第7話 そのあと―
「そういえば、」
実がディオゲネス・クラブのNO.1ホストに変身して、髪の毛を整えるために鏡をのぞきながら言う。
「お前さぁ、エミリちゃんの話を聞いてからずっと歌ってるけど、なんだ、それ?」
一華が荷物であふれかえっている机―デスクトップパソコンやら、資料が乗っている机は一華の机だった―から、入り口近くにかけている鏡の前の実を見た。
「歌?」
「ああ、右手、左手ってやつ」
「あぁ……知らない?」
「知らねぇ」
「アブラハムには七人の子、一人はのっぽであとはチビ、みぃんな仲良く暮らしてる。さぁ踊りましょ。右手、右手。左手、左手。右足、右足。左足、左足。頭。お尻。回って。おっしまい。
って、保育園で習ったけど」
「幼稚園では習わなかった」
「なるほど。そういう体を動かす童謡だと思う。
いやぁ、油井 公人とエミリさんが紙に書いた時にね、油と、ハムに見えて」
「ハム?」
「公人の公の字。ハムだろ?」
「あ? あ、あぁ。……くっだらねぇ」
「アっブラハムにーはしっちにんのこぉ」一華は歌いながら給湯室へ行き、やかんを火にかけた。
実は首を振って、「それは、ヒカル、行ってきます!」と声高に出て行った。
一華は誰もいなくなった―社長である白戸はすでに部屋に行き寝ているだろう。まだ、夜の七時だというのに、あと、二時間ほどして、起きてきて、年寄りは早寝、早起きなんだ。というのだ。面倒くさい。
一華の口の端が動く。
「めんどくせぇ」もし、エミリが言わなかったら、今回の話は聞けなかっただろう。
「例えば、こんなふうに、何気ない言葉に引っかかり、何気ないものに興味を抱いたりすることがあれば、あなたも考古学が好きになるかもしれない……言い文だ」
一華は席に着き、キーボードを叩いた。
春休みに大学内で展示する考古学の勧めの締めの言葉だ。
「うん。悪くない」
そして、誰も、いなくなれ 松浦 由香 @yuka_matuura
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