魔王様が勇者に告られて困ってます。

蒼月

勇者の告白

 重い扉がゆっくりと開く音が部屋の中に響き渡り、そこから勇者の装備を身にまとった一人の男性が迷う事無く、玉座に足を組んで座り頬杖を付いている魔王の前まで歩いていったのだ。

 するとその勇者を見つめながら魔王はニヤリと笑ったのである。


「ふっ、よくぞここまで来たな勇・・・」

「好きです!」

「は!?・・・・・・す、すまぬ。聞き間違いだと思うから。もう一度言ってくれぬか?」


 驚きで玉座から滑り落ちかけた魔王が、困惑しながら玉座に座り直し勇者に問い掛けた。

 すると勇者はその場で跪き左手を自分の胸に、そして右手を魔王に向かって差し出すと高揚した表情で口を開いたのである。


「貴女の事が好きです!愛しています!!」

「はぁ!?」


 突然の勇者からの愛の告白に魔王は目を剥いて驚いたのだ。







 ここは魔王が住まう城の奥にある玉座の間。

 その中にある玉座に全魔族を統べる魔王が座っている。

 魔王の名はミリア。女性体の魔族で見た目は少女のような姿をしているが、もう2000年以上生きている。

 長いツインテールの赤い髪と爬虫類のような形をした金色の瞳と尖った耳。

 さらに笑うと口から吸血鬼のような牙が見えるが、一見すると美少女にしか見えない容姿をしていた。

 そしてそんな魔王ミリアに愛の告白をしたのが、この世界を魔王の手から救う使命を担った金髪碧眼の勇者ランスロットであったのだ。


「ちょ、ちょっとお前自分が何を言っているのか分かっているのか?我は魔王だぞ?」

「ええ、分かっています」

「分かっていますって・・・お前は勇者だろ!魔王である我を倒しに来たのでは無いのか?」

「貴女を倒すだなんてとんでもない!!私は貴女に会う為だけにここまでやって来たのです」


 そう真剣表現で訴えてくる勇者ランスロットに、ミリアはドン引きしていたのである。

 するとランスロットは立ち上がりミリアに近付こうとした。

 しかしそんなランスロットの前に、何処からともなく三人の魔族が立ちふさがったのだ。


「待て勇者よ!!」

「ここは通さぬ!!」

「お前、嫌い」


 真っ白な長髪と片眼鏡を掛けた長身の神経質そうな魔族の男を中心に、右に豚のような顔をしながら筋肉隆々の体を見せるようにひたすらポージングしている魔族の男と、左にカエルの顔で舌を何度も出し入れしている小柄で丸々とした魔族の男が並んで立っていた。


「お、ランドルフ、ドビー、カッペル来たのか」

「勿論魔王様をお守りするのが我らの役目ですので。しかし・・・勇者ランスロットよ、我らの魔王様に告白なさるとは聞き捨てなりませんね」

「ふん!許せんな!!」

「お前、絶対、許さない」

「・・・お前達には関係ないだろう。良いからそこを退け」

「絶対退きません!我らは魔王ミリア様の側近であると同時に・・・」


 真っ白な髪をしたランドルフがそこで言葉を切ると、三人の魔族が揃って何処から出してきたのかピンク色のハッピを着て頭に白い鉢巻きを巻いたのである。

 そしてそのハッピの背中と鉢巻きに、『ミリア様LOVE』の文字とミリアをデフォルメした絵が描かれていたのだ。


「ミリア様親衛隊の各隊長でもあるのだ!!!」


 ランドルフが胸を張って堂々と言い切ると、他の二人も誇らしげな表情で背中の絵をランスロットに見せ付けたのである。


「ちょっ、お前達!?何だその我の親衛隊と言うのは!?我はそんなの聞いていないぞ!!」

「約500年程前にミリア様には内緒で結成致しました。今や親衛隊の数は約3億人にまで増えていますよ」

「なっ!?そ、そんなの我は望んでいない!!今すぐ解散しないか!!」

「いいえ、それはいくらミリア様のお言葉でもお聞きする事は出来ません!!我らはこの活動に命を掛けておりますから!」


 そうランドルフが力強く言うと左右の二人も何度も頷いてみせたのだ。

 そんなランドルフ達を見てミリアは唖然としたのだった。


「さて勇者ランスロットよ。我らのミリア様に愛の告白など1000年早いです!この人間風情が!身の程をわきまえなさい!!」


 ランドルフがそう言い放つと三人の魔族は、一斉にランスロットに襲い掛かったのである。


「ふん、私とミリアの愛の時間を邪魔するな!!」


 そう言い捨てると同時にランスロットは剣を抜き、その剣にまとわせた風の魔法で襲い掛かってきた三人を凪ぎ払うように一気に吹き飛ばしたのだ。

 そしてその三人の魔族は天井に激突すると、そのまま突き抜けて空の彼方まで飛んでいってしまったのだった。

 ミリアはぽっかりと開いてしまったその天井を見つめポカンとしていたのだ。


「ああ、漸く二人っきりになれましたね」

「っ!!」


 突如右手を握られて至近距離からランスロットに見つめられたミリアは、驚きながら後退ろうとしたが玉座に座っている状態だった為それ以上後ろに下がる事が出来なかった。

 そんなミリアを愛しそうに見つめてくるランスロットに、ミリアは顔を青ざめながら恐る恐る確認したのである。


「ゆ、勇者よ・・・お主とは今日初めて会ったと思うがどうしていきなり我を好きだと言い出したのだ?」

「実は・・・貴女が私の住んでいた王国を襲った時に、遠くからでしたが貴女のお姿を初めて見たのです。そしてその時見た貴女のその愛くるしいお姿と楽しそうに暴れまわっているご様子に、私は一目で恋に堕ちてしまいました」

「・・・・・お前の目大丈夫か?暴れまわっている姿を見て好きになるって絶対変だぞ?それも自国を襲われたんだろう?普通恨みはするが好きになるなんて事無いだろう?」


 ミリアはランスロットの手を振りほどこうと何度も握られている手を振りながら呆れた表情を向けるが、全く手を離してくれる様子もなくさらにランスロットは恍惚とした表情で微笑んでいるのだ。

 さすがにそんなランスロットを見てミリアは恐ろしさを感じたのである。


「は、離さぬか!お前、選ばれた勇者だろう!!人々からの期待を一心に背負っている身だろうが!!こ、こんな事がバレたらただではすまぬぞ!?」

「私は別に構いません。何でしたら貴女の為に世界を手に入れてきましょうか?」

「おい勇者!!!お前は勇者!!!」

「私は貴女に会う為だけに努力して力を得て勇者になっただけですからね。正直世界なんてどうでも良いんですよ」

「いやいや魔王の我が言うのもおかしいが、目を覚ませ!!!勇者の仕事しろ!!!」

「安心してください。私のこの力に勝てる者などおりません。いや、魔王である貴女なら私と互角かもしれませんね。でもミリアを私の手で一生守ってあげる事は出来ますよ」


 顔を近付けながらそう言ってくるランスロットに、ミリアはいよいよ恐怖で体が震えだしたのだ。


「じ、自分の身は自分で守れるから守ってくれなくとも良い!!むしろそなたが我にとって脅威だわ!!」

「ああ、その青ざめながらも怒っている表情・・・最高です」

「っ!こ、この変態勇者!!」

「ふふふ、さあ二人でこの世界を手に入れにいきましょうか」

「だーーー!!!そんなの結構だ!!頼むからもう帰ってくれ!!!」

「いいえ、ミリアに私の事を好きになってもらわないといけないので帰りません」


 ランスロットはミリアを見つめつつにっこりと微笑んで言ってきたので、思わずミリアは体の中から魔力を放出しランスロットを吹き飛ばしたのである。

 そしてミリアは憤慨した顔で瓦礫となった玉座の上に立ち、床の上でゆっくりと立ち上がっているランスロットを指差し叫んだ。


「絶対好きになどならぬ!!!」


 しかしランスロットは口の端から流れ出ていた血を手の甲で拭い、とても楽しそうな笑顔で言い返したのである。


「貴女は必ず私を好きになる」


 そう自信満々な顔で言いきったランスロットを見て、ミリアは小さな悲鳴をあげたのだった。

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魔王様が勇者に告られて困ってます。 蒼月 @Fiara

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