いいから黙ってノロケさせろ!

呑竜

第1話

おーおーおー、瑞穂じゃねえか! 

ちょっとそこに座れ!

はあ!? 部活!? 知ったことか! 

とにかく俺に喋らせろ! ノロケさせろ!


は!? 意味がわかんねえだと!?

そんなのは知ったことか!

とにかくおまえは俺の言うことを聞けばいいんだ! 俺のノロケ話を聞けばいいんだ!


ノロケるもなにも、あんたには相手がいないだろうって……?


はっはっは。

ばっかだなー瑞穂くん。

男子三日会わざれば刮目して見よ、だぜ? 今日の俺は一味違うのだよ。

聞いて驚け、俺にはなぁんと、彼女が出来たんだよ!


はっはっは、おいおいおーい。

なに震えてんだよ。

肩まで震わせて驚いてんじゃねえよ、まったくもう。


いやわかるぜ?

いつもゲームしてばっかり。

運動もダメ、勉強もダメ。

そんな俺に彼女なんかできるわけねえって思ってんだろ?

ただの強がりだって、フカシてんだって。


そうだよなー。

俺もそう思う。

正直今でも信じらんねえ。

だけどさあ、聞いてくれよ。

天使は舞い降りたんだよ。

奇跡はそこにあったんだよ。


……ちぇ、笑ってやんの。

まあそんでも、他のやつらよりゃマシだけどな。

他のやつは相手にすらしてくんなかった。

俺の話を聞いてすらくれなかった。

瑞穂はやっぱいいやつだよな。

あれか? 兄弟姉妹いっぱいだから人間出来てんのか?


なんだなんだ、どうしたー?

そんな赤い顔してー。

あれか、滅多に褒めない俺が褒めてるから照れてんのか。

だよなー、俺も正直、そう思う。

あの人に会うまでは、俺はこんなに他人のこと考えてやれるやつじゃなかった。

いつだって自分が優先、自分さえよければそれでいいって思ってた。

……だけどさ、あの人に会ってから変わったんだ。


……あ? なにそわそわしてんだよ。落ち着けよ。こっからが本番なんだから、急くなって。

まずはあの人との出会いからだな。

それはさー、あるネトゲから始まったんだ。

あの人は、ソロで狩りしてた俺にいきなり話かけてきたんだ。

ちょっといいですか? あなた、あの時わたしを助けてくれた騎士様ですよねって。


ああ、説明不足だったな。

俺がやってるのはいわゆる剣と魔法のRPGってやつでさ。

……ああ? 知ってる?

まあ有名なゲームだからな。瑞穂が知っててもおかしくねえか……。


なに? とっとと先へ進めろって?

なんだよ、ずいぶん急くな……。

まあいっか。それこそ俺の望みどおりだ。

オッケー、もっともっとノロケてやっかんな。? 覚悟しろよ?


とにかくその人と出会ったのはナンパっちゅうか……向うから話しかけてくれたのが最初だったんだ。

なんでも一度だけ助けてやったことのある俺のことが忘れられず、ずっと探してたんだって。

これから一緒に遊んでくれませんかって。

泣っけるよなー。

瑞穂も、そんくらいのいじましさをもたんといかんぜ。

女の子なんだからさ。

素材自体はいいんだからよ。

ただ口が悪いだけで……ああ? なんで赤くなってんだよ。

やめろよ叩くなよ、痛いって。痛いってば。


……ったく、まあいいさ、とにかくそんなんで、その人と俺はパーティを組むことになったんだ。

毎日毎夜冒険してた。

ちなみにパーティってのは……あ? 知ってる?

なんだよ、今日のおまえはやけに察しがいいなあ……。

まあいいけどよ、やりやすくて。


とにかくさ、その人はめちゃめちゃいい人なんだ。

事あるごとに俺を優先してくれて。

リアルを無視してまで俺のレベル上げやらアイテム取りを手伝ってくれてさ。

だから俺はある時言ったんだ。

いつももらってばかりで悪いから、俺からもなにかしてやれることはねえかってさ。

そしたらその人はさ、なんて言ったと思う?

ぴ・ぴ・ぴ・ぶー。

なぁんとその人はさ、俺とつき合いたいって言ったんだ。

いつも俺を見てましたって。

俺のことが大好きだったって。


……なんだよ、驚かねえと張り合いねえなあ。

びっくりしろよ、たまげろよ。

ネット上とはいえ、この俺が告られたんだぜ? 一大事だろうが。


その人は信じられる人なのかって?

だから言ってんだろうが。

いい人だって。

もしその人が悪人だったら、俺は今後一切の人づき合いを断つレベルだって。


……あ?

えっと……もう半年になるかな?


……は?

いつまでネット上のつき合いで済ますつもりなのかって?

そらあおめえ……もうじきだよ。

もうじき終わらせるつもりだよ。

なんちゅうかさ……来週の日曜、その人と初めて会うんだ。

ネットの中じゃなくて……リアルでさ。


笑うなよ? いいか、笑うなよ?


……あれ、笑わねえのかよ。なんだよ、リアルで会ったことないのバカにされんのかって思ってた。


……マジでさ、自分でもどうかしてると思ってんだ。

一度も会ったことのない人に、どうしようもなく惚れてる。

今度会ったら、リアルでもつき合ってくれってお願いしようと思ってる。

わかってるよ……本気でどうかしてるってのはさ……。


……おい、瑞穂。

瑞穂? どした? なんで真っ赤になって固まってんだ?


……本気かって? ああ、そりゃあ本気だよ。

本気で俺は……ああ? どんな相手でもいいのかって?

年齢もわからない。性別もわからない。まともな人間かどうかすらわからない、それでもあんたはいいのかって?


うんまあ……いいよ。

ただその……な。

性別以外はな。

あと年齢も、犯罪を犯さない程度でな。

一応最低限のラインってのはあるだろうが。


……あ?

いい人って以外にその人の長所はないのかって?

あるよ。いっぱいあるよ。むしろ長所しかねえよ。

……でもま。あえてあげるとするなら、その人があまりにも俺のことを優先しすぎるってことかな。


だってさ、やっぱさ……好きな人のためになにかしてやりたいって思うじゃん?

思うものじゃん?

男ならさ。

女でもそうなのかもしんねえけどさ。

俺は……その人の笑顔が見たい。

リアルで会って、喜ばしてやりてえ。

俺とつき合って幸せだって言わせてやりてえ。

ほんと、それだけなんだ……。


お、おう、わかってくれたか。

いやほんと、長い間話につき合わせて悪かったな。


あ? こっちこそ悪かった? なんでおまえが謝んだよ。謝るのは俺のほうだよ。

まあーとにかくさ、そんなわけで来週の日曜は、俺にとって勝負の日なんだ。

こっちこそ、あの人に嫌われねえようにしねえとな。

なあ瑞穂。

今週の日曜さ、俺につき合ってくれよ。


……あ? なんで慌ててんだよ。

おまえと俺がどうとかじゃねえよ。

俺が来週どんな服を着ていけばいいかとかさ、色々指南してくれよ。

だっておまえ、一応女の子じゃん。

普段色々言ってるけどさ……おまえってけっこうまあその……あれじゃん?


なんだよ、変に反応すんなよ。

俺が言いたいのはさ、まあおまえも一応乙女の端くれではあるわけで。

いろいろアドヴァイスを聞く対象にはなるわけで。

だからさ……色々教えてくんねえかってことなんだよ。

……なあ……ダメか?


……なんだよ。

なんで肩震わして顔真っ赤にしてんだよ。

そんなに俺を笑いものにしてえのかよ。


うっせーよ。

肩ぽんぽんすんなよ。


……っだよ。

俺はけっこうマジだってのにさ……。




……あ? もう一回聞きたい?

覚悟? 俺の?

ああもう、めんどくせえやつだな。


わかったよ、何度でも聞かせてやるよ。

俺はその人が好きだ。

その人のためならなんでも出来る。

好きになったのは外見じゃなくて内面で、だからその人がたとえどんな人だって好きになれる自信がある。


……ちぇ、わかったかよ。

オッケーか? もういいか?

おい、呼吸大丈夫か?

人工呼吸でもしてやっか?


冗談、浮気になっちまう。

言っとくが、俺はそんなちゃらい男じゃねえかんな。


じゃ、日曜よろしくな。

……あ? 来週じゃねえよ。今週だよ。

ったく、耳まで赤くして、おまえは何聞いてんだよ。

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