いつか出逢ったあなた 21st
ヒカリ
第1話 「チャンスよ、佳苗《かなえ》。」
「チャンスよ、
英語のノートを写させてもらってると、ふいに頭上でそんな声がした。
「え?」
顔をあげると、幼馴染の『おーちゃん』が、あたしを見下ろしてた。
「チャンスって?」
「兄貴の居場所が分かったわ。」
「……」
おーちゃんの言葉に、少しだけ固まる。
「…
「そう。」
「どどどこ?」
「小森公園の近く。なんでも
「小森公園の近く…」
「ま、頑張んなよ。事務所も一緒になったんだしさ、チャンス多いじゃん。」
「チャンスだなんて…そんな…」
「またまた。毎日弁当持ってってんだって?すごいねえ、愛の力は。」
「お…おーちゃん…」
あたし、
そして、この「おーちゃん」こと
さらに、
親同士がきめた許嫁だけど、あたしは昔から
DEEBEEというロックバンドでギターを弾いている。
去年、高等部に入ったら一年間は同じ校舎、なんてはしゃいでたのに。
デビューしてしまったDEEBEEに、
「あ?学校?辞めちまえ。どーせおまえ、勉強なんてしねぇだろ?」
って…
それで、
でも、今年の春に一人暮しを始めるって聞いて、耳を大きくしてたんだけど。
「兄貴って信じらんない。誰にも言わないのよ、居場所。」
あたしから見ると仲のいい兄妹であるおーちゃんにさえ、居場所を言わなかった。
寡黙な人だから、いまいちつかめないんだけど…
それでも、好き。
「あ、そうだ。」
おーちゃんが、ポンと手を叩いて。
「
「う…うん。」
「サイン、もらってきて。」
「えー…」
「お願いよお、ね?」
「んー…」
おーちゃんの頼みだ。
仕方ない。
本当は、そういうの苦手なんだけど…
「わかった。」
「ありがとー、
「いつもノート見せてもらってるし。」
「どんどん見て。」
おーちゃんがノートを広げまくってると。
「ずっるいな。」
あたしとおーちゃんの会話に、突然コノちゃんが入り込んできた。
「何がずるいって?」
おーちゃんがコノちゃんに食ってかかる。
「あたしがちょっとトイレに行ってるすきに、それだもん。
「ちょっと、コノ。あんた、
「あら、イトコだもんね。そんな、貸し借り状態になんなくても。」
「も、いいから。わかった。わかってるから…ちゃんと、二人分もらってくる。」
あたしが二人の間に入ると。
「サンキュー。」
二人はニッコリ微笑んだ。
コノちゃんとおーちゃんは、美人だ。
歩いてると、いろんな男の子が声をかけてくる。
背は高いし、スタイルだっていい。
おーちゃんの両親は、共にバンドマン。
でも、おーちゃんは業界には全く興味がないらしい。
コノちゃんこと
ややこしいんだけど…
コノちゃんのお兄さんである
そして、うちの父さんとコノちゃんの父さん、おーちゃんのお母さんも同じバンド。
あたし達三人は、まさに…家族ぐるみの付き合いと言ってもいい。
あたしは…
せめて160cm欲しかったな…って思わせるほど特徴なくて。
顔だって、そんなにハッキリした美人じゃない。
なのに、なぜか女優をしてる。
とくに、今回はなぜかヒロインだ。
これぞ七不思議。
そもそも、あたしと
父さんがキーボードをしているそのバンドは、SHE'S-HE'Sという有名なバンドで。
なぜか、身内が多い。
そして、さらに身内を増やそうとしている。
「あとは、うちと島沢家だけね。」
これが
そして、当然のようにおーちゃんにも許嫁がいる。
自他とも認める遊び人のおーちゃんは、いろんな人とつきあって。
「あんな、さえない奴、食えないよねえ。」
なんて言ってた許嫁、
あたしは…
全然、片思い状態。
あたしがお弁当を持って行くのを、事務所で黙々と食べてはくれてるけど…美味しい、とも…嬉しい、とも…言ってくれない。
別に、見返りを期待して作ってるわけじゃないけど…でも、やっぱり少しは反応が欲しい。
手もつないだことない。
一緒に歩いたこともない。
こんなので…許嫁だなんて…
「ね?
「…え?」
ふいに、おーちゃんの声で我に帰る。
「もう、聞いてなかったのぉ?」
「ごめんごめん。」
「
「…
「別に、いいのよ。あんな奴。」
「…ケンカでもしたの?」
「も、最低。捨ててやるんだ。」
「……」
こんなこと言いながらも。
おーちゃんと
いいなあ…
ケンカできるほど仲良くて。
「あたしには、そんな許嫁とかいないからね?」
コノちゃんが、笑顔であたしに売り込む。
「嘘付けー。」
おーちゃんが、逆襲。
「何よ。」
「まあまあ…いいから。」
「あ、あんた時間ないよ。」
おーちゃんが机に頬杖ついて時計を見た。
「え?あ、本当。ノートありがと。」
「うん。じゃ、頼むねー。」
カバンを持って教室を出る。
今日は午後からドラマのスチール撮影。
控え室に入る前に、
…あーあ…
早く、恋人同士になりたいな…
そう思う、島沢佳苗、17歳です。
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時空列が前後してるので、不可解な事が多いです。
おまけに相関図が鬼です。
引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m
* * *
「お、なんだ。今日の弁当は大きいな。」
事務所。
DEEBEEのプライベートルームをのぞくと、イトコの
「あ…なんか作りすぎちゃって…」
「いいなあ、
…
この夏、赤ちゃんが生まれた。
19歳にして…一児のパパ。
お相手は、みんなの集いの場『ダリア』の娘さん。
…身近な人が結婚したら…憧れとか…ないかなあ?
なんて。
少し期待もしてる。
実際あたしは…
コノちゃんが『あたしの甥っ子、見る?見ちゃう?』って見せてくれた『
って。
全然進展ないクセに…ね。
「あ、じゃ…あたし仕事に…」
「
「…何を。」
そんな低い声が返ってきて、あたしは。
「あ…い、いい。もう時間ないから…」
…ふう。
わかってはいたけどー…少し期待しちゃったな…
…見返りなんて、期待してないって自分で言い聞かせてるものの。
やっぱり…どこかで期待しちゃってる。
だって、
突然人気が出始めたから、あたしは…不安。
ただ、おーちゃんが言うには。
「性格に問題ありよ。」
なんだけど…
あたしには、小さい頃のイメージしかなくて。
毎日、こうやって冷たくあしらわれても…好き。
「
あたしのプライベートルームの前。
マネージャーの田村さんが手を振ってる。
「すみませーん。」
息を切らしながら、考える。
明日のお弁当…どんなのにしようかな…。
* * *
「よろしくお願いします。」
スチール撮影。
今回の役柄は、片思い中の高校生。
相手は、今をときめく
あたしは、彼に片思いをする役なんだけど…
その設定が、恐ろしいほど今のあたしの状態に似ている。
幼馴染で歳上の大学生。
周りには公認の仲って冷やかされるものの…いつも冷たくあしらわれてるっていうのが現状。
何だか…今の自分にかぶり過ぎてて、三話目までの台本を読んだ時は苦笑いをしてしまった。
せめてドラマの中でだけでもハッピーエンドになれればいいけど…
「はーい、じゃ
ギンガムチェックのスカートの制服。
桜花とは違う制服。
何だか新鮮だなあ。
「
「あ、はい。」
指示された通り、あたしは
…切ないなあ…
そう言えばあたし、
事務所では…いつも横顔と後ろ姿だけ…。
「はい、いいよー。じゃ、違うカット。」
…あたしが女優になることになったのは…
小学生の時の学芸会がキッカケ。
若草物語の三女役をやったあたしに、
「女優にでもなれば。」
その言葉は、将来の夢っていう作文がいつも書けなくて悩んでたあたしにとって、『神のお告げ』以外の何物でもなくて。
そのお告げ以降、あたしは女優を目指してここまできた。
「はーい、じゃ、ちょっと抱き合ってくれるー?」
……
「だっ…抱き合う?」
声が、ひっくり返ってしまった。
スタジオは一瞬爆笑の渦になったけど。
「
カメラさんの声で、少しだけ冷たい笑いになった。
「は…はい…」
情けない。
そうよ、仕事だもの。
色んなことがあるに決まってる。
今までのドラマでは、あたしは誰かの妹役って設定が多くて。
当然ながら…抱き合うなんてシーンは一度もなかった。
だけど、主役に抜擢された…って事は。
今までの殻を破らなきゃいけないし、そういうチャンスだとも言える。
「よろしく。」
少しだけ鳥肌がたってしまったけど…仕事仕事。
この際だから…
…ちょうど、同じくらいの身長かな…
そっと、目を伏せて…片桐さんの胸に体を預けると。
「……」
なぜか、周りが静かになってしまった。
「?」
不審に思って目を開けると。
「あ、ああ!ごめん。もう一回、今みたいな感じでねー。」
シャッターがおりる音。
あたしは目を閉じたまま…男の人の胸って、広いなあ…なんて。
そして、これって、
ボンヤリと、そんなことを考えていた…。
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