第3話 「打ち上げ?」

「打ち上げ?」


「ああ。おまえも来いよ。」


 ドラマの撮影が終わって、帰り支度をしている所に…希世きよちゃんがやって来て。

 突然、DEEBEEの打ち上げに誘われてしまった。


「…でも、あたしなんて部外者だし。」


「なぁに言ってんだよ。しょうの許嫁で俺のイトコなんてったら、見事に身内だ。」


 希世きよちゃんの、何だかこじ付けにも聞こえる言葉。


 …そりゃあ、行ってみたい。

 打ち上げ。

 しょうちゃんがお酒を飲むとことか…見てみたいし。


「まこさんには俺が言うから、な?行こうぜ?」


 まこさんとは、うちの父さん。

 メディアに出ないSHE'S-HE'Sっていうバンドで、キーボードを弾いてる。



「う…ん。」


「ちゃーんとしょうの隣の席、用意するから。」


 そう囁かれて、あたしは真っ赤になってしまう。


「あはは、おまえって正直。」


 希世きよちゃんは笑いながら。


「じゃ、六時にダリアなー。」


 そう言って、廊下を歩いて行った。



 …明日は学校も仕事もお休みだし…

 いいよね?

 自分で自分に問いかけて。


「…うん。」


 小さく答える。

 これが見返りだ、ってことにしちゃえばいい。

 そう決めてからのあたしの足取りは、随分軽くなってしまったのよ…。


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 彰ちゃんがお酒飲む所を見てみたい?


(๏д๏)ギャー‼︎

 未成年ですー‼︎

 前出の詩生と華月ちゃんも‼︎

 まだ色んな事が緩い時代に書いたので、そのまま載せます。


 スルーして下さい…( ´Д` )



 * * *



「……」


 つい、口を開けて見入ってしまった。


 帰り間際にスタッフさんに呼び出されて、一時間遅れてやってきたダリア。


「おい、佳苗かなえ。ここ、ここ。」


 希世きよちゃんが、しょうちゃんの隣を空けてくれた。

 そのしょうちゃんはというと…


「あははははは!」


 破顔で、大笑いしてる。


「…どうしたの?」


 呆然としながら希世きよちゃんに問いかけると。


「飲むと、いつもこうなんだぜ?」


 って…


「…知らなかった…」


「親父さんと同じなんだ。話をしたけりゃ飲ませろってくらいだから。」


「……」


 しょうちゃんは何がそんなに楽しいのか、何を見ても笑ってる。

 あたしが隣に座った事にも気付かない。



佳苗かなえ、ウーロンでいいか?」


 えいちゃんが、メニューを渡しながら言ってくれた。


「うん。」


「あとは?」


「あー…でも、今結構お腹いっぱいだしなあ…」


「…あれ?」


「え?」


 ふいに、しょうちゃんの顔が…あたしに向いた。


「…佳苗かなえじゃん。」


「……」


 は…

 初めて!

 初めて名前を呼んでもらった!


 あたしが感激してると。


「ちょっと聞いてみるんだけどな。」


「は…はい。」


 しょうちゃん、お箸をあたしに向けながら。


片桐かたぎり拓人たくととできてるって噂は、どうなんだ?」


「……え?」


 普段のしょうちゃんからは、考えられない言葉が飛び出した。


「あのポスターだって、何だ?いやらしい仕事だな。断わっちまえよ。」


「……」


 あたしは、黙ってしょうちゃんを見る。


「やきもち妬いてんだよ。いっちょまえに。」


 えいちゃんが、ビールを飲みながら言った。

 …やきもち?


「そうじゃない。俺は心配して言ってやってんだ。」


 しょうちゃんが、えいちゃんに喰ってかかる。


佳苗かなえは高校生だぞ?なのに、抱き合ってるポスターなんて。」


「うわ~…しょう、めんどくせぇ男だな。佳苗のあれは仕事だぜ?」


「何言ってんだ。仕事でもいい事と悪い事がある………。」


 突然、しょうちゃんが黙ってあたしに振り返った。


「な…何?」


「まさかとは思うけど、キスシーンなんてないだろうな。」


 あたしは、しょうちゃんのセリフを頭の中で繰り返す。


 キスシーン…


「ない…と思う…けど…」


 今もらってる台本には…なかったよね…

 うん…。


「ないと思う、じゃだめだ。ちゃんと確認しろ。あったら、辞めちまえ。」


「ほら、やきもちだよな。」


 えいちゃんが、希世きよちゃんたちに同意を求める。



 何だか…

 何だか、とても嬉しいことばかりよ?

 いいの?こんなことがあっても。

 あたし、一生分の運を使ってしまってるんじゃないかしら。

 こんなにしょうちゃんと話すのって、初めてよ。


 それに、ちゃんと知っててくれたんだ…ドラマのこと。

 嬉しいな。



「ほら、佳苗かなえ。ウーロン。」


「あ、ありがと…」


 えいちゃんが運んでくれたウーロン茶を飲みながら。

 あたしは、最高の幸せをかみしめてしまった…。



 * * *



「じゃあ、そろそろ次に移るぞー。」


 あたしが2杯目のウーロンを飲んでると、スタッフの人がそう言って。


しょうは、だいたいいつも一次会で終わっちまうんだ。俺ら、まだ次行くから、おまえ悪いけど連れて帰ってくれよ。」


 えいちゃんが、そう言って…タクシーを呼んだ。


「つっ連れて帰るって…そんな、いつもは?」


「いつも誰かが犠牲になってんだよ。今日は、おまえがいるから任せようってことになったんだ。」


「ま…任せるって…だって、しょうちゃん全然普通みたいじゃない。」


 笑ってるけど、顔も赤くないし…素面同然。


「ダメダメ。あいつ、ちゃんと帰るなんて言って、タクシーでとんでもないとこまで行ったことがあんだぜ?」


「…とんでもないとこ?」


「思い切り隣県の奥地まで。」


「……」


「タクシーの運転手に頼んでもムリなんだ。勝手にあれこれ理由つけて違うとこへ走らせちまうから。」


 しょうちゃんて…


 まるで、別人になっちゃうわけね?


「だから、誰かが一緒に乗ってあいつが家に入るのを見届けないとダメなんだよ。」


「家に入るのを見届けるの?」


「ああ。ついでなら、寝るのを見届けてもらった方が安心なんだけど。」


「ねっねっねっ寝るのを?」


「そういうこと。あ、じゃ、俺行くから。じゃあな。」


「じゃあなって…希世きよちゃん。」


 ……



佳苗かなえー、おまえ帰るんじゃないのかー?」


 しょうちゃんが、やってきたタクシーの前で叫んだ。


「う…うん…」


 驚きというか…発見というか…

 でもやっぱり驚き。

 知られざるしょうちゃんの実態を、どう受け止めよう…。



「早く来いよ。」


 しょうちゃんにせかされて、あたしはタクシーに向かう。


 どうしよう。


「どちらまで?」


 タクシーに乗り込むと、運転手さんが優しく聞いてくれた。


「あ、小森公園まで。」


 あたしが答えると。


「何、おまえ、俺んち来んの?」


 しょうちゃんが、嬉しそうな声でそう言った。


「…だって、しょうちゃん酔ってると大変なんでしょう?」


「誰が、んなこと言ったんだよ。」


「みんな。」


「そんなこたないって。今からどこか行かないか?」


「だめ。」


佳苗かなえ~。」


「…だめ。」


 つい、嬉しくて…うんって言ってしまいそうになった。

 どうしよう。

 このままじゃ、あたし普段のしょうちゃんに会ったら笑ってしまいそう。



「ちぇっ。」


 動き出したタクシーの中。

 ガラスに映ったしょうちゃんの横顔を見ながら。

 あたしは、泣きたくなるほど幸せだった…。



 * * *



「…なんて?」


「だ…だから、寝て?」


 ソファーに座ったしょうちゃんに。

 あたしは、立ったまま、そう言う。


「寝たら、何かいいことでもあんのか?」


 しょうちゃんは、そう言ってソファーに寝転んだ。


「そっそうじゃなくて…ちゃんと、ベッド。」


「ベッド?佳苗…おまえ、なかなかスゴイこと言うな。」


「ちっ違うの!しょうちゃんが寝たのを見届けないと帰られないの!」


「なんで。」


「なんでって…その…頼まれたから。」


「誰に。」


「…みんなに。」


「…んなこと言って…」


「…え?」


 ふいに、足が宙に浮いた。


「しょしょしょ彰ちゃんっ!?」


「いいって。恥ずかしがらなくても。」


「そっ…じゃない~!」


 ベッドに降ろされて、上に…しょうちゃん。


「んなこと言ったって、俺まだ眠くないし。」


「でもでもでも!大丈夫っ!寝られるから!」


「眠くないんだって。」


「しょ~ちゃんっ!」


 あたしがジタバタ暴れてると。


「……」


 ふっ…と、しょうちゃんが重くなった。


「……しょうちゃん?」


「がー……」


「……」


 ね…寝た!

 眠くないって言いながらも…速攻だったな。

 小さく笑いながら、しょうちゃんの重みを堪能する。


 信じられない。

 しょうちゃんが、あたしの上に乗ってるなんて。


 ハッ…

 もしや、女の人に対して…いつも、こんなの?


 ああああ……

 考えると落ち込むけど…

 DEEBEEの面々は、みんなあたしの事…応援してくれてるし…

 打ち上げに女の人なんて、誘わない…よね。


「……」


 柔らかい髪の毛が、頬に当たる。

 そっと背中に手をまわして…

 つい、あたしはそのまま眠ってしまった…。




 * * *



「…ん…」


 まぶしい。

 と思って目を開けると。


「……」


 しょうちゃんが、すごく近い距離で…同時に目を開けた。


「……」


 お互い、瞬きをたくさんして、見つめ合ってしまう。


「…おまえー…」


「あっ…あ、あたし……え!?もう朝!?」


 慌てて起きて、うろたえる。

 どうどう…どうしよう。

 無断外泊…

 しかも、今日は亜希あきたちを迎えに行く日!


 あたしが真っ青になってると。


「…おまえ、もしかして…夕べ、打ち上げに来た?」


 後ろから、しょうちゃんの小さな声。


「…う…うん…」


 あたしが恐る恐る振り返って答えると、しょうちゃんはベッドに座ったまま頭を抱えた。


「…ってことは…酔った俺を…見た?」


「…うん…」


「……」


 しょうちゃんの次の反応が怖くて、あたしは固まったまま。


「…ちゃんと、服着てるよな…」


「なっなっななな何もなかったのよ!?」


 あたしが赤い顔でそう言うと。


「…そりゃ、惜しかったな。」


 しょうちゃんは、少しだけ口元を緩ませて髪の毛をかきあげた。


 …笑ってる?


「頼むから、夕べのことは忘れろ。」


 大あくびをしながら、ベッドから下りて。


「それと、おまえ高校生のクセに来んなよ。打ち上げなんか。」


 キッチンで、水をくむ。

 何だかー…何を言われても、怖くない。

 それって、やっぱり…夕べのしょうちゃんのおかげ?

 以前だったら、こんなこと言われたら気にして気にして泣いたりしたかも。

 それに。

 しょうちゃんが、おしゃべりに思えてきた。



「おまえ、聞いてんのか?」


「…だって、誘われたんだもん。」


 あたしは、反撃に出る。


「誰に。」


「みんな。」


「…来ても、俺を送るようなことはしなくていい。」


「頼まれたんだもん。」


「誰に。」


「みんな。」


「おまえ…」


「だって、しょうちゃん、嬉しそうにうちに来るのか?って言ってくれたのよ?」


 少しだけ動いたしょうちゃんに身構えながらそう答えると。


「っ……」


 しょうちゃんは心なしか赤くなった。ように見えた。



「…どうすんだよ。無断外泊。」


 その言葉に、突然現実に引き戻される。

 カバンに入れっぱなしにしてたポケベルには、恐ろしいほどのメッセージ…


「…どうしよう…」


「電話でも何でもしな。俺は、まだ寝る。」


 しょうちゃんはあくびをしながらベッドに戻ると。


「ま、何もなかったんだから、普通の顔して帰りゃいいよな。」


 って…少しだけニヤニヤしてる。

 …やだな。

 もしかして、サドっ気があったりして…って、あるよね…


「…じゃ、電話借りるね…」


 そっと受話器を持って、うちの電話番号を押す。


「…もしもし?」


 電話の向こう。

 受話器を取ったのは、いさむ


佳苗かなえ!?何してんだよ!みんな心配してんだぜ!?』


「え…父さんは…」


 確か、希世ちゃんが父さんに言ってくれたはずなのに…


『はあ!?親父!?当然顔面蒼白んなってるよ!』


「……」


 そ…それは、もしかして…

 あたしが打ち上げに同行したのを知ってて、帰って来ないって事は…って、色々…ああ…


「ご…めん。今から、帰るから。」


『どこいんだよ』


「え…と、あの…友達…の…」


 少しだけ振り返ると、しょうちゃんはうつぶせになってる。

 おーちゃん、ごめん。

 使わせて。


「あの…おーちゃんちに…」


『嘘つけ!夕べ電話したんだぜ!?』


「…えっ…」


 どうしよう。

 まずい。


『どこにいるんだよっ!』


「そっそれは…」


『早く帰ってこ』


 プツッ。

 ふいに、電話が切れた。

 別にあたし、何もしてないよね。

 慌てて周りを見渡してると。


「おまえの弟、声でけーよ。めんどくせ~な。」


 しょうちゃんが、電話のコードを抜いてる…


「…しょ…」


「別に、どこだっていいだろ、っつって、勢いよく帰れよ。」


 あたしの無断外泊なんて、家族にとっては大事件に違いないのだけど。

 まあ…しょうちゃんには…関係ない物ね。


「…うん…そうする。」


 小さく返事しながら受話器を置くと。


「えっ……?」


 ふいに…


「……」


 これ。

 これって…

 あたし、しょうちゃんとキスしてる!?


 後頭部を抱えられたまま、そして…目も閉じれないまま。

 数回瞬きをして、確認…。


 …顔、すぐそこ。

 唇に…感じた事のない感触…

 そしてそれは…


 やっぱり、キス。


 な…なんで…!?

 どうして!?


 唇が離れて、あたしが途方に暮れてると。


「な?『何もなかった』って、勢いよく帰れよ。」


 しょうちゃんは、何やら楽しそうな笑顔でそう言ったのよ…。

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