幼馴染の女の子は僕を囮にする

御剣ひかる

どうして「番マ」じゃないの?

 僕は今、夢の中にいる。

 竹刀を持って、お隣さんで幼馴染の女の子と一緒に、化け物を相手にしている。


 こんなことを言ったらクラスのみんなにはヘタレのくせに中二病かとバカにされるんだろうな。

 けどこんなことをしているのは内緒なんだ。




 きっかけは急激な体調不良だった。

 三日間寝込んで、三日目の夜の夢に幼馴染の綾乃あやのが現れた。


 その恰好がまたすごいんだ。

 チビTに黒の革ジャケット、ショートパンツ。へそ出し生足でポニテを揺らしながら、銃とナイフを手に持って化け物に変化した夢の登場人物と戦い始めた。


 僕は目が覚めた時、それは単なる夢だって思ってた。

 けれど次の日の夜も、綾乃と夢の中で会ってしまった。


 綾乃にお隣さんに引っ張られてって、今まで知らなかった事実を知った。


 現実世界と並行して精神世界――夢の世界があること。

 そこに夢魔むまって呼ばれる化け物がいて、悪い夢を見せて弱らせて命をすすり取っていること。

 そういうのと戦う組織があって、綾乃と、姉の静乃しずのちゃんもそこのメンバーだってこと。

 僕が急に弱ったのは夢魔に狙われていてにえとなっていたこと。


 そして――。




「おい克己かつみ! なにぼーっとしてんだコラ! 夢魔が来るぞ!」


 綾乃の声ではっとなった。


 隣を見るといつもの恰好、チビT黒ジャケットにショートパンツなへそ出し綾乃が銃とナイフを構えてる。


 夢魔はいつも「なんでそれ?」なのが多い。今回はどんなのが来るのかと思ってたら。


 雪だるまだ。某アニメのみたいに鼻にニンジンぶっさしてる、アレ。それがいくつもいくつもやってくる。


「どれが核?」

「ここにはいないな」


 綾乃が銃を構えた。


「ほら、克己、ゴー!」

「犬に命令するみたいに言わないで」

「ふん、ヘタレなおまえより犬の方が役に立つかもな」

「ひどい」

「これ以上格下に見られたくなかったら、さっさと飛び込んで注意ひきつけとけ」


 僕は泣く泣くオ〇フもどきの群れに突っ込む。

 途端に雪だるま達に囲まれる。攻撃を食らわないように竹刀を振り回した。


「バ克己! 動くな、狙いがそれるだろーが!」

「黙って突っ立ってたら痛いじゃないか」

「ちょっとぐらい我慢しろよ」


 言いながら綾乃がカシャカシャと引き金を引く。本物の銃弾は入ってないから空撃ちだが、綾乃の魔力が弾になって飛び出してくる。


「一、二、三!」

「ひぃ、ひぃい、ひぃぃっ!」

「よしいい感じだ、って、うるせぇ、数も数えられねぇのかよ!」


 いや、撃たれたオ〇フを数えてた訳じゃなくて、体のそばスレスレを通って夢魔に中ってく白い魔力の弾にやられそうで怖いんだよっ。


 ……情けないけど、これが僕らの戦い方だ。

 綾乃の方が強いし、今のところ僕はひきつけ役にしかなれない。


 言葉遣いも人使いも乱暴な綾乃だけど、それでも僕は綾乃が好きなんだ。


 昔はどっちかっていうとかわいいタイプの子だった。それが夢魔関係でちょっと暗い出来事があって中学に上がってから荒れてしまった。乱暴な言動は強がりの裏返しだって気づいたら、好きになってた。


 いつか綾乃の隣で立派に戦えるようになったら、僕は……。


 そんなことを考えてたら、綾乃の後ろから巨大オ〇フがこっそりとやってくるのが見えた。

 思考を中断して、綾乃を横へ突き飛ばした。


「きゃっ!?」


 綾乃の口から咄嗟に女の子らしい悲鳴があがる。

 僕は思わず口を緩めながら竹刀を振り上げた。


「いってぇ、何すんだよ」


 尻もちをついた綾乃の抗議の声がするけど応える余裕はない。僕は今、巨大雪だるまと戦ってる。コイツ、でかい癖にぴょんぴょん身軽に飛び回るから厄介だ。


「そいつが今回の核か」


 夢魔には核と呼ばれる中心部分みたいなのがあって、それをやっつけないと倒したことにならない。

 綾乃はナイフを構えて跳びあがり、目にも止まらない速さで核の鼻をぶっ刺した。


“ぎゅーって抱きしめてー”


 夢魔の断末魔が、やっぱりオ〇フだった。にえがア〇雪好きなのかな。


「ふん、この綾乃様に奇襲をかけるなんざ、百年早いんだよ!」


 綾乃がかっこいいふうに言ってるけど、僕が突き飛ばさなかったら見事に奇襲されてたんじゃないか。


「……おい、何か言いたそうだな」

「え? そんなことないよ?」


 こういうのは黙ってる方が絶対いい。


「おまえ、あたしを助けた僕ってちょっとすごくない? とか思ってるだろ」

「全然、全然」


 超高速で首をぶんぶん振ったら。

 おなかに強烈な衝撃がっ。

 なんでそこで腹パン!?


「あのなぁ、おまえそんなのだからクラスの連中にカスmeミーとか馬鹿にされるんだろーが。自分の手柄は自分で認めろよ。自己評価低いヘタレがあたしの相棒になろうとか考えてんじゃねーぞ」

「綾乃だって「バ克己」とか言うくせに――、げふっ!?」


 また殴られたっ。


「あたしはいいんだよっ」


 理不尽すぎる。


「……ま、でも、助けてくれた礼は言っておかないとな。サンキュ、犬未満から番チに引き上げだ」

「何その「ばんち」って」

「番犬のマルチーズ。略して番チ」


 喜ぶべきなのか? それともバカにされてるままなの? っていうかその理屈だとなんで「番マ」じゃないの?


「ほら帰るぞ」


 綾乃は僕の首根っこをひっつかんでずるずると引きずり始めた。これじゃ本当に犬扱いだ。


 ……いつか、綾乃の隣で立派に戦える日って、……来るのかな……。



(了)

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