夜行列車に最後に乗ったのは20年ほど前になる。今は廃止されてしまったが、当時はかなり長い距離を……寝台がないのと引き換えに……程々に安い値段で走る夜間ローカル線があった。
本作は、私が体験した物憂げで単調な振動と墨一色の真っ暗な外の背景を十二分に描ききっている。
そもそも夜行列車は非日常の色彩が強い。そのさなかにあって、突然現れた彼女にも違和感を与えさせないのはまさしく紙とペンという日常の象徴たる小道具だろう。即ちポケットの中身が生死を分かつ境目として機能する緊張美だ。時間差をかけて第三者の指摘でそれに気づく主人公は、既に読者と同化している。
終点はまだかなり先のようだ。