第12話 最終話

 二週間ほどが経過した放課後。

 あたしは、図書室に用事があったので、ヒロとは別々に帰ることにした。

「やばっ!? 結構時間かかっちゃったなぁ。買い物して帰らないと……今日は何にしよっかな♪」ということを呑気に考えながら夕暮れ時の帰り道を無理のないペースで歩いていた。


『……あれ?』

 数本道を曲がったところ、ヒロの背中が……

『?』

 誰かと話してるみたい。

「!?」

 近寄ろうとしたその時、ヒロの背中の向こう側に、ほんの一瞬だけ美咲ちゃんの姿が見に映った!

 

 ――そして、「桜井くんは、千尋ちゃんのことを女の子としてどう思いますか?」


『!?』


 そんな会話が始まる……。

 ヒロの背中が、美咲ちゃんの想いの大切さを物語り、真剣に受け留めているのが伝わってきた――

『隠れなきゃ!?』

 そう思うのに、体が動いてくれない!

 ――すると、ヒロがゆっくりと確かめるように、言葉を紡ぎ始めた。

 気付けばあたしの心と体は、前のふたりの会話に完全に釘付けとなってしまっていた――。


「オレにはまだ、女の子として千尋の事をどう思うかってわからない。いや、わかってるのかもしれないけど、小島に言葉にしてうまく説明することができない。だけど、千尋のことは、好きだ。ずっと一緒に育って来た……。あいつは、オレのことずっと守ってくれてる。そんなあいつをオレも守れるようになりたい! ずっと一緒にいたい……。こんなこと言ったら、千尋の……チーの迷惑になるだろうけど、チーとずっと一緒にいられる方法が幼馴染っていうんじゃ駄目で、付き合うっていうことなら付き合いたい! それが結婚なら結婚したい! 他の誰よりも、ずっとチーのそばにいたいんだ……。かけがえのない人なんだ……それは、はっきり言える」


『!?』


 あたしがヒロを守ってる!?

 信じられなかった――――。

 あたしはずっと、ただ、ヒロに守られてばかりだと思ってたから……、

 ヒロにとって、少しでも守れる存在になりたい、そう思っていただけだから……。

 

『――もしかして、ヒロにとってもそういうことなのかな?』


 そんなふうに思った。

 

 あたしのことを思って、何かを伝えよう、してあげようっていう気持ち。

 あたしにとって、大切な事ってなんだろうって、いつも考えてくれている気持ち。

 あたしに何かあれば、自分のことなんか放っておいて、直ぐに駆け付けようっていう気持ち。 

 

 そういう気持ちは、ちっちゃい頃から、いっつもヒロから伝わってきていた。

 そしてあたしも、そうしたい、そうしてあげたいとずっと想ってる。


『もし……もしヒロが、こんなあたしの想いでもいいんなら――』


 そんなことをあたしが考えていると、美咲ちゃんは凛として、こう、ヒロに話し始めた――


「不器用だけど、すごく心に響く言葉だね。そんなこと聞いた後だけど、私も後悔したくないから言わせてください。私は、桜井君……桜井紘弥君のことが好きです。ずっと、ずっと、中学の頃から大好きでした。私とお付き合いしてください」


 ヒロが、美咲ちゃんの想いをしっかりと受け留めている。

 美咲ちゃんの言葉は、あたしにも透き通るように響いてくる――。


「小島……小島美咲さん、ごめんなさい!」

 ヒロはそう言って頭を下げた……すると、「桜井君、ダメだよ。人とお話をする時は、相手の目を見て話さなくちゃ(笑)」

「……そうだな(笑)」

『本当に、美咲ちゃんは強い……』

 尊敬の気持ちと同時に、あたしの方が目に涙を浮かべていた。

「私、桜井君のお蔭で、変われた気がするんだ。緊張して、全然ちゃんとお話しできなくて、顔も上げれなかったけど、この数ヶ月、桜井君と時間を過ごせたことで、私、成長したって……」

「ああ。小島は、すげーよ」


 あたしが絶対に立ち入ったらいけない大切な会話……

 

 なのに――


「さっきの言葉は、千尋ちゃんを【目の前】にして、思いっっっきり! 届けてあげてくださいね!!(♪)」


『!?』


 美咲ちゃんは、ニコッ♪と、微笑んだ。

 ヒロと……そして、【あたしに】――。

 美咲ちゃんは、あたしがここにいたことに気付いていた……。

 そして――、

「桜井君、ほんとにありがとう…………さようなら(笑)」

 美咲ちゃんは、その言葉を残して、振り返ることもなく立ち去る……。

 美咲ちゃんの後ろ姿は、次第に肩を震わせ始めていた……。


『美咲ちゃん……』


 あたしにはまるでない強さを持った美咲ちゃん。

 あたしじゃ絶対に勝てない美咲ちゃん。

 何でも一生懸命な美咲ちゃん。


 それなのに――


 辛い気持ちを希望に変えるような、そんな可憐な後姿で去って行く美咲ちゃんを、ヒロはやるせない気持ちを抱えながら暫く見送ったあと、溜息を付きながら背中を丸めて、あたしの方へ向きを変えて歩き出そうとした――


「!?」


 あたしは、自分がそこにいることを思い出して、身動き出来ないままヒロとを合わせた……。

 

「チー……」


 ヒロは姿勢を正して、あたしを見つめる。


「…………」


 あたしは零れかけた涙を拭ったあと、いつか胸を張って美咲ちゃんに会えるように、自分自身で溜め込んでしまった心の煤を力強く払い除け、そして、想いを込めてヒロに綴ることにした……


『この人の隣にいよう……ううん、この人の隣に、あたしはずっといたい。こんなあたしでも、あたしが想っているように想ってくれるなら、あたしはヒロを守れる!』

 

 そう心にしたためて、あたし達の時計の針を合わせ直すように、贈ることにした――


 それは、


 幼馴染としての想い……、

 

  幼馴染を含めての想い……、

 

   幼馴染を超えた二人の想い――。


『簡単な言葉だけど、ヒロなら――』


 そして――、


「よー、あたしの小説家さん♪」


 ヒロはドキリとした表情を作ったあと、満足そうな微笑みを溢して、あたしに贈り返してくれる。


「よー、オレの読者さん♪」


 そしてあたし達は、その距離がもどかしく、それぞれの熱い想いがひとつになることを確信しながら、お互いの方へと、静かに歩み寄り始めた――――。



                                      

〈 小説家になろう!~千尋サイド~ 了 〉



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小説家になろう!~千尋サイド~ ひとひら @hitohila

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