【KAC3】セックスしないと出られない部屋INサイボーグ二人

綿貫むじな

密室に放り込まれた二人

『ようこそいらっしゃいませ。ここはセックスしないと出られない部屋です。セックスしたら出られますのでどうぞごゆるりとご堪能くださいませ』

「なんだぁ? 一体どういう事だ……?」


 相方のヨナが唯一の出入り口である扉を拳で殴りつける。

 鈍い金属音が部屋に響き渡った。ヨナのパワーは相当なものだが、それでも扉はへこんだ様子すら見られない。扉の分厚さも相当なものに違いなかった。

 

「セックスしないと出られない部屋、ね。ネットやら創作物でやらでは見た事があったがまさか現実にこんな酔狂なものを作る奴が居たとはな」

「おい冗談じゃねえぞ! ずっとこの中から出られねえって事かよ!」

「まあ少しは冷静になれよヨナ。まだ出られないって決まったわけじゃないだろう?」

「そうだがよ、この部屋の様子見て冷静になれるかよアビー?」


 私たちはとある捜査の為に郊外にある建物へと足を踏み入れていた。

 今は使われていないようだが、電気自体は通電していて建物の中を調べるのは楽だった。街に蔓延るドラッグの一部がここに隠されている、という噂だったがどうやらハズレだったらしい。どの部屋を調べても出てくるのはホコリとガラクタばかりだった。

 で、最後に調べた部屋で床が朽ちていたせいで下に落ちたらこのざまだ。


 この部屋の中にはダブルベッドとセックスの時に使うような玩具や、全てガラスで透過されているトイレやら風呂やら、あとテレビが設置されている。勿論テレビで見れるものは全てエロい奴ばかりだ。

 早い話、この建物はラブホテルだった。そりゃ郊外にあって車での交通の便が良い山の中にあるんだからそういう風に疑ってもよかったんだが。

 で、この部屋は多分奥手な奴らが無理やりにでもヤれるように設定されたシチュエーションの部屋で、セックスしたと判定されたら開くんだろうが、扉はガッチリと施錠されたままだ。そもそも無人の建物で誰が判定するんだって話でもあるが。

 その上この部屋の壁は無意味に硬い素材で出来ており、扉に至っては鋼鉄製だ。

 どうあがいても出られそうにない。

 

「ったく、電波もつながりゃしねえ。連絡も取れない」


 ヨナは殴りつかれたのかダブルベッドに横たわる。

 金髪幼女の格好をしているが、これでも中身は成人男性だ。過去に事故で肉体を損傷して義体を選ぶとなったときにこれを選んだので、相当な変態であることは間違いない。

 

「……なあ、やってみるか? セックスって奴を」

「は? お前マジで言ってるの?」

「だって出られないんだろ? ならやってみるしかないだろうが」


 前々からヨナの見た目は私の好みに合致していた。

 何時手を出そうかと思っていたが、中身が男だと言う自認があるからこういう事でもない限りは手を出せそうもなかったし。  


「お前、目がマジになってるぞ。俺は男だ! そしてお前も男だろうが!」

「失礼な。私は今の体は黒髪ロングの眼鏡が似合うお姉さんだ。つまり見た目としてはこの状況は百合になる。何の問題もない」

「そうじゃなくてぇ! ああクソこのド変態が!」

「そもそもヨナだって中身は男だと言う割にはなんでその体を選んだんだ?」

「俺の時は義体がこれしかなかったんだよ! すぐに移植しなきゃ死ぬって言われたからそうするしかなかったんだ! アビーみたいな変態と一緒にするな!」

「変態とは心外な。元々私はお姉さんになりたかったんだ。今の技術はそれを叶えてくれるというのなら、お姉さんになるしかあるまい? さあ一緒にめくるめく快感の世界へ旅立とうじゃないか」

「だから待てと言ってるだろうが!」


 ヨナの思い切りのいいパンチで私は部屋の壁まで吹っ飛んだ。むう、中々良いジェネレーターを積んでいるなその体。

 

「こんなド変態だとわかっているなら、コンビを組まなかったのに」


 泣き顔になっているヨナも可愛い。


「その体が応急処置的なものだと言うのなら、金を貯めて違う体に乗り換えれば良かろうに」

「お前、その為の金がどれだけ必要なのかわかって言ってるんだよな」


 ヨナがしかめ面で私を睨みつけてくる。その顔も可愛い。

 まあそれはさておき、義体と言うのは人々の夢をかなえる代物であるのは間違いないが、まだ高い事には変わりない。ヨナも年齢的には20代中盤とは聞いているので、違う体に乗り換えるにはウチの給料だとあと10年は掛かるだろう。

 

「さて、セックスするか」

「お前まだ言うか。だが残念だったな」


 ヨナは着ているスーツを脱ぎ、体を露わにする。

 その体は人形のようなものだった。人を精巧に模したものではない。関節も球体関節で、私の義体と比較しても作り物であると示すのが明確である。

 

「なんと……?」

「この体には生殖機能はない。だからセックスしようとしても無意味だ」


 腰に手を当てて勝ち誇ったドヤ顔をする。

 流石にこれには私も少し困った。


「かと思ったかい?」


 油断したヨナを後目に、そのままベッドまで駆け寄りヨナを押し倒す。


「ふふふ、キスやペッティングくらいはできるという事だ」

「お前、そこまでして俺を襲いたいのか!」

「今のチャンスを逃したら次はないだろうからね」

「変態変態、ド変態!」


 ふふふ、どんなに罵られようと年端の行かない少女の可愛い声なら耳に聞こえもいいというものだ。

 腕を絡め、足を抑えつけて上に馬乗りになり、私はヨナの顔に徐々に自分の顔を近づけていく。自然と息も荒くなっていく。

 

「ああああもう、死ねえええええええええええええええ!」


 ヨナが叫んだその時、彼の右腕がカチャカチャカチャと変形するのを見た。

 え、というかナニコレ。

 あっという間に変形が終わったかと思うと、それは銃の形をしていた。

 私は軍事方面には詳しくないのでわからないが、多分これは最新式の量子なんたら射出装置って奴じゃないのか!?

 キュイイイン、という音がして銃口が何らかのエネルギーで光り輝いている。

 直感で不味いと私の脊髄が判断し、咄嗟にベッドから離れた。

 

 瞬間。


 巨大な閃光が腕から射出され、この部屋の上階より全てが吹っ飛んで消えてしまっていた。というか建物自体が衝撃で崩れ去りそうになり、今にも危うい状態になっている。


「お、お、お? なんだこれ?」

「ヤバい! 早く脱出するんだ!」

「何か知らんがラッキー!」


 私とヨナは今にも崩れそうな建物から命からがら脱出し、ひとまず胸をなでおろした。

 帰り際のドライブ。車は建物から比較的離れた場所に置いておいたので無事だった。

 ヨナは私の事を見ようともしない。まああんな事したんだししょうがないが。


「ヨナ。いい加減機嫌直して」

「うるせえこのクソ変態野郎。署に戻ったらお前とはコンビ解消してくれって上司に頼むからな」

「困ったなあ……。にしても、君があんな銃を隠し持っていたなんて知らなかったぞ」

「俺も知らなかったよ。義体を用意した奴、一体何でこんな機能を付けたんだか」


 ヨナは右腕を銃に変形させたり戻したりを繰り返して面白がっている。


「まさか、君に何らかの危険が及ぶと思ってそれを付けたんじゃ?」

「ありえねえって。俺の過去の事故は偶然――」


 その時、車の目前に何かが迫る。

 私はハンドルを咄嗟に切って避けたが、それは車のスピードに負けずに追いすがってくる。


「一体何だ!?」

「見た目は人間だが、あれだけのスピードで走れるって事は間違いなく俺達と同じ類だろうな」

「あの建物を調べた事で、何らかの危惧を抱いた奴が居るという事か……」

「へっ、いよいよきな臭くなってきたじゃねえか」

「とりあえず、飛ばすからしっかり体を固定して掴まってろよ!」

「言われなくても!」


 後に私とヨナだけが生き延びる事となった、とある組織との戦いの火蓋が今幕を切る。

 

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