第3333回ナデコラール王国軍部交流試合
茅田真尋
第1話
久方ぶりの試合だ......!
前回は確か二ヶ月前。思えば約60日、あいつの顔をみていないことになるのか。さぞや腕をあげてきていることだろう。
しかし! 貴様がどれだけ鍛練を積もうと、この狂戦士団団長バントス・アルメトールの勝利はすでに決している! いざ行かん! 余を待ちわびる今宵の戦場へ!
バントス、腰の長剣を颯爽と抜き、戦場へ姿を現す。二メートルを優に越える大剣の切っ先は、真っ赤なローブに黒い甲冑を装備した戦乙女、パナロア・フィエステリアへと向けられた。
バントスに向けて不敵な笑みを浮かべつつ、パナロアは巡らせている。少し趣向のずれた思考を......。
二ヶ月ぶりの試合......。
前回は時間切れと言う形で幕を下ろしましたが、今回こそはきっちり、かっちりと決着をつけて差し上げましょう。この戦乙女団団長パナロア・フィエステリアの勝利と言う形でね!
......そうしたら、あの人はわたくしを認めてくれるのかしら? 戦乙女の魅力は強さと勝利。であれば、自らを打ち負かした女に惚れぬ男などいないはず......!
うわーー! 燃えてきましたわ!
今宵の戦、断じて負けられないわ。
そう。パナロアは、これから剣を交える張本人バントスに惚れている。だが、それは彼女に限ったことではない。
......今回の赤ローブと黒甲冑の組合わせ、よく似合っておるわ......! 女らしくたおやかなローブに、やたら厳めしい甲冑。そのミスマッチな組み合わせが、なぜか異様なまでに彼女の魅力を引き上げている。
......試合開始はまだか。
その甲冑、あれよと言う間に
粉砕してくれようぞ!
狂戦士の生きる意味とは強さと勝利。そして、女は何より強くたくましい男が好き。ならば、戦いに破れた戦乙女が、自らを負かした相手に惚れぬはずがないのだ!
そう。とどのつまり、二人は両思いなのである。しかし、戦のみを生き甲斐としてきた両者に愛情表現など知るよしもないのだ!
故に戦う。
戦い、勝って、力を以て相手を落とす!
そんな動物じみた争いを二人は数年来続けているのだ。
......いや、動物であってもつがいとなるもの同士で決闘などしないだろう。
訂正だ。
つまりこれは、動物未満のこの世で最も不毛な争いなのだ!
「それそれ、では改めてルールの確認じゃ」
バントスとパナロア、両者が睨み合う(見つめあう)なか、試合会場に舌足らずな少女の声が響き渡った。
流れるような青い長髪をツインテールの形に結んだ童女にして、魔術師団団長リール・カンディンスキーのアナウンスだった。
「制限時間は五分。時間内に相手の首をとったものが勝ち......といっても交流試合じゃならな、命まではとらぬ。なお、実際の戦場を想定して、外野からのみ妨害は許されておる。みな、おのが団長を存分に支援してやるといい。最後に、反則行為があった場合には試合を強制終了させる。......そこんとこは肝に命じておけよ、おのれら」
最後の最後に、全く容姿に似合わぬ剣呑な声音を残して、リールはマイクをおいた。
彼女達の所属するナデコラール王国軍部はそれぞれ、狂戦士団、戦乙女団、魔術師団という三つの団に分割されており、定期的に訓練をかねた交流試合を開いているのだ。今回で晴れて3333回目である。
ちなみに、戦士が男女別で魔術師が男女混合であることにたいした意味はない。高校の部活における、男バス、女バス、陸上部みたいなノリである。
戦闘開始の合図は、王宮の尖塔に取り付けられた大鐘楼の鐘の音である。
そして今、鐘楼の音が厳かに鳴り響く!
試合開始と共に、両者猛ダッシュ。
開始早々、いきなりスタジアム中央での鍔迫り合いへと持ち込まれた。
本来であれば、ここは正念場。過度の緊迫感に満ちた展開である。
しかし......!
誰にも言えないけど、この鍔迫り合いが一番楽しみなの! だって、こんなにもバントスの顔を間近に見られる機会、他にないでしょ?
早く勝利を納めたいが、この状況......打破するには惜しすぎる!
両者ぞっこん!
しかし、ここは命を懸けた戦場の場。そんな甘い考えは許されない。
何よ! あの女。アタシのバントスに色目使ってんじゃないわよ。
「全軍! 重火器用意!! 団長を補佐するのよ!」
野太い掛け声と共に降り注ぐ炎の嵐。たちまち戦場は火の海と化す!
そんな地獄絵図を満足げに眺める男が一人。
バントスの腹心、狂戦士団副団長、ゴンザレス・バークレー(40)
この男、副団長の身でありながら、上官で団長のバントスに人知れず想いを寄せる、熱き軍人である!
鍔迫り合いを解消し、降り注ぐ火球から逃げ惑うバントスとパナロア。その様子はまるで愛する二人が織り成す剣の舞!
ひらりひらりと炎をかわして、パナロアは考える。
これはこれでいいわね。鍔迫り合いを邪魔された癪だけど、今はあの人の呼吸が感じられるわ。まるでバントスにエスコートされてるみたい!
ゴンザレスのやつ、余計なことを......! だが、炎に照らされたパナロア、戦乙女の神秘的な衣装と相まって、すごく綺麗だ。
「お姉様といちゃこらしてんじゃないわよ! このでかぶつ!」
火炎の海に降り注ぐ甲高い怒声。
戦乙女団副団長、エイト・アレグロッサ。
類は友を呼ぶとはよく言ったもので、この女、ゴンザレスと同様、己の上官に惚れている。
ちなみに同じ恋の苦しみを分かち合うもの同士、エイトとゴンザレスは大の仲良しである。
「とっとと、この忌々しい炎を消火するわよ! 全軍、ウォーターカッターを用意なさい! 炎もろとも、あの男をズタズタにしてあげるわ!」
戦乙女団の放つ無数のウォーターカッターは、瞬く間に炎を消し去っていく。
炎と水の二重苦にさいなまれながらも、流石は団長、バントスとパナロアは求愛のダンスを踊る蝶々のように軽やかに窮地を乗り越える。
あの子ったら、ちょっとおいたが過ぎるんじゃないかしら? 試合が終わったら少しお灸を据えないと。ただ、そんなことより、このままだとまずいわね。また決着つかないじゃない!
そろそろ試合終了の五分がたっちまう。そうなれば次回の試合は二ヶ月後。それはなんとしても避けなければ! ここはちょいと強引だが......。
「うおおおおおおおお!!!」
バントス、迫り来るウォーターカッターを自慢の長剣でなぎはらい、パナロアに急接近。
勝負をかけに来たわね! ......だけど、わたくしはどうするべきなの? 迎え撃つ? それともあの人の熱いアプローチを受けるべき? ......決まってる、戦乙女の誇りにかけてあの人を打ち破るの! ああ! だけど!!
「あの男、お姉様を直接襲う気ね。そうはさせないわよ!」
「バントスのバカ! 真っ向から突撃なんて、敵の思うつぼよ!」
それぞれの思惑を胸に、エイトとゴンザレスはスタジアムへ飛び込む!
舞台は最高潮!そこへ水を指すように冷ややかな少女の声。
「......おい、言ったはずだぞおのれら。妨害は外野からのみだと。試合は終了だぁ!!」
少女の怒声が会場に響き渡るやいなや、スタジアム全体をを巨大なハリケーンが包み込んだ。
魔術師団団長リール・カンディンスキーの最大術、ニューディール・ハリケーンであった。
こうして第3333回ナデコラール王国軍部交流試合は幕を閉じ、バントスとパナロアの運命は続く第3334回へと持ち越されたのだった!
つづく......?
第3333回ナデコラール王国軍部交流試合 茅田真尋 @tasogaredaru
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