【KAC3】今日、僕は僕を育ててくれた愛する母さんに殺される

@dekai3

ラブコメの彼岸

 今日、僕はこの世から消える。

 僕を育ててくれた愛する母さんの手によって。





 僕は他の子供達と違って特別だった。


 他の子供達とは違う場所で育てられ、他の子供達とは違う物を与えられ、他の子供達よりも快適な温度で管理されていた。

 他の子供達は僕みたいな特別な奴が居るなんて知らなかったと思う。

 僕が育てられた場所は他の子供達よりも高い所にあって、お互いに姿は見えなかったけれど、下から聞こえてくる声で僕は僕以外にも子供が居るという事を知っていた。


 そして、下に居る子供達は銘々に

『狭い』とか

『足りない』とか

『寒い』とか

 凡そ僕が感じた事の無い感情を次々に口にしていた。


 それを聞いた僕は


『どうしてああいう事を言うのだろう?』


 と思ったけれど、母さんが時折


『お前は種から選別した特別なんだぞ。立派に育つんだぞ』


 と言っていたので、僕は下に居る彼らとは違って特別なんだという事を理解していた。


 母さん以外にも何人かの人が僕を見ては驚いたり喜んだりして


『下のとは全然違う。成長が楽しみだ』


 と言っていたから、僕は下の子供達よりも優秀なんだなって事も理解した。





 ある日、下が騒がしい日があった。


 子供達の中で病気にかかったのが居て、少なく無い数が死んでしまったらしい。

 原因は『ムシ』だとか『ウイルス』だとか言っていて、背中に機械を背負った人達が何人も下に降りて行くのを見た。

 そして、何かを噴射する音と子供達の悲鳴が夕方まで聞こえた。


 その時の母さんはいつもはしない怖い顔をして僕を念入りに検査していて、異常が無いと分かると『良かった』と言って笑った。

 念のためにという事で機械を背負った人達は僕にも手に持った筒を向けていたけれど、『この子は私がしっかり管理するから』と言った母さんによって止められていた。


 子供達はどうして死んだのか、あの機械は何だったのか、それは今になっても分からない。

 きっと、僕は知らなくていい事なんだと思う。


 そして、この日から僕は、僕をこんなにも大事にしてくれる母さんの為に生きようと決心した。

 母さんが向けてくれる愛情に応える様に、僕も母さんを愛する様になった。





 そこから、母さんは毎日僕の様子を見に来た。


 母さんは僕の世話をしながら色んな事を話しかけてくれて、それでここに居るだけじゃ知るはずも無かった様々な事を知った。

 この場所以外にも色んな人が住んでいるとか、僕みたいな特別な子供は他の場所でも育てられているとか、海とか、山とか、母さんが住んでいる家の事とか。

 僕はそれを聞くことしか出来なかったけれど、母さんが期待するような目で僕を見ながら話しているのを聞くのはとても嬉しかったし、母さんも楽しかったんだと思う。


 こんな幸せな時間が何時までも続けばいいと思っていた。





 どれだけ時間が過ぎたのだろう。僕は頭が大きくなり、まともに立っていられないぐらいに成長していた。

 それでも母さんは毎日僕を見ては喜んでいたし、きっとこれが母さんの臨む姿なんだと思う。母さんは毎日僕を見て喜んでいる。

 とても重くて苦しいけれど、母さんの為になら耐える事が出来る。


 でも、今日はまだかあさんの姿を見ていない。

 ああ、あたまが重い。

 倒れてしまいそうだ。

 たすけて欲しい。

 かあさん。

 助けて。

 たすけてよ。

 母さん。

 母さん。


 かあさ





 気が付くと、僕は母さんに抱えられていた。

 母さんはしきりに「ごめんね…ごめんね…」と呟いていて、周りの人達は僕の体に何かを取り付けている。

 まだ頭は重いし、破裂しそうで苦しいけれど、母さんを悲しませたくない。

 だから泣かないでよ母さん。ほら、僕は大丈夫だから。

 母さんの為になら耐えられるから。

 ね、泣き止んでよ母さん。


 愛しているよ。

 母さん。





 また暫く経った。頭は更に重くなった。

 でも倒れる事は出来ない。

 愛する母さんがまた悲しむから。


 少し前に僕へ送られる栄養が止まる事があった。

 他の人間達の仕業だ。

 母さんは怒って抗議をしていたけれど、数日は栄養が戻る事は無かった。


 だけど、それは僕にとって致命的な事では無かった。

 今の僕は栄養の補給が多少出来なくなった所で困りはしない。

 枯れ細るのではなく、逆に体を太く丈夫にさせ、耐え抜いてやった。


 こんな事で死ぬわけにはいかない。

 愛する母さんの為に、僕は生きるんだ。 





 季節が巡り、母さんが僕に合いに来る回数が減った。

 代わりに他の人間達が僕の世話をするようになったけど、僕は母さんがいい。

 母さんは僕の事を愛してくれている。僕も母さんを愛している。

 お前たちじゃない。母さんに合わせろ。





 少し経ち、愛する母さんが僕に合い来てくれた。

 母さん、合いたかったよ。あいつら母さんが見ていないからって母さんの事を悪く言って居たんだよ。

 『まだまだ手が甘い』とか『若いのに頑張っているが技術が追いついていない』とか『ワシらに任せればいいのに』とか。栄養も一週間前にまた止められたけど、僕はそんな事じゃ死なない。母さんの為ならなんだって耐えられるよ。それに僕は母さんの子供なんだから母さんが僕を育てるのは当たり前じゃないか。そうだよね?母さんは僕を愛している。僕だって勿論母さんを愛している。だったら母さんと僕は一緒に居るべきだ。それなのにあいつらったら…

 え、どうしたんだい母さん?今日は嬉しい事があったのかい?そんなに笑って。

 その手に持っているのは何?その光を反射する尖った物は?

 何?何だよ、収穫ってなんだよ。何だよ母さん、止めてよ、足を掴まないでよ、痛いよ母さん!切れてる!足が、足が切れてる!!痛い!痛いよ!!どうして?母さんは僕を愛していたんじゃなかったの!?僕も母さんを愛していたのに!母さん!なんでそんな笑いながら!かあさん!止めっ!母さん!!!





 これが十日前にあった事。

 そして今の僕は日の当たらない場所に放置されている。

 もう頭の重さも足の痛みも関係ない。


 どうして愛する母さんにこんな事をされたのか分からない。

 僕は愛する母さんに愛されていなかったのだろうか?

 いや、そんなはずは無い。愛する母さんが僕を愛していないはず無いじゃないか。こんなにも僕が愛する母さんを愛しているのだから。


 この後、愛する母さんは僕の体をバラバラにして、皮を剥ぐんだそうだ。

 それが愛する母さんの望んだことなら、僕は受け入れよう。

 僕は愛する母さんの為に産まれてきたのだし、愛する母さんの為ならなんだって出来る。


 愛しているよ、愛する母さん。


 今日、僕はこの世から消える。

 僕を育ててくれた愛する母さんの手によって。





※ ※ ※





 ッピーーー!!


「炊けた?炊けた?炊けたーー!!お母さん、しゃもじしゃもじ」

「もう、本当にこの娘は。ほら、茶碗落として割らないでね」

「割りませーん。大丈夫でーす。あちち」

「お、炊けたか?ワシにもくれ」

「まずは私からですー。このために夏休み中ずっとお世話してたんだからね」

「種籾の厳選、田んぼの位置は一番最初、無農薬で手植え手で狩り入れだったか?農協に売る米には出来んわなぁ」

「どうせ自分達で食べるならおいしいお米食べたいじゃん?さーて、まずは何もかけずに……おいしーーー!!」

「ああもう、もうちょっと落ち着いて食べなさい。逃げたりしないんだから」

「超おいしい!いやー、自分で育てたお米っておいしいわぁ。もうお米ラブ!ラブ・米!!」

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