりも全然出力は高え。

 これはたぶん威力上げるよりも魔力の放出量をセーブできっから戦闘時間を今まで以上に引き伸ばせそうだな。

 他の奴らに比べたら長時間戦闘も苦にならねーオレだけど、爆破で使う魔力量、回復に回す魔力量とで結構魔力消費すんだよなぁ。

 最高出力上げるのも大事かもしんねーけど、このセーブできるのは上手くオレの技術として使えるようになりてぇ。

 そうなれば小せえ魔力で足裏、肩、膝で爆破加速してからぶん殴ればさらにスピードも威力も上がる。

 魔力操作がかなり難しいだろうけど、考えただけでも今より数段強くなるはずだ。

 下手すりゃ数倍強くなるんじゃね?

 成長したオレが楽しみすぎてヤッベーな!!




 ま、とはいえまだ上手く月読を使えてねーからな。

 出力できねーこの感覚も忘れねーようにしっかり頭と体に刻んどこ。

 オレの今までの経験上、あれもこれもって手ぇ付けるよりは一つの動作を徹底的に体に染み付かせた方が効率がいい。


 っつー事でまずは得意の右ストレートからだな。

 魔獣相手ならリーチが違うし、距離を一気に詰めてから殴るしかねーしな。

 その辺も踏まえての右ストレートだ。

 よく足裏爆破から跳躍してぶん殴ったりはしてんだけど、それに各関節にも追加してやってみよ。

 まずはゆっくり。


 爆破跳躍して…… 


 肩裏爆破してっ……


 ダメだ、体が流れてバランス崩れる。

 って事はゆっくりじゃダメだな。

 いろいろタイミングやら出力やら調整しねーと使えねーかも。




 その後もひたすら調整繰り返してくうちにある程度は形になってきた。

 ただまだ出力の安定やら微調整が効かねーから、完璧な一撃繰り出すまではまだまだ掛かりそう。


 この日の訓練時間は二時間程度だったんだけど得られたものはデケーな。

 また明日訓練させてもらおっと。




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 ザウス王国の高級宿屋は金額のだけあって立派な建物だった。

 ロビーに飾られた絵画やらソファにテーブルまですっげー高そうなもんばっか。

 この壺とかいくらすんだろうな。


 夕食で出てきた料理だっていい食材使ってるだろうし、綺麗に飾られててどっから食っていいのかわかんねぇ。


 でもオレ達はやっぱり冒険者。

 求めてるもんはこうじゃねーんだよ。

 美味い飯にふかふかのベッド、そして風呂なんかありゃ最高なんだけどなぁ。

 それがどう食っていいかわかんねー飯にシャワーだけで湯船もねぇ。

 今日来たばっかなのにエイルが恋しいわ。


 もしかしたらオレ達冒険者は高級宿屋なんかより普通の宿屋選んだいた方がいいかもな。

 飯だってその辺の酒場で食えばそこそこ美味えし、飲んで騒いでって方が性に合ってる。

 そうだ、あの綺麗な姉ちゃん店にまた行きてーなぁ。

 またウェルでも誘ってみよかな。


 ……


 んでも今日は眠いし寝よ。




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 次の日もまた訓練に行った。


 カイン達も仲良くなった聖騎士と今日も訓練するらしい。


 ハウザー達はまたクリムゾンメンバーと遊んでっけど、ちょいちょい騎士達にもちょっかい出してるみてーだ。


 ウェルなんかはワットさんに預けて正解だったな。

 なんか今日の朝もちょっと早く出て筋トレ一緒にやるんだってはりきってた。

 どうやらこの訓練場の敷地内にもなんか鍛えれるとこがあるらしい。

 気にはなるけど今はそれどころじゃねぇ。


 王国に滞在する期間は決めてねーけど、ある程度実力が身につくまではここで訓練させて欲しいとこだ。




 オレは昨日と同じように何度も繰り返し爆破しながら拳を突き出す。

 今の感覚だと以前と同じ戦い方でも何とかなりそうなんだけど、こっから先に進む為にはこの難しい爆破加速を自分のものにしねーとな。


 ひたすら同じ事の繰り返しなんだけど、何十回かに一回は納得のいく動きは出来てる。

 あとはそれを完璧に出来るように、自分の魔力と爆破の威力をコントロールしつつ、あとはロンのイメージが上手く噛み合うようにって……

 すっげー難しくね!?


 ま、反復練習やら訓練ならオレの得意分野だからな。

 午前一杯ひたすら続けるのみよ!




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 昼飯は訓練場の食堂で食わせてもらえた。

 やっぱ聖騎士や上位騎士ってのは貴族の奴らが多いからだろな。

 一流の料理人が食堂の飯作ってるって事だし結構美味かった。

 一流料理人の飯が結構美味かったとか言ってる時点でオレもちょっと感覚がおかしくなってるかもなぁ。




 午後からも反復練習を繰り返してたんだけど、そこに突然振り下ろされた剣。

 オレは慌てて月読で受けながら弾き返した。


「ロナウドさん、どういうつもりだ!?」


「一つの技を極めようとするその努力も良いがの。実戦訓練も時には必要じゃろ」


 聖騎士長との実戦訓練ねぇ……

 そりゃ願ってもない申し出だけど、こっちはまだ不慣れな月読に精霊魔導。

 まともに戦えるかすらわかんねぇ。


 対してロナウドさんは魔剣で鍛えてるんだろうし、精霊魔導での戦闘力は未知数。

 肩に乗ってんのはロンよりデケぇ精霊サラマンダー。

 魔力の総量はたぶんオレのがあると思うんだけど、使える魔力量が大きいせいか……


「ま、せっかくだ。どこまでやれっかわかんねーけど相手してもらうよ」


「むっふっふっ。楽しみじゃわい」


 あ、この人戦闘狂っぽい。




 ロナウドさんの魔剣は片手直剣。

 本来であれば盾も使うんだろうけど魔剣のみか……

 オレの月読に爆炎が組み込まれてるように、ロナウドさんの魔剣も何かあるはず。

 精霊は出てっけど魔法陣は発動してねーし、精霊魔法でいいな。


 オレは爆炎を込めた精霊魔法で挑む。

 左斜めに構えてロナウドさんの出方を見るか。


 ロンを顕現させると同時に駆け出したロナウドさんの左薙ぎ。

 月読を打ち付けるようにして払う。

 右腕の内部から爆発するんじゃねーかって衝撃が走って吹っ飛ばされちまった。

 こっちは爆炎で受けたはずなのにとんでもねー威力だ。

 受け身を取って起き上がる。


 やっぱロンの力借りねーとやべーな。

 爆炎を込めた魔力をロンを介して魔法にするイメージで……


 追い討ちに詰め寄ったロナウドさん。

 右袈裟を爆破を発動した左拳で往なしてそのまま右の回し蹴り。

 と、思ったら体勢伏せて逆袈裟に斬り上げてきた。

 すげー速さの切り返しだ。

 軸足浮かして体を捻って斬撃を躱し、目眩しの範囲の爆破。


 一瞬でも隙ができりゃ踏み込める。

 魔剣を振り抜いたところに間合いを詰めて左フック。

 右腕がまだ回復してねぇからな。

 フックは首を捻っただけで躱されたけど、最初っからこっちの狙いは右回し蹴りだ。

 爆速の蹴りを放つも上げた左脚で簡単に防がれちまう。

 反応速度が今まで相手してきた奴らとは比べものになんねーくらい早え。


 ロナウドさんの動き自体はそれ程速くはねぇんだけど、こっちの動きを先手先手で防がれる。


 返す右袈裟に敢えて接近、右側に回り込んでの後ろ回し蹴り。

 あっさり回避されて、振り返りざまの突きが襲ってくる。


 避けらんねぇ……


 まだ無事な左拳で受ける。

 オレの渾身の爆炎だったけどロンが咄嗟にフォローしてくれたみてぇだ。

 オレのイメージじゃまだロンを介した精霊魔法で戦えてねーからな。

 もしかしたら気まぐれかもしんねーけど助かった。

 ロナウドさんの突きを受け止めて、あの衝撃も相殺しきれてる。


『クルルルルルルルルッ』


 何言ってんのかしんねーけどさっきから鳴き声みてーなのあげてる。

 もっと魔力寄越せとか言われてんのかな?


 バックステップでロナウドさんから距離をとりつつロンに魔力を流し込む。

『ガウッ?』って感じで首傾げられたけどなんか違ったのかも……




 距離を詰めて来ないロナウドさん。


「ふむ。さすがはクイースト王国最強の冒険者じゃな。良い動きじゃ」


「いやいや…… ロナウドさんは全然本気じゃねーんだろ?」


 そもそも本来持つべき盾がねぇ。

 絶対にこんなもんじゃねーはずだ。


「実は聖騎士も相当な実力を身に付けたとて儂の訓練相手にならんのでな。困っておったんじゃ」


「で? オレに訓練相手…… いや、遊び相手になって欲しいと?」


「まぁそんなとこじゃ。強くなった勇飛と戦いたいのでな。訓練にはいくらでも協力するぞ」


 あ、この人結構ヤバい人かも……

 聞いた話じゃロナウドさんの息子も聖騎士、それに魔剣持ってるはずだ。

 息子が相手じゃ訓練しづれーとかそんな事言いそうな人じゃねーだろうし、もしかしたら飛び抜けて強えのかも。

 今思い返せばロナウドさん精霊魔法使ったか?

 魔剣に付与された能力だけで戦ってる気もすんなぁ。


「お手柔らかに頼む……」


 不安しかねーわ。




 そっから訓練終了時間までずっとロナウドさんと戦ってた。

 相当加減してくれてるとは思うんだけどこっちはボロッボロ。

 対してロナウドさんは無傷なうえ汗一つ流さねー涼しい顔してっからね。

 ここまで相手になんねーとか初めてだ。


 ただ全然敵わねーながらもちょっとだけ成長は感じられたのがロンの精霊魔法だ。

 オレの戦闘状況を見て考えてんのか、ちょいちょい爆破に精霊魔法を上乗せして助けてくれんだよ。

 そのロンのイメージもオレの頭ん中入ってくっから、オレも同じようにイメージすりゃもっと良くなるかも!

 ボコボコにやられはしてんだけどそんなちょっとした成長もあって楽しくなってきた。

 次はこそはオレのイメージも重ねてみようなんて思って挑んでんだけど、全く余裕ねーからな。


 結局この日オレのイメージとロンのイメージが噛み合う事は一回もなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 やっぱ強くなるには恥とか気にしてらんねぇ。

 夜には朱王さんに相談してみた。


 やっぱ月読の性能が扱いの難しさを強めてるのかなーって言ってた。

 魔力の流れが軽かったライオス装備だと簡単に魔力放出できるけど、月読じゃ流れが遅えし溜め込んだ魔力を放出すんのにも癖がある。

 これが魔剣なら一振りだけだし、長さがある分魔力を流し込んで放出するまでがイメージしやすい。


 対してオレの月読は魔力流し込むのが拳側。

 溜め込まれるのは魔拳の全体になっちまうから放出も拳からだけだと上手くできねぇ。

 膝側から押し出すようにイメージすると良いかもって言うけどやり辛えよな。

 その上オレは両手脚に爆炎を組み込んだ月読と、肩当てがロンの器になってる。

 魔力の流れがイメージしにくいのはそのせいかもって事で話はまとまった。


 本来であればオレのイメージを込めた魔力を月読に流して爆炎で増幅。

 増幅された爆炎のイメージをロンが取り込んで精霊魔法にする。

 魔法陣も込みってなりゃ爆炎の前に魔法陣か。


 これを順番並べ替えて考えた方がイメージしやすいかもって事で明日からはこれでいく。


 まずはオレのイメージを込めた魔力をロンに渡す。

 要はオレの魔力放出を肩当てに限定するんだ。

 全身から魔力放出できっからそこは問題ねーな。

 オレのイメージにロンのイメージを重ねるだけで精霊魔法を完成させちまう。


 そんで月読の左右手脚。

 これも全部魔力の溜め込める素材で作ってるから流れ出る事はねぇ。

 これ意味わかるか?

 ようはロンの精霊魔法をチャージしておけるんだよ。

 そんで放出の際には爆炎で増幅して、ロンが放出量調整するって方法だ。

 オレのイメージが全然必要ねーように思ったけど、オレとロンのイメージ合わせての精霊魔法だからな。

 ちゃんとその辺はオレの思うような精霊魔法にはなるらしい。

 ま、イメージが噛み合わなきゃ出力にバラつきは出るんだろうけど。


 ただこの順番を変える事によるデメリットもあるかもって事だから明日試してみてからだな。

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