世界征服して暇になったからちょっと異世界に行ってくる。

@shimotukin

第1話 世界征服して暇になったからちょっとグリフォン狩ってくる。その①

目を覚ますと異世界にいた。


そう判断するのに充分な自身の置かれている現状を確かめるまでもなく察して

「ああ、そういえば散策に来たのだったな。」

たいしたことないような口調でそう口にする。

異世界に来たこと自体は自分の意思なのだから当然と言えば当然だ。

「目を覚ますと異世界にいた。」というよりは、目を覚まして再び異世界にいることを認識したという方が事実に即している。

「外出先で寝るのは久しぶりだが、やはり少しやり過ぎたか……冷静に考えると常軌を逸していたな。」

誰に話しかけるでもなくそう呟いた声には、しかしその声に同意を示す者があった。

「ええ、確かに。この様は常軌も条理も、逸していると言って差し支えありません。」

見渡す限りの平原にベッドが一つ。

第三者が見ればある種の恐怖を呼び起こすほどの非日常的光景を『外泊で浮かれていたから』などという理由で生み出したメンタリティに今更な不安を覚えながら答えた声には少なくない呆れが混じっていた。


異世界に来た初日にベッドだけ設置した。

というのは少し語弊があり多分な誤解が生じる。

正しくはベッドを設置するだけに留めた、だ。

この二者には大きな意味合いの違いがある。

一つは制作能力に与える印象だ。

元となる素材を使用する必要がないのだから制作というより創造と言った方が正しいのかもしれないが。

彼はその気になれば材料を用いずに家はおろか立派な城さえ建てることもできたのだ。

だがあえてやめた。

過去に城を建てて厄介事になったことがあった。という過去の失敗が、結果として極論にまで振り切られた後に活かされた形だ。

「最低限屋根と壁くらいあった方がいい」「失敗例を考慮しても平屋程度なら問題ない」とは同行者の諭しに近い説得を聞くまでもなく自身の理性でも分かっていたこと。

当初は彼もそのつもりでいた。

だが、手始めに出したベッドに横になった途端にその気は失せてしまった。

前の世界では野宿などする必要がなかったので野外で眠る事に憧れがあったのもある。

しかし何より、幼い時分に押入れの中で眠った時に感じたような非日常の感覚が彼にその気を失わせた。

久しく忘れていた感情を思い出させてくれるのが異世界なのかと、見当違いな感動すら覚えた程だ。

この感動を理解できなかった同行者にはどうやら最後まで乱心とみなされていたようだが。

そして二つ目に行動内容に関しても誤解を生む。

ベッドを置いたというのは創造を意味しない。

ベッドは前の世界から持ってきたものだ。

彼はこのベッドに、それだけでなく普段から使用している私物に並々ならぬ執着を持っていた。

それこそ外出先に家具を持って行くくらいのである。


要するに。

彼の異世界転移初日の行動は寝た。

厳密には寝るための準備も含まれるという注釈はつくが、他にどれ程の事ができようとも実際に行われたのはそれだけであった。

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