勘違いしまくってる関係性のラブコメを見せつけられる傍観者

大艦巨砲主義!

第1話

 僕の名前は西尾にしお

 都内の公立高校に通う、剣道バカ呼ばわりされることと成績があまりよろしくないこと以外は特に特徴のない高校生だ。

 そんな僕の席の周りには、何の因果か僕を含めて東西南北が苗字に入る人たちが集まっていた。


 隣にいる女子生徒は南條なんじょうさんという。実直で誠実で真面目なクラス委員長であり、清楚で可憐で大和撫子を体現したような綺麗な人だ。なお、正義感の強い熱血なところがある。


 前にいる男子生徒はあずまくんという。生徒会長を務めている理知的な雰囲気のあるインテリで、成績優秀、品行方正、校則遵守の超がつく真面目な人物だ。そして南條さんのことが好きである。


 東くんの隣にいる女子生徒は北乃きたのさんという。東くんの幼馴染であり、南條さんとも親友同士。陸上部で活躍する我が校の代表選手であり、日焼けした小麦色の肌が眩しく映る快活なスポーツ女子である。


 この3人だけど、僕を含めても含めなくてもとっても深くて面倒臭い関係にある。

 以下に関係性を示す。


①東くんは南條さんが好き。

②北乃さんと東くんは幼馴染。

③南條さんは東くんは北乃さんが好きだと思い込んでいる。

④北乃さんは南條さんの親友。

⑤北乃さんは南條さんは東くんを好きだと思い込んでいる。

⑥東くんは北乃さんと仲が良い(幼馴染として)。

⑦東くんは南條さんは北乃さんが好きな百合女子だと思い込んでいる。

⑧西尾は所詮語り部なので蚊帳の外にいる。


 面倒くさい!

 何なんだよ、この勘違いと思い込みを重ねた関係性は!?


 まず、⑥。東くんと北乃さんは幼馴染である。北乃さんと東くんは幼い頃からの親友であり、家族同然で育ったため気兼ねや遠慮がほとんどない。


北乃「かっちょん(東くんのあだ名らしい)、唐揚げちょーだい!」


東「はあ? いや、別に良いけどさ。ほら」


“東くんは、唐揚げを箸でつまんで北乃さんの口に運んだ”。


北乃「〜♪ やっぱ、かっちゃんの唐揚げは最高!」


東「男に飯の味で負けるのは女子としてダメだろ。ったく」


 そのため、昼休憩でみんな弁当を広げている現在も、僕と南條さんの目の前でバカップルがやりそうないちゃつきをしている。

 2人は幼馴染であって、それ以上の関係はないと言い張るが、こういうやりとりを何度も見ている南條さんは2人が好き好き同士と思い込んだらしい。

 ③の完成だ。


 そして東くんは南條さんのことが好きである。

 ラブレターを渡すなどして東くんは南條さんに告白したりもしたけど、南條さんは東くんが北乃さんのことが好きだと思い込んでいるため、橋渡しと勘違いしたりと全く効果がない。

 ①の東くんの片思いはこうしてつながっている。


 そして南條さんは北乃さんに東くんのラブレターを手渡した。

 その瞬間を見ていた東くんは、自分の書いたラブレターとは気づかなかったけどラブレターであることは気づいたらしく、北乃さんと南條さんは中学からの親友同士であった関係④もあり、またもや勘違いをして南條さんを北乃さんのことが好きな百合キャラと思ってしまった。これが⑦。


 北乃さんはこのとき受け取ったラブレターに関して、東くんの名前があったことから何をトチ狂ったのか(2人の間にあった会話は僕にはわからない)、南條さんは東くんのことが好きなんだと思い込んだらしい。これが⑤の関係。ただし、南條さんは東くんを恋愛対象とは見ていない。あくまで東くんの片想い。


 そしておまけで⑧、僕は所詮語り部、と。

 このように、この4人の関係はとても面倒くさいのだ。全てを把握しているのは僕だけだろう。


 この日も勘違いは加速する。


 二人のイチャイチャを見ていた南條さんが、慈愛に満ち溢れた笑顔を見せた。


南條「ふふふ…とっても仲良しなんですね」


東「う、うん…」


“東くんは赤くなった”。

“南條さんのセリフに、北乃さんが反応した”。


北乃「お? 妬いちゃったかな?」


 北乃さんは南條さんが東くんと仲良くする自分に嫉妬したと思ったのだろう。

 すると東くんが北乃さんを空いていると勘違いしている南條さんはさらに斜め上の誤解をした。


南條「ふふふ、外野が入れる余地などありませんわ」


東「え…」


“南條さんはさらに微笑んだ”。

“東くんは、テンションが下がった”。


 南條さんのセリフの外野、南條さんは自分のことを指していますが、百合女子と思い込んでいる東くんから見るとその外野は東くんのことを指していると聞こえたようだ。好きな相手に外野扱いされては落ち込むよな。ただの誤解だけど。

 そして南條さんは東くんを好きだと思い込んでいる北乃さんは、余計な燃料を投下してくれます。


北乃「そっかー。ま、それもそうか」


“北乃さんは、席を立った”。


 …お邪魔虫のつもりかよ。あんたも大概勘違いだから。


東「どこ行くんだよ?」


北乃「乙女の秘密♡」


南條「あらあら、お可愛い」


 三者三様で自分をお邪魔虫と思った様子。

 北乃さんが立つ理由に心当たりのない東くんは困惑し、南條さんは北乃さんが照れて席を外したのだと勘違いをした。


 …この3人をよく観察している僕はすぐに3人の考えがわかるけど、よくこんなおかしな勘違いの上に成り立つ関係続くよな、と思う。


東「北乃、お前…良いやつだな」


“東くんは北乃さんが自分が南條さんに好意を抱いていることを察して、二人きりの機会をくれたと思い込んだ”。


 ポジティブだな、おい! 北乃さんはどちらかというと南條さんのために席を立ったんだぞ! 勘違いだけど。


南條「ふふふ…可愛いですね♪」


“南條さんは、北乃さんの背中を見て微笑んだ。”


 南條さんの考えは北乃さんの照れ隠しだけど、そのセリフのチョイスが東くんの誤解を生んでいるのだよ。


東「南條さん!」


南條「はい。何でしょうか?」


東「こ、今度、二人でデートに行きたい!」


南條「まあ! それは楽しそうですわね」


 絶対噛み合ってないよな、この会話!

 哀れ東くん。百合に勝ったなどと勘違いして嬉しがっているところ悪いと思うけど、多分君の思いは南條さんに伝わっていない。南條さん、絶対北乃さんを呼びつけるぞ、そのデートに。


 …いや、本当に疑問なんだけど。何なのさ、この人たちの関係。


 今日も語り部は3人の気持ちを翻訳したくもないのについつい語ってしまう。

 3人の会話はそれぞれの勘違いを考えて解釈してみるとツッコミどころ満載なので、ツッコまずにはいられない気質の僕には聞き役に徹しても疲れ果てる会話である。


 いつまで続くんだよこの関係…


 ため息まじりに、今日も語り部はひたすら心の中でツッコミを続けていた。

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